Star Heart Story

RAY/kaede
@growler_ray

12話

「なるほど、やはり拾ってもらった身として助けたい!と」

「はっ、はい、そんな感じです…」


 あの騒動からかれこれ3日が経った今、カーレイがいるのは王都のラジオ局だった。

 詳細は省くが、レイルズが「ファンの人が危ない人たちを止めてくれた」とあちらこちらで言いふらし、あげくカーレイの名前まで出してしまったため、すっかり話題の人となってしまったためだ。


「じゃ、今日はここまで!またねー!」


 けど、そんなふうに注目されるのも悪くないと思ってしまう自分もまたいることが情けない……とはいえ、このままでは本来の目的も見失ってしまう。

だけど図書館のそういうコーナーは全て読み尽くした、他にあてがあるわけもない。

 そんなことを思いながら、レイルズさんと一緒に家の前まで辿り着いた時だった。家の前に立つ見慣れない人を見かけたのは。


「誰かな…あれ」

「鎧…?」


 鎧の人物は、2人に気づくとツカツカと歩み寄ってくる。ちょっとした危機感を感じたカーレイは無意識にヴァレリアブレイドを掴み臨戦態勢に入ったが、その気配を感じとったのか鎧の人物は両の手のひらを振って、敵対意識の無いことを示してくる。

 そして目の前まで来ると、どこからか鉄に彫られたエンブレムらしきものを取りだした。


「怖がらせてしまいましたか。不審人物ではありませんよ」

「あ、カーレイちゃん、このエンブレム…王城の兵士さんのだよ!」

「へっ!?」


 彫られていたのは、度々街で見かける王城直轄の兵士を表すエンブレムだった。

 もっとも、というよりそれを明確に示されたからこそ、2人の困惑と混乱はさらに高まってしまったのだが。


「けどどうして…」

「な、なんか悪いことしちゃったっけ…」

「そんな!レイルズさんは何も…!」


 混乱の極みにある2人の会話をさえぎり、兵士は見えるはずのない口を開く。


「カーレイ様、女王様からの伝言です。明日王城へと来るように…と」

「!?」


 目を真ん丸に見開くカーレイをよそに、レイルズの方にも向き直る兵士。


「レイルズ様も、できればご同行を、とのことです」

「わた…しも…?」

「はい、それでは」


 カーレイと同じようにキョトンとしてしまうレイルズ。そんな2人を置いて、兵士は足早に立ち去ってしまった。

 数分の沈黙を挟み、無言で扉を開けて家へと戻り、一呼吸置いて落ち着いて飲み物を口にした頃、2人まとめて冷や汗が一気に吹き出ててしまう。


「王城…じょ、じょ女王様だよね!?私何も悪いことしてないよ!」

「大丈夫です!いざとなったら私が守…守れるでしょうか…」


 最近女王についての怖い噂を知ってしまったせいで、もうすっかり女王が悪者扱いアンド大パニックだ。


「どうして、私を名指しで…それに名前まで知られてました」

「きっと私が言いふらしちゃったから…ごめんね、ごめんね!」


 まるで死ぬ前の懺悔みたいな雰囲気にまで落ち込んでしまう。それ程までに聞いた噂は冷たく2人の心にくい込み、果てしない恐怖を与えてきている。そういう情勢に疎い者同士だから、仕方ないのかもしれないが…。

 と、こうやっててんやわんやの騒ぎを起こしていたって、時間はそんなことを気にせず静かに過ぎていく。日は傾いて沈み、2人は眠り、朝に。


「そろそろ、行きましょうか」


 その日の昼、意を決してカーレイとレイルズが王城へと歩き始めたのだった。

 女王直々にお呼ばれしたという、普通に考えれば喜ばしいことのはずだが、今の2人の胸中には喜の感情なんてこれっぽっちもありはしない。

あれだけ怖い噂を聞いたのだ、気分はさながら断頭台へ上がる罪人、いやもっと酷いかもしれない。


「私たち…どうなるんでしょうか」


 噂は噂と、どうしても割り切れない。なぜならその正体を、ほんの僅かたりとも知らないから。

知っているのは「あらゆるものを凍りつかせ、微塵に砕く氷の女王」という噂一つで、それが全て。どうしようもなく、怖い。


「ううん、もうクヨクヨしていちゃダメですよね。大丈夫ですよ、私は何があってもレイルズさんを守りますから!」


 そう、ビビってなどいられない。この臆病を、これ以上大切な人に伝播させるわけにはいかない。


「カーレイ…ちゃん…」

「さあ、行きましょう!」

「…うん!」


 これまでの沈黙が嘘のように晴れた顔になった2人は、一気にペースを上げて王城へと駆け出していく。

きっと大丈夫、曖昧なそれが仮初の希望だろうも、彼女達にとっては大事なものだ。



「わ、すっごい大きい」

「遠目から見た事はありましたけど、こんなに大きいだなんて…!」


 ここは王都カレント、ティライク王城前。目の前にあるのは、首が痛くなるくらい視線を上げてやっと頂点が見えるくらいに大きい建物だった。

 ティライク王城は、小規模の湖に囲まれた中に島のように建っていて、王城へ入るには中央の橋を通る以外に道はない。

意を決して橋を進み出す2人、やがて見えてくる城門前には、鎧に身を包んだ兵が2人立っていた。見るからに門番といったふうだ。


「あー、そこの方達?」


 案の定止められた。けど臆することは無い、こちらには女王様自らが呼んできたという確かで強い用件があるのだ。ビビらないで、しっかりとありのままを伝えればいい。


「女王様に呼ばれて……?」

「バカお前!こっちの子、あのレイルズ・ウェーナじゃないか!」


 ありのままを伝えても怪訝な顔をした兵士だったが、もう片方の兵士が興奮か焦りかで口早にレイルズを指さしどんな存在かを言った。


「言われてたろ、来るって!」

「あー、そうだったよう…な?」

「この寝ぼけんなっ」


 その一言と共に兵士の頭を叩くと、説明をしていた方の兵士がこちらへと向き直る。


「案内します、どうぞ着いてきてください」

「あ、ありがとうございま…す?」


 痛そうに頭をさする兵士をよそに、その兵士は2人を先導して王城の中へと入っていった。

 王城の内装は、ある意味予想通りと言ってもいい。その大きさに違わず、豪華できらびやかな照明や飾りの数々。おとぎ話に出てくるような赤と金の色合いではなく、白と水色、時々銀と言ったふうにそこまで豪華絢爛な雰囲気ではないのだが、それでも滲み出る高貴さは隠しきれない。

 目を輝かせながら歩いていると、不意に兵士が止まる。


「イースァ、女王様の客人だ」

「ん?ああ、これはこれは」


 イースァと呼ばれたその兵士の声は、昨日聞いた声と全く同じだった。要件を伝えに来たあの兵士でほぼほぼ間違いないだろう。


「では2人とも、ここからはこの兵士が先導します。それでは自分はこれで」

「お疲れ様です、トゥロ」


 先程まで先導してくれていた兵士、トゥロは2人にお辞儀をすると、そのまま立ち去ってしまった。


「では、行きましょうか」


 そして、イースァに着いて行くようにしてまた王城の中を歩き出す。

 そうやって歩きだしてから、実に5分は経過したように感じる。拭いきれない恐怖が時間を引き伸ばしているのか、本当にそれだけの距離を歩き続けているのかは、今現在では到底理解のしようがない。

 ただそれでもたったひとつだけわかる。今から出会おうとしているのは、とてつもなく大きい存在。紛れもなく、この国を収める女王なのだ、と。


「…着きました、女王の間です」


 他の部屋の扉とは一線を画す巨大な両開きの扉。さらにその両脇に立つ兵士2人。


「その御二方が…か?イースァ」

「はい、その通りです」

「女王様は準備万端だ、入室は許可するとの事だ」

「助かります」


 断片的にでも聞き取れるその会話から、女王というのがいかに大きい存在なのかを否応なしに再確認させてくる。


「(この先に、いるのが…)」

「(ティライク王国の女王様、なんですね)」


 たれる冷や汗、唾を飲む音、呼吸の音に、少しずつ早まっていく心臓の鼓動。それらを感じられるほど、緊張が感覚を必要以上に研ぎ澄ます。


「僕はここまでです。それでは」

「女王様の客人、どうぞ中へ」


 近衛の兵達が重そうな扉を開く。カーレイとレイルズは、それを見て、そして音を聞き。深呼吸。

しっかりと意識を持って、扉の境目を通り、女王の間へ足を踏み入れた。


「…これは?」


 だが、足を踏み入れた2人の目の前に映った光景は、想像とは完璧に違っていた。2歩3歩と進んだ距離にある場所に、障壁らしきものが張られているのだ。


「氷、みたいだね」


 レイルズの言う通り、よくよく見ると、それはガラスではなく氷なことがわかる。

けれどそれにしても不可解なのはその規模だ。横も天井も幅何メートルもあるというのに、僅かな隙間なくピッチリと氷は埋まっている。一体誰がなんのために、そんなことを考え始めた矢先、氷の向こうで影が動く。


「よくぞ来ましたね、2人共」


 空間全体に響き渡るような、冷たい声。それが女王の発するものだと理解するのに、1秒も必要はない。


「…招いてくれてありがとうございます。けれど女王様、どうして私達を?」

「それは、ですね…」


 そこまで言いかけて、女王は言葉に詰まってしまう。どうしたのだろう、とはてなマークを浮かべながら、2人は次の言葉を待つ。


「ああもう、やっぱり2人相手にこんな硬っ苦しいのめんどくさいっ!」


 次に聞こえたのは、信じられないくらい声色の違う声。冷たく心を射抜く声ではなく、まるで年頃の少女のような声だ。


「2人ともその壁から離れてて!」

「はっはい!」


 言われるがまま、急いで氷の壁から離れた瞬間、派手な音を立てて氷の壁が粉微塵に砕け散った。


「ひゃっ、冷たいっ」


 ひとつ残らず雨粒大にまで細かく砕かれ散った氷は、容赦なく2人を襲って冷たい雨を降らせる。数秒後、ようやく氷の雨が収まって、2人は顔を上げる。


「ふー、やっと顔を見て話せるね」

「な…あ…ああ……!?」

「ど、どうしたの、カーレイちゃん!」


 あらわになった女王の顔を見たカーレイが、途端にパニクったような声を上げてしまう。その様子を見たレイルズは咄嗟に女王の姿を見ないようにしつつ、必死になだめる。

 けれど、よく観察すると、その声は確かに驚きによって発されたものに違いはないのだが、恐怖によるパニックとはまた違う物だとわかってくる。

 確かに女王の姿は、思っていたよりもずっと幼く小さいのだが、そこに驚きを感じているのか?違う

 例えるなら、まるで知り合いと意図しない場所で再会したかのような……


「ね、カーレイちゃんっ」


 女王はカーレイをじっと見つめ、にっこりと笑顔をうかべる。

 沈み出した夕日に照らされ煌めく緑と金色のオッドアイ。空色のショートヘア、そしてその親しげな声。


「フェル…セル…ちゃん…!?」


 見間違えようもない、そこにいたのは、グランセットの高台で出会い、チケットを渡され、ならず者退治を引き受けた。特別長い時間ではないが、何度も一緒に出会って遊んだ人。


 …フェルセル。ティライク王国第19代目国王、女王「フェルセル・ティライク」それが、彼女の名の全てだ。

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