黒と白
ルーフス@低浮上を極める
@Seto_Kurona
白い方
「じゃ、そういう事だから。
うちの歌姫、返してくれる?」
そう言って、こっちに向かって右手を軽く差し出した。
こんの馬鹿やろう、バレたらどうすんだし!一応ファンだよ?この人ら…。
っていうか、“姫”じゃねぇし!せめて王子とかって言えやこの馬鹿!
なんていう俺の罵倒も聞こえるわけがなく、目元に影を落としながら、きいちゃんは爽やかに笑ってみせた。
それを見たお姉さんたちはいよいよ俺を捕まえているどころじゃなくなって、腕からやっと手が離された。
そして自由になった俺の両肩に手を置いて、くるりと後ろを向かせると、「じゃあね。」とだけ言って、そのまま俺の背中を押してホールの方へと戻っていった。
さっきまで、俺が某ファンの会話を聞いて盛り上がっていた舞台袖。再びそこに、今度はきいちゃんも一緒に戻ってきた。
「もう。なんであんな奴らに捕まってんの?ビックリしちゃったよ。」
「あっはは、ごめんごめん。最初気付かなくってさぁ〜…。」
「念のためにでも、早めに僕が来といてよかったよ…。」
きいちゃんは、次のライブの音響設定をしてもらうためにさっき呼んでいたけど、確かに約束の時間にはまだ10分くらい余裕があった。
「ありがとうございます、助かりました。」
「どういたしまして、良かったです。」
袖にあるでっかい機械を弄りながら、きいちゃんが答える。
いっぱいあるつまみを両手で1つずつ持ってチリチリと回していく。これは、ホールにあるアンプと繋がれていて、1つのつまみにつき1個のアンプの音量が設定できるようになっていた。
これが終わったら、次は操作室に行って、マイクやステージの上に置くアンプの設定。
きいちゃんを手伝って、少し小さめのアンプを持ち上げながらぼーっと作業を眺めていると、ふと思い出した。
(そういえばあの2人、なんか気づいてねぇといいんだけど…。)
まぁ、結構怯えてたから、きいちゃんの言ったことなんて頭に入ってはいないと思うけどね。
「りょう、今度そっちの。」「はいはーい」
隣に置いた次のアンプを持ち上げて、また作業を眺めるのに没頭する。
そういえば忘れてたけど、コイツ、俺のパートナー。そう。モノクロームの白い方、シロ君です。
声よし、顔よし、スタイルよしだから、はっきり言って結構モテる。この野郎。
そんなコイツが、なんで俺と一緒にバンドなんか組んでるかっていうと、話は3ヶ月ほど前に遡るー。