黒と白
ルーフス@低浮上を極める
@Seto_Kurona
2人で歌うこと・その5
親父が残していった食べ物であっただろう黒焦げのカスを片付け始めてからすぐ。俺の頭にはまた新しい疑問がわいていた。
ライブのスケジュールが狂ったのに、客の騒ぐ声が聞こえないのだ。ハウスはこのすぐ下だから、騒ぎがあればすぐにわかる。いつも好きなグループだけ目当てで来る人が多いし、それにずれ込んだのは、ここら辺じゃ結構有名になっているあの「No Ban(ノー バン)」のライブだ。別に罵ってるわけじゃないけど、客からのクレームが無いわけがない。
考えれば考えるほど気になってくる。俺の悪い癖だ。
片付けを放り出して、一瞬だけでも様子を見に行こうかと迷い始めた時。ハウスの方から歓声が上がった。
それを聞いて、俺の足は勝手に動き始めてしまった。裏口に続く階段を下りていくと、歓声がより一層大きく聞こえてきた。
ドアをそっと開けて中を覗き込むと、騒いでいる客たちはみんな揃ってステージへ声を投げているようだ。目を凝らして見てみると、そこにいたのは、見覚えのある顔だった。
「あれ、もやし野郎っ?」
そうだ、間違いない。ひょろっとした体つき、戸惑ったような笑み。嫌味なほど整った綺麗な顔。
昨日、俺と一緒に歌うことを拒んだアイツだった。
いや?アイツ確か、他にも俺のことなんか言ってたような…。
(そういえば、昨日の夜って俺、何してたっけ…?)
一旦ドアを閉めて唸る。
確か、路上ライブの後話しかけてきたアイツをハウスまで連れてきて、それから。あの場所でアイツに見つかって謝られて、また泣いちゃって…。
「もしかして俺、寝落ちした…?」
確かにアイツに謝られたあと、「寒いから早く帰ろう」なんてことを言われた記憶が無くもないが、それからハウスまで帰った記憶がない。
「…マジかよ」
どうりで親父が遠慮するわけだ。
って、それは別として。
「なんでアイツ、ここで歌ってんだ…?」
確か、ライブ活動をする予定なんてアイツにはなかったはずだ。自分の作った歌を他人に歌ってもらえればそれでいいって。言ってたのに…。
「あの兄ちゃん、カイトがライブ断ってきたあと、急に“歌わせてくれ”って言ってきたんだよ」
考え事してて気付かなかったけど、上から親父が下りてきていた。
「ハウスの時間空いちまったのはこっちのせいだし、まぁOK出したんだけどよ。
…すげぇよなぁ、アイツ。」
「ふぅん…。」
確かに、結構好きな歌い方だ。自分の声を最大限に活かしてる。落ち着いていて、優しい声だった。客が引き込まれるわけだ。
それにしても、バンの代わりに歌うってことは、クレームはやっぱりあったに違いない。
「アイツ、大丈夫だったのかよ」
「ん?何がだ?」
「だから、クレームとか…」
「あぁ、俺も言ったんだけどよ。別に気にしてねぇみたいだぞ?」
アイツ、結構やるな。ちょっと見返した。
「…、かっけぇじゃん」
思わず呟いたのを、親父は聞き逃さなかった。
「あとで兄ちゃんに言っといてやるよ」
「バッ、止めろよ!」
「っははは!!言わねぇよ、お前から言ってやれっての!」
「はぁ?言わねぇしっ!!」
「っはははは!
っと、そういやおめェ、メシどーした?」
「あ」
「やぁ〜っぱりなぁ。よし、俺も手伝ってやるから、一緒に…」
「絶対作らせねぇ!」