異形のサーカス

ルーフス@低浮上を極める
@Seto_Kurona

異形ノ双子ト母ノ腕

「ナン…デ?オトー、サン……ッ?」

弟より少しだけ遅れてその姿を捉えた姉が言葉を失う。

『逃ゲロッ!走るンダッ!!』

もう見間違えることのなくなった父の影が叫ぶ。

その他の声の主は、どれもこれも揃って武器を持っているのがわかった。

大きな剣を持って「殺してやる」と叫ぶ影。燃え盛る松明を持って「この化け物」と罵る影。その全てが、双子を恐怖のどん底へと突き落とした。

このままではマズイと、ここにいたら死ぬと、本能が悲鳴を上げている。

弟が引きずりながらもその足で後ずさる。

が。

「ッ、オネーチャン?」

「ソン、ナ……。オト…サン………ッ」

『逃ゲロォッ!!』

「ヤダ…ナン、デ……?」

恐怖に震え上がって動かなくなってしまった姉。今すぐ逃げろと急かす父の声。両側から体を引っ張られるような感覚に、弟も混乱を起こす。

「ッオネーチャン?ハヤク、ニゲないトッ!」

「…ッ……」

もはや言葉すら出てこなくなった姉の肩を揺さぶる。

「オネーチャンッ!」

姉はこっちを見ない。

『早くッ、逃ゲルんダッ!!』

怖いのはもうすぐそこにまで迫っている。

泣きたいのに、涙すら出てこない。もう何もできなくなって、弟はただひたすらに姉に呼びかけた。


それでも何も変わらずに、恐怖は訪れた。


父の体が、目の前で崩れ落ちる。

周りの影が何個か、そこに集まっていって、耳を塞ぎたくなるような父の悲鳴と、罵声。

だんだんと細かくなっていく父から、なぜか目を離せなかった。

「ッ、イヤァァァァァッ!!!」

突然、思い出したように間をおいて姉が絶叫した。

あぁ、動けなかった姉はこんな気持ちだったのかと、弟も理解する。

それから、姉の声に気づいた別の影が、恐怖を引き連れてこっちへやって来た。

もう動くことなどできなかった。

自分たちもあの父のようになるのだと、そう思うしかなかった。

パニックになって、しゃがみこんで耳を塞いで、首を振る姉につられて弟も腰を落とす。

今すぐここから逃げたい。背中を向けて走り出したいはずなのに、目の前の光景から目を離すことはできなかった。

ついに恐怖の顔がハッキリ見えるようになって、自分たちを見下ろす歪んだ目と目が合った。

その手に握った鋭いなにかが振り上げられて、それでもなお、弟の目は恐怖を見つめ続けた。


“ドシャッ”

次に聞こえたのは、なにかが柔らかい土の地面に落ちた音だった。

ざっと自分の体を見ても、なにも変わっていなかった。

見える風景もいつもと同じだった。首も落ちてはいなかった。

じゃあなにが。と辺りを見回した弟は、自分たちの上に何かが被さっているのがわかった。

「エ……?」

自分が、今まで喋り方を忘れていたことを思い出した。

今地面に落とされたであろうそれは、ヒトの腕の形をしていた。

それも、自分たちを優しく撫でてくれた、見覚えのある、細いけれど力強くて美しい、腕だった。

恐る恐る上を見上げる。

見間違いに少しの希望を抱きながらも、その大好きなヒトのものを間違えられる訳はなく。

結局、自分たちの上に、腕を一本無くして立ち塞がっていたのは、紛れも無い母だった。

著作者の他の作品

他サイト『診断メーカー』の診断内の世界観共有のためのものです。ご不明な点...

俺の世界には、いつだって音楽が鳴り響いて止まなかった。楽しい時も、悲しい...