荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第4話 赤い悪魔【前編】1

 フィリップと別れ酒場へ戻る死神、スイングドアを開け店内に入ると帰りを待っていたマリアが待っていましたとばかりに死神に「お帰りなさい!」と声を掛ける。

「ねぇねぇ! フィリップのだんなと何話してたの?」

「何でもありません、世間話をしていただけです」

 先ほど座っていた席に着くとさっそくマディソンが死神に質問を投げ掛けるが、死神はマディソンの質問を軽くかわした。

「えーっ! 別に教えてくれたっていいじゃないか! だんなは“世間話”って言ってるけど、本当は暗殺事件の話してたんでしょ? あっしたちにくらい教えてよ~誰にも言わないからさぁ」

 “誰にも言わないから”と迫るマディソンに死神は少々呆れた様子で口を開く。

「マディソン……仮に自分が“殺し”をしていたとして、あなたのような胡散臭い人物に喋るとお思いですか? そもそも自分の犯行を他人にベラベラ喋る殺し屋などいません、バカも休み休み言ってください」

「うっ……確かにそりゃそうだ……悪いねぇ、だんな! あはははは! ……でもなぁ……」

 死神の正論にマディソンは表面上は納得したようだが、腹の中ではまだ疑念を抱いているようだ。マディソンが自分を疑っていることを感じ取ると、死神はニヤリと不気味に笑う。

「これ以上詮索すると……どうなるかわかりませんよ?」

 しつこいマディソンに死神はそう釘を刺す。顔は笑っているが、彼を見るその目は笑っていない。笑っていない上に殺気を帯びている。死神の鋭い視線と脅しとも取れる言葉にマディソンはゾッと顔を青ざめ背筋を凍らせると、それ以上は何も言わなくなった。

「わかればよろしい。……長生きしたければ、今後は身の振り方を考えることです」

 マディソンを黙らせると、死神はバーテンに酒を注文する。それを見たマリアも「バーテンさん! マリアにもミルクください!」と便乗した。注文を受けたバーテンがカウンターでふたりの飲み物を用意するとテーブル席まで運び「はい、どうぞ」とふたりの前に置く。

 そのとき、スイングドアが勢いよく開くとニコラスが入って来た。ニコラスは店内を見回し奥のテーブル席に座る死神たちを見つけると彼らに歩み寄って来る。それに気づいたマリアが「あっ! ニコラスさん、おはようございます!」と元気に挨拶をする。ニコラスはマリアの挨拶に「おう、おはよう」と返すが、いつもと様子が違いその表情は険しい。そしてニコラスは死神の横に立つとバンッ! と、テーブルに手をつき一拍間を置いて話し掛ける。

「死神、お前に訊きたいことがある。一緒に保安官事務所まで来てもらおうか」

「……訊きたいこと?」

 保安官のニコラスが死神に会いに来た理由などひとつしかない。昨夜の事件のことだ。

「昨夜のハリー=ウィルソンの暗殺事件の件ですか? ……その件なら自分は無関係ですよ」

「お前が無関係かどうかは、これから行う取り調べと捜査でわかることだ。いいから来い」

「……」

「そっ……そんな! 先生!」

「……わかりました、事務所まで参りましょう。マリア、あなたはここでお待ちください。……心配は無用です、事務所で少々話しをして来るだけですから。では、参りましょうか」

 戻って来たのも束の間、死神は再び席を立つとニコラスと共に酒場を出る。不安に駆られたマリアは「先生!」と叫び急いで死神の後を追う。死神を追いかけるマリアを見れば「あっ! お嬢ちゃんダメだって!」とマディソンも慌てて後に続いた。


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