転生少女は白と黒の明日を観る

照乃 ☾teno☽︎~actorfox~
@Lost_a_heart

#5 神社と街

 ――また夢を見ている。


 いつもの教室。無機質な空気は相変わらずで、きれいに並ぶ椅子と机と僕しか存在しない。

ゆっくりと、またゆっくりと、僕は瞬きをする。三回目の瞬きを終えると、また今の僕が目の前に立っていた。少し、大人びている気がする。背は一回り高くなり、髪も若干長くなっているが、仮面をしていて顔は見ることができない。


 目の前の僕はクスッと笑って、自身の後ろにある席の椅子をこちらに向け座った。


「自分と向き合って座るってのは、なんだろう。鏡を見てるみたいだな。」


 少女はそう言ってまたクスッと笑い、少しして笑顔を保ちつつ表情を引き締め、何か企んでいるような顔をして話し始めた。


 少女は自分のことを「僕も君も元をたどれば同一の存在だ。だけど、選択による分岐点タイターポイントによって分岐した違う世界線に並行して生きる一つで数多の存在の一つなんだ。」と言った。




 エヴェレットの多世界解釈というものがある。一つの世界がいくつもの可能性のパターンによって分岐し、多数の世界が無限に存在するという解釈の一つ。そして、その分岐した世界の歴史の一筋の流れを”世界線”と呼ぶ。彼女はそのどこかで分岐した世界線に生きる、もとは僕だけど違う歴史を歩んでいる別のパターンの僕。ということだ。


 世界線はこの世界に転生する間だけでも既に何度も分岐している。影響が大きいところなら最初に、転生するかしないか。ゴブリンロードとの戦いも、どこかで判断を間違っていれば・・・と考えると、もうこの世界では亡き者になっている世界線もあるかも知れない。目の前にいる僕は、どこで分岐した自分なんだろう。ふとそう思って聞いてみたが「どこでもいいだろ」と僕らしく返ってきただけだった。


「ところで、新しい人生(?)。不安は無い?」


ふいに彼女は問いかけてきた。そんなの、無いわけない。この世界で生きていくにはまだまだ知識も技術も無い。


「それじゃ、そんな君に助言をしよう。」


そういって彼女は指を二本僕に突き出した。


「一つ、相棒を大切に。二つ、本は信用してはいけない。これだけはいつでも忘れないようにしてくれ。」


 相棒というのはクロのことか。本は・・・オブサバ?それともただ単に本?


 彼女は言い終わると、「んじゃ、また。」と言ってさっさと教室から出て行ってしまった。

 

 教室に授業の終わりのチャイムが反響した。


―――――――――――――――――――――――――――――――


 僕たちは昨日ゴブリンロードを倒した後、死体処理(僕の食事)をして先に進んだ。僕はいつでも食事にありつけるのだが、クロがそろそろ限界という感じで歩くペースが落ちてきた頃、朽ちかけた神社を見つけた。形は神社だが中は空で、何かが祀られている様子もなかった。僕たちは社の中にあがったすぐそこで、まだ昼間なのに力尽きるように眠ってしまった。


 起きたのは日の出前。横に寝ているクロは少し顔色が悪い。そりゃそうか。生まれてからまだ何も口にしてないしな。僕はクロから社から少し離れたところにある鳥居の奥に伸びる、雑草に埋もれた石造りの道に視線を移す。もしかしたらこの先に人里があるかも知れない。クロが寝ているうちに食料の調達をできるかもしれない。


 僕はクロを起こさないように、軋む床で音を立てないように神社を出た。


 あの神社。確実に前世に居た世界線の文化だ。似たような建物ならいくつでもあるだろうけど、あそこまで酷似しているとなるとほぼ確定だろう。となると、昔僕の他にも転生した人がいるということになる。生きている保証はないけど、転生者も後に会えたらいいな・・・。

 

 もう30分くらい歩いただろうか。相変わらず石造りの道と雑草とそれを囲む木が続いていて、そろそろゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。

 日が出てきて、木々の隙間からは木漏れ日が差し、それに気付いた鳥達が互いにさえずり合い日の出を知らせる。とてものどかだ。こんな光景、都市化が進んだ日本じゃなかなか見れないだろうな。僕が住んでいたところはそこそこ田舎だったが、それでもこんなのどかな風景はかなり減ってしまった。

 自然が残っている事はもちろんいいことかもしれないが、僕らにとっては良くも悪くもある。考えられることとしては、自然に手が加えられていないという事は人間達の文明がそこまで進歩していないのではないのだろうか?それか、魔物モンスター達の勢力が優勢で、森に手が出せないのでは?後者ならいいかも知れない。unknownの僕らは分類でいえば魔物。同種が優勢なのはこの先楽だろう。でも、もともと人間の僕らにとっては人間とは友好的関係でいたいけどね。逆に前者ならどうだろう。文明があまり発達してないとなると・・・。ま、今考えてもしょうがないか。


 それからまたしばらく歩いていると木々が薄れ、森が開けた。やっと森から出れた・・・。大きなため息をついて眩しい森の外を見ると、そこは小さい僕の膝くらいの草が一面に広がる草原になっていて、その奥に石で作られた頑丈そうな壁が横に並んでいた。どうやら街があるらしい。その壁の外側には深い堀があり、水が流れている。1ヶ所だけ橋がかかっていて、どうやら検問をしているらしい。

 容易には入れないな・・・。でも、食料を手に入れれるとすればあそこぐらいだろうな・・・。どうしよう。


「君、何してるんだ!?壁外にいたら危ないじゃないか!」


 森の入り口で考え込んでいると後ろから誰かに話しかけられた。振り向くと一人の青年が腰をかがめてこちらを心配そうに見ていた。そうか、僕は外から見ればか弱い幼女。ゴブリンロードあんな奴がいるような街の外、ましてや森の近くにいたら心配するか、普通。


「ほら、おいで」


そう言い、青年は僕の手を引いた。時には幼さも武器になるな。いろいろ想定外だけど街に入れそうだ。

 武器といえばそう、武器が欲しいと思っていた。この世界に来てまだ二日目。会敵回数は1回。転生地点が森なら奇跡的な少なさだと思う。それも僕たちがunknownだからだろう。分かる者は警戒しているんだ。だから偵察にゴブリンロードが来た。それと、僕らの存在が感知されているのは魔物だけとは限らない。人間たちの文明がある程度高いのはあの頑丈そうな壁が物語っている。

 となると、そういった魔法技術もそれなりのはず・・・。この街にも長居はできない。森に拠点を置くことになると敵も増える。黒影もまだまだうまく使えない。それに、技に溺れてあっけなく死ぬのも超ダサい。

 生き抜くためには基礎能力はどれだけでも欲しい。その一歩としては、一番近道なのは武器を手にいれ、それを基盤にしたステ振り修行をするのがいい。前世で溜め込んだ異世界知識。誰よりも最強のニューゲームを果たしている!前世じゃラノベ以外にも、ゲームだってそれなりにガチ勢だったんだぜ?RPGのキャラ育成なんて基本だしそれが醍醐味だ。ふふふ・・・

ボク自身が主人公。オラわくわくすっz・・・


”朝から荒れてるねぇ”


(おっといけね・・・。てかオブサバ、今お前はクロが枕にしてるだろ。こんなに離れてても話せるのか。)


”あの本は、いわゆる情報の保存媒体でしかないんだ。俺の存在意義は観測。どこだって居るようなもんさ”


(へぇ、よく分かんないや。)


「ほら、そろそろ検門だよさっきから何を一人でブツブツ言ってるの?」


「な、何でもない!」


 あぶないあぶない。どうも複数のことに集中するのが苦手なんだ。

 青年はしばらく不思議そうな顔をして、検門の列に視線を戻した。僕たちの前にはあと10人といったところ。その先に人だかりができているのが見える。検門が終わった者がそのまま立ち往生しているのを見ると、なにかトラブルか?

 検門の番が回ってきた。青年は腰につけている革のポーチから金製のカードのようなものを検門のオッサンに提示した。


「にいちゃんたち、しばらくここは通れないぜ?」


「何があったんですか?」


「ついさっき事故があってなぁ。馬車の馬が暴走して、近くで歩いていた獣人の子が下敷きになっちまったんだ。騎乗してた奴は無事で、今警備兵団を呼びに行ったよ。なかなか大型の馬車で、中の荷物が崩れると救助が大変になるから、俺らは下手に手を出さない方がいい。」


 なるほど、人身事故ね。いや、獣人だから人身じゃないのか・・・?僕たちは人混みをぬけて事故現場に来た。馬車は横転し、馬は倒れて泡を吹いている。馬車に乗っていた荷物はロープで固定されているが、溢れそうな荷物に押され今にも千切れそうになっていた。馬車は屋根が気の骨と分厚い布でできていて、幸いその獣人の子は比較的柔らかい布の部分に下敷きになってるようだ。


 夜が明けてからだいぶ経つ。そろそろクロが目覚めてるかもしれない。帰りのことも考えると急がないとな。そのためにはあの馬車はどうにかしないと・・・。むやみに黒影で食べても、今の僕では一度に食べきれないから悪化させる可能性がある。第一、この子を巻き込みかねない。別方向から見てみると、この子はだいぶ奥の方で挟まっているが荷物の重圧に直接抑えられてるわけではなく、布が覆いかぶさり、馬車本体の重圧で布が固定され抜け出せなくなっているのだ。


「え、ちょっと君!?」


 青年を振り払い、馬車に近づく。下敷きになっている子の後頭部と右手が見える。呼吸が弱くなっていて、気絶しているのか動かない。僕は獣人の子に触れないように注意しながら布をなぞり食べていく。


 ちょうど布を切断し終えたタイミングで警備兵団がやってきた。鉄製の甲冑を身につけたTHE西洋の傭兵。って感じ。

それで、後の救助は警備兵に任せることにした。というのも、僕の救助活動を見ていなかった兵達は「危ないよ」と言いながら僕を持ち上げて青年の方へ避けた。


「嬢ちゃん、魔術が使えるのか!?小さいのに凄いねぇ。」


「ありゃどうなってるんだ?」


食い入るように見ていた検問のオッサン含める商人や近隣の中年たちが僕の周りを囲んで子供のように目を輝かせ騒ぎ始めた。


「嬢ちゃん、どこから来たんだい?見ない顔だね。西のエルトロア領かい?」


「えっと・・・、神社。」


「神社・・・?ああ、森の!ってこたぁ嬢ちゃん巫女さんかぁ!?」


「へぇ、巫女さんか!それなら納得だ。」


 まてまてまてまて、噂の一人歩きが本人の目の前で繰り広げられてるぞ。生後2日でそんな大層な職に就けるわけないだろ。でも、巫女っていうのは森の神社に居座る理由としては都合がいいかも・・・。

 警備兵の聞き取りが始まり、集まっていたオッサン達の注意がそれた隙に僕達は門、というか、壁の厚さ分のトンネルを抜けて大通りに出た。白っぽいレンガ作りの家が道に沿って所狭しと並んでいて、まっすぐ伸びる大通りの先にはまた壁と門。その壁に囲まれるように、内側には立派な城があった。


 僕らが通った門の先には大通りに沿っていくつもの店が並び、果物を売ったり衣類を売ったり、武器類を売っている店もあり、その隙間から伸びる複数の広めの路地裏にも露店がいくつも出ていた。

 青年は僕を門を出てすぐの路地裏にある喫茶店に案内してくれた。外装は周りの建物に合わせた煉瓦作りだが内装は木で出来ていて、路地裏なのに開放感のあるお洒落で落ち着ける店だった。青年は朝食セットの焼きパンとコーヒーを2人分ウェイターに頼み、ほっと一息ついた。


「そういえば自己紹介まだだったよね。俺はマキセ・ソラ。最近はこのアルヘイム領のギルド協会に所属してるけど、普段は世界中をフラフラしてる冒険者だ。」


マキセ・・・?それって牧瀬?牧瀬 空?明らかに日本人の名前だ。神社もあるし、そこら辺の文化は前世と似ているのか・・・、それとも・・・・・・。


「・・・僕はモノ。」


 他に紹介をすることが無かった。生まれてから2日目。種族もunknown、言えるわけがない。だが、幸い彼は何も聞いてこなかった。

 青年の言動には少し違和感を感じる。まず、驚かない。最初森の入口であった時も、言葉の中のどこかに冷静さがあった。能力を使った時も何も反応がなかった。見透かされているようでいい気分じゃない。どうせなら情報を貰おう・・・。


「マキセはなんで、その・・・、アルヘイム領に?」


「実はね、シドの森周辺で2000年ぶりに正体不明魔素、つまり種族unknownの反応が感知されたとアルヘイム領のギルドから報告があってね。ここから北西のルマ領から来たんだ。」


 マキセは不敵な笑みを浮かべた。迂闊だった。ダイレクトに墓穴を掘ってしまった。先日のゴブリンロードが魔物側の刺客ならマキセは人間側。僕らは思っていた以上に警戒されていて、それをゴブリンロードの段階で気付くべきだった。


 この男が次に行う行動は・・・?ここで処分しに来るか?いや、どこでかは分からないが僕がunknownだということは知られていた。違和感の原因はそれだった。それならわざわざこんなところで襲ってはこないはず。だが、どちらにせよ僕からは動くことができない。