転生少女は白と黒の明日を観る

照乃 ☾teno☽︎~actorfox~
@Lost_a_heart

#4 お前を食う

 さてさて。突拍子もなく転生して、この世界に産み落とされたわけだが、僕のラノベ知識と一般常識を照らし合わせるとまず、衣食住の確保を最優先するのが妥当だろう。


「おーいオブサバ(本)。僕の万食の黒影アビネスイーターで食べた場合、空腹って満たされるの?」


 ”オブサバて・・・。まあいいや。答えはYesだよ。でも、黒影を出す度に魔力を消費するし、普通に口から食事をしても養分はモノへ。スキル等は共有されるから結果は同じ。ちなみに味覚はどうやら人間寄りのようだ。”


 最後の余談を聞いてクロの顔に明るさが戻った。食い意地は誰よりも強そうだ・・・。


「そっか。じゃあ食べ物と住むところだな。即席でもなんでもいいからとりあえず探索して探してみよう。」


「そうだね。」


 僕たちは探索を開始した。


 今僕たちは、布切れでできた簡単な作りの白い薄汚れた服を着ていて、脆いが人前に出るわけでもないし、やはり衣食住の中でも優先すべきは食と住居。最悪クロの分の食だけ見つかればいい。僕はそこらへんの草木を取り込んで、野宿すればいい。


 本はベルトを伸ばしてくれてクロが背負っている。普通の本よりかなり大きく、体の小さい僕らでは背負って行かなければならないのだが、不思議と軽く、苦にはならなかった。


そういえば黒影ってどうやって出すんだろう。近くに木の枝が落ちている。僕はそれを拾い、手のひらから出てくる闇が木の枝を取り込んでいく様子を想像した。そうすると、肘から指先にかけて薄らと黒いオーラのようなものがにじみ出てきて、木の枝を取り込む、というかチマチマと削るように食べていった。

なるほど、難しいな・・・。どうやらこの黒影、イメージを念ずると動く仕様で、影の強度(?)や濃さは魔力量や出力の加減によるっぽい。慣れれば指先とからピンポイントで出せるようになりそうだが、今の僕には腕全体からぼんやりと出すのが精一杯である。


 一方クロは、両手の平から薄白い光を出して、僕が取り込んだ木の枝を作り出していた。その形は不完全で、所々欠けていたり色が付かずに光のままになっていたりした。それでも、初めての能力で作りだした”作品”を握り締めてとても嬉しそうに見せてきて、僕もなんだか嬉しくなった。

お互いにの能力の練習をしつつ、しばらく歩いていくと、先程よりも木が密集しはじめて濃い森へと続いていた。戻っても意味はない。僕たちは歩みを止めずに森へと入っていった。


 さっきから木々の隙間からちらちらと動く影が見える。おそらく魔物モンスターだろう。それにクロも気付いていて、出来るだけ音を立てないように歩いていた。けど、意味はあまりなさそうだ・・・。


「ちょっと、さっきからこそこそと。僕らに何か用?」


「ちょっ!?モノ!マズいって・・・!」


 クロはそう言いながら僕の後ろに身を潜めた。


 進行方向から少し右にずれた木の陰から、ボロボロの剣と革服を身につけた鼻の丸い丸顔の大男が現れた。ゴブリンだ。

出てくるタイミングからして、言葉は通じるのか。それともただ単に気付かれていたことに気付き、不意打ち又は偵察を諦めて出てきたか。そんなところだろう。それにしても、ゴブリンってもう少し小柄の雑魚モンスターかと思ってたよ。


”それはゴブリンの進化個体、ゴーブリンロードだよ”


 頭の中に文字が浮かんできた。オブサバ、そんなこともできるのか・・・。

っておい!?ゴブリンロードぉ!?最初に会う敵はスライムとかそこらへんので頼むよ・・・マジで!ほら!今の聞いてクロ完全に腰抜かしてるよ!!


”奴に魔力への抵抗能力は備わってない。冷静になれば勝てない相手じゃない。”


 そんな簡単に言わないでくれ・・・。他人事だと思って。

さてどうする。クロの能力は基本僕の飲み込んだものしか作り出せない。そして今まで飲み込んだ道端のゴミじゃどうにかできる相手じゃない。とすると、僕が奴を食べるしかないだろう。


「や、やあ。どういったご要件で?」


 できれば平和的解決が望ましい。希望は薄いけど、言葉が通じればワンチャン・・・


「ウチノ術師ガ、オマエラ無名種族unknownガ突然森二出現シタノヲ察知シタ。」


 偵察しに来ただけか・・・?よかった。テリトリーに入ったから排除。とかではなさそうだ。


「不安因子ハ排除ト、長ノ命令ダ。」


 前言、全力で撤回します。どうやらこのデカブツ、最初から僕らを排除しに来たらしい。そんなゴツイ図体してるなら男らしく正面から来たらどうだ、とも思ったけど、相手は何せ未知数unknown。正しい判断だ。


 いやいや、感心してる場合じゃない。ゴブリンは錆びかけた大振りの剣を構えた。


僕の後ろにはクロが腰を抜かして身動きがとれなくなっていて、下手に動くことができない。


冷静になれ。


ゴブリンロードの目つきが変わった。


音速の世界。


僕は目を見開く。僕の首をめがけて曲線を描きながら剣先が通過しようとする。



ブオオオォォンッ


 鐘の余韻の部分だけを切り取ったような、変な音が響いた。ゴブリンの剣は僕の首を確かに通過し、振り切られて次のモーションへの準備位置に既にあった。が、刀身が半分ほど無くなっていて、その切れ目は赤黒い煙のようなオーラが漂っていた。


 そう。食べたんだ。

作戦は一応あった。今の段階で、僕らからの物理攻撃は奴には十中八九効かない。それに、正面から突っ込んでも迂闊に間合いに入っては自滅するだけ。


なら防御に徹しよう。僕はまだ全身に黒影を出せないが、どこに攻撃されるかさえ見切ればなんとか大まかな位置に黒影を出せる。触れてはいけない敵なんて分かったら為す術もなくなるだろう。


 ゴブリンロードは刀身が半分なくなってしまった剣を何度も僕に振りかざし、僕はそれをなんとか全て食べた。

そしてついに、ゴブリンロードの剣は使い物にならなくなった。

そして次に奴が選ぶ攻撃手段はきっと”肉弾戦”。


 勝った。勝利を確信した次の瞬間だった。

ゴブリンロードは拳を高く振り上げ、僕は構えた。拳なら剣よりも遥かに遅い。食べるなら楽勝。

しかし、その振り上げた拳は僕でもクロでもなく、地面に突き刺さった。ゴブリンロードは突き刺した拳を地面ごと引っこ抜き、大きな岩の塊を作り出して持ち上げた。

さすがにあんなデカいのは全身を黒影で覆わないと防げない。もちろん無理!!!


ゴブリンロードは右足を踏み込み、投げる体勢に入る。これはマズイな。避ける余裕がない。

一か八か、うっすい黒影引き伸ばして覆ってみるか・・・


「グオォォオオオォォォオオオオォ!!!」

一瞬の閃光と同時にゴブリンロードが悲鳴に近い雄叫びをあげた。よく見ると、奴の左腕が二の腕あたりで切断されていた。

クロがさっき飲み込んだ刀身を僕の後ろから何本か作り、飛ばしていたのだ。デタラメに飛ばされたボロボロの剣でも、光の魔力をまとった光速の剣。いとも簡単に腕を切断していた。


(・・・今だ!)


 ここしかない。僕は足に引っ付いているクロを剥がし、ゴブリンロードの懐へ一気に駆け込んだ。

そして突進するかのように、勢いはそのまま、ゴブリンの腹に手を伸ばした。


腕から、一切の光をも通さない真っ黒な黒影が溢れ出した。


僕の手が触れると同時に、ゴブリンロードの腹に直径30cmほどの大きな穴が、ゴポッという音を立ててあいた。そしてゴブリンロードは声も出せず、自分の持ち上げた大岩に潰されてしまった。

「ハァ・・・ハァ・・・」

「当たった・・・。よかった・・・。」

二人共、息を整えるのにしばらく時間がかかった。


こうして、この世界での初戦闘は僕らの勝利で幕を閉じた。