Red Past 第1話

ケルー
@Kellu_dayo

神崎 浩太郎篇 プロローグ

休み時間、教室で別の生徒が持っている鉛筆が床に落ちる

鉛筆が落ちた時の小さな音でハッと我に返る。

このクラスに来てもう半年が経ち、秋になった。

今日は「十月二十一日」。大したことは特に何もない日だ。

そう思い返すとふと目についたのは友達の村野。

村野は他の友達と話していて、俺と目があうと小走りでやってきた

「おーい?連太郎!さっきから話しかけてたのにどしたんだよ?」

「ごめん、ぼーっとしてた」

「あれ、全員お前の友達なんだよな」

「んん、そうそう」

「正直羨ましいよ、友達が多くて」

そう言うと、村野は憂鬱な顔をする

そして小声でこう言う。

「そんなことは無い」

「ん、どういうこと?」

そう返事を返すが、村野は今まで通り友達と教室を出た

何か事情があるのかとそう確信したが、あえて聞かず学校でその話題はそれ以降出なかった

授業が終わり下校時間。帰り道で村野と会う。そこで突然あることを相談される。

「お前さ、友達増やしたら?」

「どういう意味だ?」

「いやだから、友達増やしたらってこと」

「そんなの、お前だけで十分だよ」

「そうかもしれないけどさ、人生は一度きりだからたくさん友達いたら絶対楽しいぞー?」

そう聞いて一瞬だけ沈黙した。

俺は無理やり何か別の話題を探した。

「あ、えっと」

「大丈夫だよ、今度こそ」

「…!」

たった一人の親友だからこそ、俺の苦労を察していた。

友達…高一だった頃、そんなのを作ろうとしたことがあった。

けれどそんなことは簡単じゃなく、学校に上手く溶け込めなかった

今もそうだ。だから俺は一つ案を考えた

「…その、お願いできるか…」

「ん?」

「友達を紹介してほしいんだ…!」

心の底からおもいっきりそう言った。

目を開けて、村野を見上げると少しキョトンとしていた顔だった

「…だめか?」

次の瞬間、村野は飛び上がった

「んなわけねえだろ!全っ然大歓迎だよ!」

「まじか?」

「ああ!てか、タイミングいいよな!」

「タイミングいいって?」

「俺の家に友達が三人遊びにきてるんだよ、よかったら来いよ!」

それは何か、神様がくれたとても小さいチャンスだった気がした

「じゃあ、後で行くね」

「おう!」

分かれ道…村野は手を振って去っていった。

「やっと俺にも、友達ができるのかな」



自宅を出て、村野の家の玄関前に着く。

俺は緊張と不安を覚えた

手が多少震えたものの、玄関のチャイムを鳴らした。

玄関から緑のワンピースを着た女の子が迎えてくれた。

「もしかして、神崎くん?」

「あ、はい…」

「ごめん、自己紹介は後でいい?」

「…あの、村野の友達ですか」

「うん、そうだよ」

こうして、村野の家に来るのは一年ぶりだった

その事を言うと、その女の子が軽く部屋を案内してくれた。

「で、ここがアイツの部屋だよ」

「…ん?」

「ああ!ごめん…アイツって言うのは、村野のことね!」

「あ、そうか」

村野の部屋のドアを開けると一人、制服を着た不機嫌そうな男がいた。

その制服はうちの学校ではなかったのだが…

「誰」

「…え」

「あ、この人は…」

「えっと、神崎です」

「ああそう、よろしく」

何か、少し変な空気になってしまった…

「この人は蓮木くんって言うんだけど…なんかご、ごめんね」

「ああいや、平気です」

どうやら、この二人は少し仲が悪いらしい…

「そういえば、君の名前って…」

「あ!ごめん…忘れてた」

蓮木くんと言う人がコップの水を取りに部屋を出る

「蒼 凛です!普通にリンでいいよ!」

「うん、よろしく」

さっきとは一変変わって、顔が元気になった凛。

蓮木と喧嘩でもしていたんだろうか?

「…ところで、村野は?」

「ん、もうすぐ戻って来るはずだよ」

冷蔵庫にあった焼き菓子を食べながら言う凛

そして、数分後。村野が袋を持って玄関に入る。

「ただいま~」

「おかえりー!」

「…お?お前来てたのか!」

「おう」

「悪いな!ちょっと買い物してたんだよ」

「何の買い物?」

「ホットケーキの材料!これから作るけど神崎くんも食べる?」

「うん、そうしようかな」

「あれ、そういえばミカちーは?」

「あいつ、まだ買い物してるよ」

そういえば、友達が「三人」遊びに来ているとさっき村野が言っていた。

まだ、あと一人いるという意味だ

「そういえば、凛と蓮木って仲悪いのか?」

「…え」

「いや、みんな蓮木を嫌ってるよ」

「そ、そんなことないよ」

「もしかして俺、余計なこと言ったか…?」

「んだな」

みんな蓮木を嫌っていたみたいだった。

けれど、俺はみんなと仲良くしたい。

少し綺麗事かもしれないけれど、本心でもある

「あのさ」

「何?」

「…いや、何でもない」



この家に来てから三十分が経った

ここのみんなとも溶け込めた気がする…

「ふー、美味しかったね、ホットケーキ」

「あのさ、ホットケーキじゃなくてパンケーキだからなー…?」

「あーもー!そんなのどうだっていいでしょ!」

「二人とも、仲良いね」

「いや、それはない」

何気ない会話を繰り返していると、そこで突然足音が聞こえてくる。

「…ん、ミカか?」

次の瞬間、ドアが激しい勢いで開く

壁とドアノブが激しく衝撃を起こす

「ほら見て!牛乳買ってきたよ!」

袋から牛乳を出す女の子。

「…ミカちー?」

どうやら、さっきから二人が言っていた「ミカ」という子らしい

「…は?牛乳あるし…」

「え?牛乳あるの?」

「お、おう」

「…ははっ」

「な、なに…!?」

「珍しいね、いっつも物静かなのに」

「マジでビビったかんな俺」

「この子が、ミカ?」

「ああ、うん!実ると花で実花」

「よ、よろしく…」

その子は俺の事を強く凝視している

「こいつは、俺の親友の神崎っつーんだけど」

「神崎くん…」

「おう、うん」

実花は俺を見た途端、驚いていた。

その表情のまま固くなってしまう…

「…な、なに?」

「いや、何でもない…です」

「それで、この子は七瀬。七瀬 実花」

「さっきから二人が言ってたミカは君か」

「あ…ごめん!牛乳冷蔵庫に入れとくね」

「おう。」

その子は小走りで部屋を出た

「アイツ、大丈夫か…?」

「明らかに動揺してる」

「あれ、いたんだ、蓮木くん」

「俺、悪いことしたか…?」

「そうやって言う奴は無意識に人を傷つけてるんだよ」

蓮木は眉を顰(ひそ)め、俺をガン見している

「俺、帰るわ」

「ちょ、おい!待てよ!」

不機嫌そうな蓮木は実花を追いかけるように部屋を出る

「なんだアイツ…」

「いや、確かに」

「は?」

これまでの事を振り返る。

俺は、みんなと溶け込める程の力は持っていなかった

これが終わったら、もう少し勉強に専念しようと思った

「アイツの言ってる事、気にしなくていいから」

「…そうだよ、神崎くん」

「でも、俺は人を無意識に傷つけてるのかも」

「そんなことはない」

「友達なんて、作ろうとしても相手を傷つけるだけかも」

「そんなことはないだろ!!」

「うるさいな…黙っててもらえる?」

「だいたいお前な、神崎に余計な事吹き込むんじゃねえよ!!」

「やめてよ!!」

「…!」

この瞬間、部屋中に凛の大声が響いた

「その…喧嘩しないで…お願い」

「ごめん…」

「いや、いいんだ」

「…俺も、ごめん。ちょっとうるさすぎたな」

「こちらこそ、ごめん。なんか_________」

凛が喋っていた次の瞬間、外から「バリーン」とガラスが割れるような音がした。



「よし」

「…ん?」

「い、いや、こっちの話だよ」

「…ちょっと、あっちに行ってるね」

「おう…」

凛は、少しおろおろしながら別の部屋に向かった。

その次に、実花が部屋に入ってきた

「今、変な音しなかった?」

「うん、びっくりした」

「ちょっと外、確認してきていい?」

「…え、あ、そうか…俺か」

「それしかないでしょ」

「そ、その、いいけど」

「行ってらっしゃい」

「うっ!ご、ごめん、ごめん」

「なあ、七瀬」

「へ…?」

「浮かれすぎるなよ」

「…え」

「じゃ、俺も行ってくる」

「おう、じゃあね」

二人は部屋の窓から庭に移動した

「あの子、絶対俺の事、避けてるよな…」

この部屋で数分過ごして、時間はもうすぐ夜。

「それじゃあ俺、もう帰るよ」

「おう、じゃあまたな」

「今日はありがとう」

「あーはいはい、それ聞き飽きた」

「あの、神崎さん」

「ん?」

さっきまで動揺してたのに、急に話しかけてきた実花。

「…その、明日、公園に来てくれますか」

「え?」

「あ、嫌ならいいんです」

「いやいや、全然嫌じゃないよ」

「本当ですか!ありがとうございます…!」

不自然にフレンドリーになったのは、よく分からないけど嬉しかった

帰り道、一言だけ呟く。

「どこの公園だろ」

こうして、村野のおかげでたくさんの出会いがあった

でもまさか、明日があんな日になろうとは…

絶望の日が来るとは、まだ「一部」しか思っていなかったかもしれない。



そしてやってきた、十月二十二日

「もしかして」と思っていた公園に、実花がいた。

「あ、来てくれたんですね」

「どこにいるかわからなかったけど、よかった」

一瞬、沈黙した。

けれど昨日、村野と話した時の沈黙とはまた少し違った。

「その…」

実花がその沈黙を破った。

「あの、少しだけ、歩きませんか」

「え?」

そうしてしばらく歩くことになったのだが…

さっき以上の沈黙が俺たちを包んだ

「…」

「…」

おれの事を嫌っているのはなんでだろう…?

しばらくの沈黙でこの前、村野の言っていた事を思い出した。

「大丈夫だよ、今度こそ」

…友達…か。もう既に諦めていたけれど、やっぱり勇気が必要だ

俺を嫌っている理由を直接聞かないと…。

「あの」

「ん…な、なんですか」

「俺の事嫌いですか」

「…えっ」

急に足を止めた実花。

直球に聞きすぎたかもしれない…

「そんな事ない…ですよ」

「ホントですか」

「…後で、説明する…ね」

急にタメ口になりだした実花だが...

俺には何が何だかわからなかった

数分してから、突然何もない歩道橋に立ち止まった。

実花は俺に身体を向け、下をまっすぐ見ている

「…どうか、しました?」

そう言うと、唇を噛み、俺を睨んだ

少し恐怖を感じたものの、実花が発した言葉は予想外の事だった

「…私と、付き合ってください」

「…え」

今まで思っていたことは、完全なる誤解だった



「…ど、どういうこと…ですか」

「ごめんなさい、あの、タメ口でもいいの」

なぜか、軽くショックを受けた

「返事は…?」

とりあえず、何か喋らないと…そう思った

「ごめんなさい、あの」

「そう…だよね」

「いや、違うんです」

「えっ…?」

「誤解してました、俺の事嫌いだって」

「あ、そうなんですか」

俺は、まだ仲良くなってもいないのに実花と付き合うのか?

「なんで二日で俺の事を好きになったんですか」

「…一目惚れです」

一目惚れか。

けれども、俺は…

「俺はある程度仲良くなれないと無理かな」

小学生の頃、父は病死して中三で母もがんで亡くなった

中二の頃、母に言われた言葉がある。

「一目惚れなんかダメだからね?少しずつ繋がって行く、それが恋だから」

俺は母が死んだ時、その言葉が心に染みていた

「どうせ、私じゃだめだよね」

「…え」

「ごめん今の忘れて」

そのまま実花は走り去って行った

この後「だから、友達のままでいよう」と言うはずだった。

「これで、ホントに嫌われたのかな…」

でも、その言葉が言えなかった事が心残りになった

翌日、学校で村野と会った

「おはよう」

「…ごめん、今は話しかけないでくれ」

村野は少し、落ち込んでいた

「何かあったのか…?」

「うるさい…!」

いつもより不自然に調子が悪かった。

「だ…大丈夫か」

「ごめん、悪かった」

「えっと、何かあったのか」

「…七瀬実花。覚えてるか」

「ああ、それが?」

「昨日、死んだんだ。七瀬」