ひかり射す庭にて。

永遠に夢を重ねて

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「コーチ?」

「そう、コーチ!」


昼休み。

なまえが病院に行って部活を休んでいたとき、県大会に向けて特別コーチが来たのだ、と七緒が話す。隣の海斗も力強く頷いている。珍しい。


「たきがわ、まさき」


コーチの名前を反芻する。マサさんはすげーんだぞ、と海斗が熱っぽく話し出す。珍しい。


「…海斗はそのたきがわさんのこと、知ってるんだ」

「、おう」


海斗が少しだけ言い淀んだ。その目線はちらりと七緒を見る。七緒もなまえも、そのコーチのことは知らなかった。紹介もしてもらったことはなかった。

海斗がどういういきさつでコーチと知り合ったのかは特に気にしてはいなかったけれど、七緒はきっと、


(紹介して欲しかっただろうなあ)



と、なまえは思い出す。このあいだの病院の帰りを。まだ話していなかった。


「そういえば、…こないだの病院帰りにナンパされた」

「はあッ!?」

「マジか。大丈夫だったのかよ、なまえ」

「うん、助けてもらえたし」


フラペチーノは美味しかったよ、と続ける。なまえは、七緒に隠し事はしたくなかった。愁とのことも、後ろめたいことではなかったのだから。


「そっかー。その人、会えたら俺もお礼言わなきゃだねぇ」

「また会えたらね、…ああ、でも」

「でも?」

「年近そうだったし、たぶん弓道部だろうから、」

「県大会か、予選で会えそう?」

「会えそう、かも、しれない」

「ふーん、」


本当に会えるかどうかはわからないけれど、なまえはなんとなく、愁にはまた会えそうな気がしていた。会えたらちゃんとお礼を言って、自分のことは気にしないで欲しいと伝えなくてはいけないし、何よりなまえは愁の弓を引く姿を、見てみたかった。



「行くぞ、県大会」


海斗が真剣な目をしていた。彼はこういう物語にめっぽう弱いのだ。復活した弓道部が県大会で優勝…、なんてストーリー、漫画でもそうそう見当たらないだろうに。


「まずは予選を突破して、本選に行って」

「そんでもって、県大会で優勝、するんでしょ?かっちゃんはそういうの、本当に好きだよねぇ」

「スポ根ものだねぇ」

「なんだよ!いいだろ!」


とはいえ。参加するからには優勝まで狙えるなら狙ってしまいたいのは事実。


「参加するからには、中途半端な結果は許さないからね」


僕の分まで、弓を引いて。



なまえは七緒を見る。

七緒は、真剣な目で頷く。


予選への戦いが、静かに始まっていた。






「、あ…如月、さん」


休み時間。渡り廊下で、湊と会った。


「新しいコーチ、湊くんも知り合いって聞いた」


海斗がそのせいで不機嫌だったんだけど、と続けると、湊は苦笑い。


「夜多の森…、弓道場」

「うん、そこで会ったんだ。マサさんに」

「夜多の森って、夜多神社?あそこ、弓道場があったんだ…ふうん」

「俺も初めて見たんだ。あんなところに弓道場があったんだって」


以前話していた、湊が弓を再び引き始めた理由。鮮やかな弦音。それがマサさんだったのだろう。ただなまえはその話はこっそり聞いていたので、そこはつつかずに、湊の話を聞いていた。


「僕ね、正直、湊くんはもう弓を引かないって思ってたんだ。でも、戻ってきて、弓を引きたいって言った…、羨ましかった」

「、え」


正直な気持ちをぶつける。


「僕はさ、右半分がこんなだから、弓を引きたくてしょうがないのに、引けない。引けないけど、湊くんは、引ける。今は早気だけど、きっと治る。治って綺麗な弓を引ける。僕にはそれが羨ましくて仕方なかったんだ。…引けるのに引かないって拒絶することも、また引けるように今頑張ってることも、僕には、羨ましくて…、」

「如月さん、…」


「…湊くんには関係ないんだけどね、僕が勝手に嫉妬して、勝手に落ち込んでるだけ、…ごめんね、嫌な気持ちを押し付けて」


でも、言っておきたかった。

これだけは言っておきたかった。


「でも、これが僕の正直な気持ち。湊くんはちゃんと弓が引けるから、…僕の分まで、弓を引いてね」


七緒にも海斗にもいつも言っている言葉を、あの二人以外に投げ掛けたのは初めてだった。


「ああ、約束する。如月さんの分まで、俺も頑張るよ。嫌な気持ちを話してくれてありがとう」

「うん、…ありがとう」



心が軽くなった気がした。

今日の部活が、楽しみだ。