黒と白

ルーフス@低浮上を極める
@Seto_Kurona

2人で歌うこと・その3

しばらくその子の背中をさすって様子を見ていたけど、なんだか急に静かになってしまって、心配になって顔を覗き込んでみた。

「あ、寝ちゃってる…。」

赤いパンダさんになったその子は泣き疲れてしまったようで。

(ハウスに戻ったら、まぶた冷やしてあげないと)

すっかり冷えてしまった夜の町を、走ってきた道を反対に歩いて進んでいく。今度は、背中にあの子も一緒だ。

飛び出してきたとはいえ、僕は最低限の上着なんかを着ていたものの、この子はシャツにパーカー1枚だ。きっと1人でずっとあそこにいたのは寒かっただろう。

親父さんが教えてくれたあの場所は、この子にとっての秘密基地のようなものらしい。ここら辺は暮らしている人も少ないし、他から来る人も少ないし、全体的に人が少なくてのんびりしている町みたいだ。

小さい頃からそんな町で育ってきたこの子が、あんなに人の多い大きな街に出て、しかも1人で歌ってたんだって考えると、本当にすごいことだ、と思う。きっと街へ行くのにだってものすごく勇気がいったんだ。

そんなキミにあの時出会えたのは、僕の中で奇跡としか言いようがなかった。

あんなに心が震え上がったのは、生まれてこのかた初めてだったんだ。

だから、絶対にあの子だけは逃がさないって思えた。いまいち「無くしたら嫌なもの」なんて今までもったことのなかった僕にとって、多分最初で最後のとても強い想いだったと思う。

だからなのかなぁ。まさか僕があんなに人を怒らせることができるとは思わなかったし、ぶっち切りの最速で会った人と喧嘩してしまった。空振り三振って感じだ…。

そんなことを考えていたら、いつのまにかさっき飛び出してきた見覚えのある角が見えてきた。

少しだけ足を速めて角を曲がると、ハウスはすぐそこだ。入口の前には、寒そうに両手をこするあの親父さんが待っていてくれた。ちょっと申し訳なくて、もう少しだけ歩みを速めて声をかける。

「すいません、今帰りました。」

「おう、入れ入れ!…ん?寝ちまったのか?」

「あぁ、はい。疲れちゃったみたいで。」

「そうか。仲直りはできたんだろうな?」

「っはい!…、多分…?」

自分の中ではもうそう思っていたけど、そういえばこの子から「許す」って言葉聞いてない気が…。

「っはは!まぁ、兄ちゃんがそんな威勢良く返事できるんならぁ、大丈夫だろうよ!」

中に入ってすぐのところに、まだ湯気の立ちのぼるお茶が2つ置いてあった。それに加えて、親父さんの豪快だけど優しい笑い声がハウスに響く。僕はなんだか、とても幸せな気分になったのだ。

そして思った。

(この子となら、一緒に歌えるかな。僕。)

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