異形のサーカス

ルーフス@低浮上を極める
@Seto_Kurona

異形ノ双子ト異形ノサーカス

「おっと、もうこんな時間カ…」

不意に空を見上げて呟いたのは、八つ足の彼だった。つられた双子も空を見上げる。綺麗な夕焼けだった。

「ごめんね、私はそろそろ行かナイと。

とても楽しかったヨ。ありがとう。」

双子の頭を優しく撫でて立ち上がる。

「それではね、ステキなチェリー。気をつけてお帰り。」

身を翻して細道に踏み込んだ、その時。

「「待っテ!」」

後ろから悲痛な声が聞こえ、それと同時に彼の体が後ろへ思い切り引っ張られた。

驚いて振り返ると、双子が彼の体を必死に抱きしめていたのだった。

「ヤダ、行かナイで〜っ!」

「怖いヨゥ…」

姉は拗ねたような顔で自分を見上げ、弟は顔をぐりぐりと埋めてくる。

無理に剥がすのに気が引けてしまった彼は、2人の頬にそっと手を伸ばした。

「どうしたんだい?私にできることなら、話してみなさい。」

足を折って、目線を合わせてやると、2組の綺麗な瞳が自分を見据えた。

先に口を開いたのは、涙をこらえた弟だった。

言葉に詰まる弟を助けるようにして、姉が繋げる。

そうやって2人の口から紡がれたのは、彼にとっても残酷なものだった。


「なら、一緒に帰ろうか。」

彼のその言葉に双子が目を丸くしたのは、ちょうど日が落ちて空が黒に染まりきった頃だった。

少し下から送られる優しい視線を受けて、目を合わせる。

彼が怖い人間だとは、到底思えなかった。

少ししてから、姉が彼に目線を合わせた。

次に弟も、彼に握られていた左手を握り返す。

2人と視線があった彼は、嬉しそうに顔を綻ばせた。

「それじゃあ、行こうか。」

そういった彼が再び立ち上がって、弟と繋いだ手はそのままに、家路へと歩き出す。

双子が振り返ったのは、彼が街を出ると知ったその時だった。

母との約束は、きっと果たされないのだ。

それでも、もうこの暗闇の中でたった2人待ち続けるのには疲れてしまった。

やっと降り注いだ光が暖かくて、それを失いたくはなかったのだ。

再び前を向いた双子は、彼が合わせてくれている歩幅の間を、少しだけ急いで歩いた。

このままのんびり去っていけば、もっと悲しくなってしまうから。

弟が繋いだ手をもう一度強く握り直すのを姉は見た。

振り返った時に涙をこらえた姉を弟は見た。

体は繋がっていても、いつも仲良しでも、やっぱり2人は違う。

それぞれの気持ちを持って、彼に連れられ歩いた。

そして見えてきたのだ。

“異形のサーカス団”が。

気になった双子がまた足を早める。

それを見た彼がいった。

「サァ、もう着くよ。私の家だ。」

聞いた双子は、心を躍らせた。

少し向こうから聞こえる楽しげな音楽、人々の喋り声、きらめくライト。その全てが、双子の興味を奪っていく。

弟が繋いだ手を離したと同時に、双子は新しい家へと向かって走り出した。

彼は慌てる様子もなく、後ろから見守ってくれた。

テントが近づくと、気がついた団員がこちらへきて出迎えてくれる。

そして彼も加わって、サーカス団は言った。

「「ヨウコソ、異形のサーカス団へ!!」」


ーFin.

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