荒野の死神【ハロウィンパロ】

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@shizukani_0522

Act4 森の奥に棲む吸血鬼

 被衣を纏い“女”に化けた私は、フィリップさんと共に城内へ突入した。森よりも暗い城内はしん、と静まり返っており、人の気配は感じられない。――囚われている女性たちは全員別の場所にいるのだろうか? もし、そうならかえって好都合だ。彼女たちを吸血鬼との戦いに巻き込まなくて済む。

「ついにここまで来たか……待っていろ色ボケ吸血鬼め。今すぐ会いに行ってやる」

「玉座の間はすぐそこです。……あぁ……胃が痛くなってきた……」

 フィリップさんが玉座の間の重い扉を開けると中へ入り、私も後に続く。天井が高く、広々とした部屋の奥には足を組みながら不敵な態度で玉座に腰掛ける老人がひとり。恰好から察するに、この老人が例の吸血鬼に間違いなさそうだ。私とフィリップさんはゆっくりした足取りで吸血鬼の傍へ歩み寄ると、その不機嫌な顔を見つめる。――フン、これは確かに噂に違わぬスケベ面だ。

「やっと帰って来やがったかクソ犬。首を長くして待ってたぜ。――で、そいつは?」

「い、生贄の女性です。どうやら村人たちが匿っていたらしくて、一緒に来て頂きました」

「生贄だと!? ……あんのカスども~! この俺を欺こうとしやがって! 許さねぇ!」

「ま! まま! 抑えて抑えて! いいじゃないですか、こうして来て頂いたんですから……」

「チッ……それにしても、随分と背の高い女だな? まるで“男”みてぇだ」

「……。……フフ……フフフフフ……そう、お前の思惑通り私は“男”だ」――言葉と同時に私は纏っていた被衣を脱ぎ払う。突然、現れたに吸血鬼は驚愕の声を上げた。

「お、お前は――狩人ハンター!? なぜ、狩人がここに!? ――そうかフィリップ! てめぇか、こいつをここまで連れて来たのは!? こんのクソカス駄犬があ~! 本編でも裏切った上にパロディでもこの俺を裏切りやがって~! 絶対に許さねぇ! 生きたまま挽肉機にかけてやる!」

「ひぃっ!!」

 フィリップさんは短い悲鳴を上げながら飛び上がると、咄嗟に私の後ろに隠れた。……ブルブル震えながら丸くなっているその姿は完全に恐怖に怯えている“仔犬”である。――というか吸血鬼、メタ発言はやめろ。ちゃんと台本通りに喋れ。

「おっと、そうはいかんぞ吸血鬼。フィリップさんを挽肉機にかけるのは私の役目だ!」

「はぁ!? なに言ってんだこいつ!?」

 ふたり同時に“同じツッコミ”を入れるとはさすが親子……いや、ここパロディでは他人同士という設定だったか――褒めてやりたいところだ。

「……さて、話を戻すが吸血鬼。今すぐ監禁している女性たちを全員解放しろ。そして、二度とトルカ村には手を出すな。そうすれば命は助けてやらなくもないぞ?」

「はぁ? なに言ってんだこのクソ狩人が。そんなメスガキでもツバ吐いて中指おっ立てるようなつまらねぇ“口説き文句”でこの俺が素直に『はい、わかりました。言うとおりにします』なんて言うと思ってるのか?」

「もちろん、思ってはいない。第一、話が通じる男だったらこの事件ももっと早く解決しているだろう。……そうか、忠告を聞く気が無いのなら、やはり戦うしか道はないな」

「俺と戦う? ハッ――随分と自信たっぷりじゃねぇか。お前がどれ程の実力を持つ狩人だかは知らねぇが、俺をそこらへんのクソカス吸血鬼と一緒にするんじゃあねぇぜ? この俺、ハリーは吸血鬼の帝王ヴァンパイア・ロード、つまり――吸血鬼の中でも最も位が高い。お前のような人間――ましてやひ弱な男が天変地異が起きたって勝てる相手じゃあねぇ。そっちこそ、逃げるなら今のうちだ」

「私に後退という言葉は無い。さぁ、かかってこい吸血鬼、お前をふりかけにして村の雑貨屋で販売してくれる!」

「ハッ! イイ度胸してんじゃねぇか! 気に入ったぜ、お前。――いいだろう、この吸血鬼の帝王ヴァンパイア・ロードハリーの力をお前に見せてやる。絶望に震え、泣き叫ぶがいい!」

「泣き叫ぶのはお前だ、吸血鬼。お前を殺し、しもべのフィリップさんを手に入れて、私は永遠に“殺戮”を愉しむのだ! フフ、フフフフフ……アハハハハハハッ!!」

「……。フィリップお前とんでもなくヤバいヤツ連れて来たな!? 誰がどう考えても俺よりこいつの方が超弩級の悪党じゃねぇか!! お前の人選いったいどうなってんだよ!?!?」

「だって、この人しかいなかったんですもん!!」

「話は終わりだ! 死ねえぇぇーっ!!」

 叫びながら吸血鬼にボウガンを向けたそのとき――。

「チョット待ったーっ!!」

 突然、玉座の間に響いた聞き慣れない声――私とフィリップさんは声がした方へ振り返ると、扉の前にひとりの男が立っていて、こちらへまっすぐ歩み寄って来る。身長2mはあろうかという巨体の厳つい老人。――よく見ると、この色ボケ吸血鬼ハリーと同じ恰好をしている。違っている部分といえば、シャボに付いているブローチとマントの裏地の色くらいだ。……まさか、新手か!?

「……誰だ? お前は?」

「俺はゴードン。この城の地下で1000年の眠りについていた“吸血鬼の始祖”で先代の城主だ」

「何!? 吸血鬼の始祖だと!?」

「えーっ!? 始祖様!?」

 “想定外”の人物の登場に、私とフィリップさんは思わず互いの顔を見合わせる。

「てめぇ親父! なぜ今になって起きてきやがった!? アンタが眠りについてからまだ100年しか経ってねぇぞ! さっさと地下の棺に戻ってあと900年グッスリ寝てろ!」

「小便がしたくなって起きたんだよ。――で、用を足して戻って来たら、玉座の間から何やら言い争う声が聞こえてきて、様子を窺ったらお前たちがいたから声を掛けたんだ」

「そうかよ。けどな、俺らは今、大事な話の真っ最中なんだ。アンタの出る幕はねぇ、さっさと地下に戻って寝ろ」

「そうはいかない、俺には諍いを止める“義務”がある。――それでハリー、なぜお前たちは諍いを起こしているんだ? 正直に答えろ」

「なぜ? そこのクソ狩人が俺を殺すなんて戯言ほざきやがるからさ」

「……お前を?」

「そうだよ。ふもとのトルカ村の連中に頼まれたんだとよ。まったく、ご苦労なこって」

「そうなのか?」

「そうだ。この色ボケ吸血鬼が数年に渡ってトルカ村の村人たちを苦しめていて、とうとう困り果てた村人たちが藁にも縋る思いで、この私に討伐を依頼したのだ」

 私の言葉を聞いた途端、始祖の表情が動いた。――どんどん眉間に皺が寄っていく。

「トルカ村の村人たちを苦しめている――だと?」

「そ、そうなんです。……毎年、いや、もう気分で村から若い女性を“生贄”として献上させていて、新しい生贄を取れなくなったと知るや否や、僕に村を滅ぼして来いと命令するんです!」

「何だと!? ……生贄……それは本当なのか? ハリー」

「別に生き血を啜る為に献上させたわけじゃねぇ。このクソ犬フィリップがあまりにもヘタレだから、こいつの負担を減らす為の“使用人”として城で働かせているだけだ」

「だから、それはご主人様の人使いが荒いせいで――!」

「はぁ!? 人のせいにしてんじゃねぇよ! てめぇが単に根性無しなだけだろ!」

「いーや、ご主人様のせいです! ご主人様にもっと“思いやりの心”があれば、こんなことにならずに済んだんです! 全部、ぜーんぶご主人様のせいだ! この人でなし!」

「何だとてめぇ! クソ駄犬の分際で、この俺に楯突きやがって~! 許さねぇ!」

「黙れ、ふたりとも!!」

 始祖の鼓膜が破れそうなほどの怒号に、ぎゃあぎゃあ言い争っていた吸血鬼とフィリップさんはビクッと肩を震わせると、気まずくなったのか、黙り込んでしまった。

「……」

「ハリー、俺が1000年の眠りについているのを良いことに、随分と好き勝手してくれたようだな。召使いに対する横暴な振る舞い、あまつさえ村人たちまで苦しめるとは言語道断だ! お前なんかに留守を任せるんじゃあなかった。……さて、ハリー。“覚悟”は出来てるんだろうな?」

 鬼の形相でボキボキと指を鳴らしながら迫り来る始祖に、吸血鬼の血の気がどんどん引いていくのがわかる。……これはもう、私が出る幕も無さそうだ。――安心して死ね、吸血鬼よ。

「このバカ息子が!! この俺が直々に灸を据えてやる!!」

 大地が震えるような怒号と共に怒りを爆発させる始祖――玉座の間に、吸血鬼の断末魔の叫びが響き渡った。


***


 ――かくして、騒動は突如乱入してきた始祖のお陰ですべて丸く収まり、古城の外。私はフィリップさんと始祖に見送られていた。――ちなみに、あの色ボケ吸血鬼に囚われていた村の女性たちはというと、もちろん全員無事で、後日、ふたりが責任を持って村まで送り届けるそうだ。彼らなら信頼出来るし、安心だろう。

「ジェフさん、あなたのお陰で助かりました。どうもありがとうございます」

「いえ、私は何もしていませんよ。礼なら、あなたの隣の始祖に仰ってください」

「ハハハ。……あぁ、ハリーのバカは罰として300年くらい棺の中に閉じ込めておくよ。まったく、バカな息子を持つとおちおち眠ってもいられないな。……この数百年ずっと仕事漬けで、やっとマトモに休めると思ったのに」

「フフ……心中お察しします。――では、フィリップさん、始祖、さようなら。お元気で」

「えっ」

「もう行ってしまうのか? せめて、息子が迷惑を掛けたお詫びをしたいんだが」

「結構です。そのお気持ちだけお受け取りします。それに、私にはまだ“やらなければならないこと”がありますので、のんびりしてはいられません」

「……そうか、それなら仕方ないな。残念だが」

「えぇ。――フィリップさん、これから新しい主人の元で頑張ってください」

「はい。ジェフさんも、頑張ってください。……悪い意味で、あなたのことは忘れません」

「フフフ……」

 最後にフィリップさんと、始祖と、固い握手を交わすと私は踵を返して歩き出した。――私がやらなければならないこと、それは……。

「待っていろ、トルカ村の長老め。――今、“お礼”をしに行ってやるぞ……」


荒野の死神【ハロウィンパロ】 fin

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