ひかり射す庭にて。

水夢見る蝶々

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
キャラベルに登録してログインすると、登場人物の名前をお好きな名前に変更できます。

合宿の朝、海斗に起きる時間を聞いてみると、何か別の用事を滝川コーチに頼まれたらしく、嬉しそうな文字が画面に踊っていた。海斗の気分を害してもなあ、と顔を見合わせ、双子はそっとしておこうという結論に至った。


翌朝、合宿の日。

なまえはいつものように早朝の散歩をして、七緒と一緒に支度を整えた。雲ひとつない、いい天気だった。


「…俺、ちゃんと弓の練習できるのかなあ…」

「雑用もするんだよね、下僕たちは」

「それよそれ!なんで俺たち、弓の練習じゃなくて雑用させられてるんだろ…、あっ、やべ!!」


慌てて七緒が部屋に戻る。忘れ物!という少し高い声が聞こえてきた。


「あ、それ」

「うん、やっぱ、忘れたらダメかなって」


赤いベースボールキャップ。海斗からもらったそれは、七緒の宝物で。どんなときでも七緒はかぶっていたし、時折風呂場で洗濯しているし。とにかく一番のお気に入りのキャップなのだ。


「なまえ、しんどかったらすぐ休むんだよ?雑用は下僕に任せてね!」

「…下僕も、ちゃんと弓の練習してよね?」



***



そうして始まった合宿は、端的に言えば女子部員たちの練習と、それを手伝う男子部員(という名の下僕)という構図が出来上がっていた。さすがに気が咎めるのか、女子部員たちからも進言があったのだが、雅貴はどこ吹く風とばかりに、下僕たちにあれこれと雑用の指示を飛ばしていた。


「…僕はそんなに頼りになりませんか?」

「いや、そういう訳じゃないんだけどね、これも大事なことなんだよ」


苦笑しながら、雅貴は弓を的から抜いている下僕たちを見ていた。海斗と湊の言い合い。それに静かに加わる静弥。慌てて仲裁する遼平と七緒。


「もしかして、」


なまえにも何となく解ったようで、見上げた雅貴と目が合う。正解、と言わんばかりに雅貴の目が笑う。


「回りくどいことをしますね、コーチ」

「うん?まあ、…俺が言って直るものでもなさそうだし。こういうのは、あいつらが自分達で切り開くもんじゃないかな」

「上手くいけばいいですけどね」


果たして雅貴の思い通りに事は進むのだろうか。今度は買い出しに行かされるようだ。時間が余れば練習をしていいと言うけれど、その時間もどれくらいになるのやら。


「なまえ~~!疲れた!!」

「お疲れ様、これから買い出しでしょ?」

「かっちゃんを宥めるのも限界があるっしょ…」

「よしよし、晩御飯は河原でバーベキューだからね。美味しいお肉買ってきてね」


疲れきった七緒を膝枕して、頭を撫でる。海斗がもう少し優しくしてくれれば、七緒もこんなに疲れたりはしないのに。


「おんなじ弓道部だしさあ、団体もやるんだしさあ、もうちょいお互いに歩み寄ってもいいと思うんだけどな…」

「…そうだね、団体のチームプレーにも影響が出そうだもんね。七緒もさ、」

「、?」

「七緒も、海斗ばっかり構うんじゃなくてさ、湊くんや竹早くんとも話をしてみるのもいいんじゃない?七緒から仲良くなって、海斗のいいところとか自慢してさ、…海斗は意地悪な奴なんかじゃないってことは、弓道部の中なら僕らがいちばん良く知ってるし、ね?」

「そうだよね。うん、俺もそう思ってた。やっぱそうだよね」

「海斗のいいとこ広めようキャンペーンを開催!」

「広まればいいんだけどな~~、かっちゃん素直じゃないから…」

「七緒がネガティブになってどうするの!ほらほら立って、僕の足もそろそろ限界なの」

「うん、買い出し行ってくる」


双子の兄は元気が出たようで、ごめんね、ありがとね、と言葉を残して買い出しに行ってしまった。





ふらりとなまえが向かったのは、弓道場。夜多神社は知っていたのに、こんな弓道場があるなんてことは知らなかったし、滝川コーチがここの神社の神職だったなんてことは、もちろん知らなかった。


的はもう片付けられている。視線の向こうには土壁があるだけ。それでも、しんと静まり返った空気は独特なものだった。


(たしか、こう)


いつも七緒や海斗がするように立ってみる。腕を、見よう見まねで構えてみる。視線の先の土壁は遠い。こんなに遠かったのか。



なまえから大きなため息が出る。まだまだ自分にはたどり着けない場所だった。


それでも、なまえは諦めてはいなかった。


いつか、あの向こうにある的に、弓を。