怪盗キッドと一夜限りのデート

ゆっくりリリィ@常世の黒猫
@yukkuriLily

冷たい風が頬を撫でる。

その風に目が覚めた私は、ボヤける目でベランダを見る。


ベランダは開けっ放しで、白いカーテンが揺れていた。


(…あれ…閉じ忘れてたっけ……?

まぁいいや…、閉めてこよっと…。)


そう思い、私は扉を閉めるために体を起こす。

ベットから出て扉の方を見ると、そこにはさっきまでいなかった人影がいた。

そして、その姿をみて私は目を見開いた。


白いシルクハットに白いマント、そして片方の目にはモノクル…、

その姿はまるで__


「怪盗……キッド…。」


私がその名を呟くと、キッドは口元に笑みを浮かべた。


「こんばんは。可愛いお嬢さん」

「…どうしてここに…?」


キッドは、シルクハットに手を置き、顔を隠しながら言った。


「盗みに来たのですよ。…貴方を。」

「………私を?」


キッドは私の目の前で止まり、跪いて私の右手を手に取り、軽くキスをした。


「…今宵、私とデートをして頂けませんか?」


私は、驚きつつもゆっくりと頷いた。

頷いたことを確認したキッドは、立ち上がって


「ではお嬢様、お手をどうぞ」


と、手を差し出して来てくれた。

私はその手袋している手に、自分の手をポンと置いた。


その瞬間、キッドは私をお姫様抱っこしてマントを翼のように広げてベランダから飛んだ。


────────────


下を見ると、綺麗にライトアップされている風景が目に移った。


「…綺麗……!」


目を輝かせる私を見て、キッドはクスッと笑う。


「な、なんで、笑ってるの…」

「子供みたいだな、と思いまして…」

「なっ……!」


私は、顔を赤くするとプイッと顔を見ないようにして、風景を楽しむことに集中した。


────────────


時間はあっという間にすぎて、一夜限りのデートが終わってしまい、家のベランダまで送り届けてくれた。


「ありがとう、キッド。とっても楽しかった!」

「楽しんでもらえて、なによりです。」


キッドは、初めて来てくれた時と同じように優しい笑みを浮かべていた。


「…また、会える?」


私はそう尋ねると、キッドは少し驚いたらしく、口を小さく開けて呟いた。


「…ええ、会えると思いますよ。


…貴方が望めば。」


最後の方は、テレビで聞いていた紳士的な口調の低い声ではなく、優しさと寂しさが混ざっている声だった。


「…それでは、またお会いしましょう。」


キッドは礼をして、煙に紛れて消えていった。


「また会える事を楽しみにしています」というメッセージがついている、一輪の赤い薔薇を残して。

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