ひかり射す庭にて。

空夢見る水中花

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
キャラベルに登録してログインすると、登場人物の名前をお好きな名前に変更できます。

「はあ…」


思わずため息が出た。練習後に部員たちが汗を流すため、なまえは風呂場を掃除していた。普段から綺麗に使われているようで、あまり掃除に手間がかからないのはいいことだった。手早く済ませて、湯を張ろう。


(合宿、いつまでこんな風なんだろ…)


全く弓を練習できていない七緒たち。一向に仲良くならない海斗と湊。合宿で少しは距離が縮まってくれるのでは、とほんの少し期待したけれども、そんな奇跡は簡単には起きてくれないようだった。


「県大会…、予選すら危ういんじゃ…」


降って沸いた嫌な予感を振り払うように、なまえは念入りにタイルの目地の隙間をデッキブラシで掃除した。







「…お、如月、腕は大丈夫か?」


風呂の準備が一段落したとき、雅貴に呼び止められた。


「はあ、まあ、問題ないです」

「無理はするなよ。君も大事な弓道部の部員だからな」

「…補欠にすらなれませんがね」


あ、言ってしまった。つい卑屈になるのはなまえの悪い癖だった。迂闊な事を言ってしまったかと顔色を伺ってみると、雅貴は気にしていないのかはわからないが、苦笑していた。


「…海斗、湊が嫌いなんだよな」


雅貴も一応は気にしていたのだろうか、そんな言葉がなまえに降ってきた。なまえは海斗の幼馴染だから、それはなんとなく気づいていた。


「…珍しいとは思っていました。海斗、嫌いな人って大体スルーしちゃうんで、あんなに湊くんにつっかかる海斗は、僕も七緒も初めてで、もしかしたら、…」

「もしかしたら?」

「今後、湊くんに対する海斗の態度が軟化するかもしれないし、…しないかもしれない、とは思っています。…どう転ぶかは、わからないけれど」

「そうか、うん、そうかそうか」


なぜそんなに嬉しそうなんだろう?なまえは、このコーチが何を考え、何をやろうとしているのかは全く解らなかった。



「さて、と」


下僕たちが買い出しから帰ってきたら、バーベキューの準備。重たいものは運んでもらうとして、食材を切る準備くらいは先にしておいても大丈夫だろう。


「う、わ、」


急に突風がなまえにふきつけ、通りすぎていった。落ち葉が風にくるくると遊ばれて、遠くへ飛んでいってしまった。空の青さがまぶしくて、なまえは目を細めた。









「…川に落ちた?」


雅貴の呆れた声が玄関から聞こえてきた。帰ってきた下僕たちを女子部員たちと出迎えてみれば、海斗と湊が全身ずぶ濡れになっていた。どうしてそうなってしまったのか。もしかして二人して喧嘩でもしてしまったのだろうか。嫌な予感が再びなまえにふりかかってきた。


「マサさん、湊は悪くない!あと、小野木も!」

「あと、って何だよ!」


遼平の声に海斗が抗議した。


「…喧嘩でもしたのかと思った…」

「違うよ、なまえ。なまえが心配してるようなことが原因じゃないから、ね?」


心配そうななまえの言葉を、七緒は優しく否定した。ほっとした。よかった。海斗と湊の仲が修復不能なくらいにひび割れてしまったら、もう男子の団体戦なんて、泡のように消えてしまうところだった。


「俺の帽子が飛んじゃったんだ」

「、帽子…」


七緒の言葉に、遼平が続く。


「それを湊が追いかけて」

「かっちゃんも、追いかけてって…」


「…散々だな」


雅貴が呆れている。


「海斗も湊くんも、怪我はしてない?」

「ああ、…」

「うん、ありがとう、如月さん」


そのあと、川臭いのをなんとかしろ、と雅貴に言われた下僕たちは揃ってお風呂へ直行。買い出しの荷物を受け取って、女子部員一同でバーベキューの準備にとりかかることにした。


「スペアリブ…」

「…選んだのは海斗かな」

「そうなの?」

「七緒は牛肉が好きなの。でも、海斗は豚が好きで」

「あら、珍しいですね…見た目的には、逆みたいですけど」

「因みにわたしは鶏肉が好きかな」

「全然噛み合ってないね!?」


女子部員たちとわいわい話をしながら、野菜を切り、肉を切り、串に刺したり並べたり。


準備をしながら、なまえは先程の七緒の言葉を思い出していた。


『俺の帽子が飛んじゃったんだ』


七緒の帽子。大事な大事な、七緒の宝物。中学1年生のとき、海斗から誕生日プレゼントにもらったその帽子は、野球なんて全く興味のない海斗からもらったという事が、七緒にとっては何よりも貴重なプレゼントだった。因みになまえは、小さな猫のぬいぐるみをもらった(それは今も大事に枕元に鎮座している)


そんな大事な帽子を追いかけたのが、七緒でも海斗でもなく、湊だった。


(湊くん、…)


いつも海斗に何やかんやと言われるばかりだし、初めて会ったときも遼平から逃げていたし、なまえの中の湊はちょっと頼りない感じの人間のように思えていたけれど、実は、湊は結構しっかりしているのかもしれない。


七緒の帽子を追いかけてくれた湊。その湊を追いかけていった海斗。おそらくそのとき二人揃って川へ落ちてしまったのだろうけれど、



七緒からもう少し詳しく話を聞いてから、改めて湊にお礼を言っておこう。

なまえはそんなことを考えながら、鼻唄混じりに野菜を切っていた。