Star Heart Story

RAY/kaede
@growler_ray

9話

─カレント郊外:特設ライブステージ─


「やあぁぁぁぁぁあっ!!!」


 凶爪が突き立てられる寸前、その場に一筋の閃光が走る。閃光は一直線に飛びかかっていたグラールフに向かい、体を直下へと叩き落とす。そしてその閃光…否、サイリウムのように光る武器の持ち主が、レイルズの前に姿を現した。


「大丈夫ですかっ!レイルズさん!」

「か…カーレイちゃん…!」


 そう、カーレイだ。カーレイは心配の言葉をかけつつも体を反転させてグラールフ達と向き合い、更に背中でレイルズを押して奥へと退避させようと指示している。

その指示を受け、ギターを抱えたまま後方へ下がるレイルズ。足音でそれを確認したカーレイはもう片方の武器を取り刃を出す。

 いかに恐れられているモンスターであろうと、2度も打ち破ったという確かな実績のあるカーレイにとっては、なんの脅威もない。僅かな怯みも見せず、双刃を堂々と構えて敵の出方を伺う。


「さあ、どこからでもかかってこい、です!」


  言い終わるや否やグラールフの一体が突っ込む。直線的で、パワーとスピードに全てをかけた何も考えていない、獣らしい突撃。そんなものを見切れないカーレイではない。

グラールフが飛び上がった瞬間、顎の下目掛けて柄による一撃。そのまま殴り飛ばし、ステージ端へと弾いた。


「カーレイちゃん、危ないっ!」


 その攻撃の際に左側面に回り込んでいたグラールフが、飛びかかってくる。口は開けていない、爪による攻撃をするつもりだ。


「よっとっ」


 カーレイは軽いバックステップでそれを避け、無防備になった胴体に、上段に構えた双刃による真上からの一撃。


「トドメです!」


 モロに食らってバウンドするグラールフの体、浮き上がったその間に素早く片方を逆手に持ち替えたカーレイの容赦ない突き刺しがグラールフの脳天を貫いた。


「次……うわぁっ!?」


 突き刺した直後、カーレイの背中に強烈な衝撃が走る。衝撃に耐えきれず、体が前方向へ飛んでしまう。

カーレイは前方へ転がりながら、立ち上がって刺ささりっぱなしのため片方になってしまった武器を構えようとするが、立ち上がるよりも早くその眼前にグラールフの獰猛な顔が迫ってきていた。


「ぐ…痛っ……」


 咄嗟にグラールフの両手を掴み顔が喉に到達する前に阻止する事が出来たが、鋭い爪が両手に刺さり、鋭い痛みと共に血が出るのを感じる。

 だがこのまま転げ落とせばトドメを直に刺せる、優位は未だカーレイに傾いていたが……


「しまっ…レイルズさんっ!!」


 視界の端で黒い影が動く。それが最初に殴り飛ばしたグラールフのものだと気づくのに、時間は一瞬で済んだ。

しかし理解したところで打つ手がない。自分は行動不能、相手はもうすぐレイルズの元へ届く。


「逃げてっ……」


 返答は帰ってこない。


「はあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 代わりに帰ってきたのは、懇親の雄叫びだった。マイクを付けっぱなしだったその爆音は、鼓膜を突き破らんばかりの強烈な音量だ。

 そして、ドゴッ!という鈍い音が聞こえる。と同時にカーレイの視界奥に、グラールフの顔の脇に天高く舞い上がった先のグラールフが映った。カーレイは素早くグラールフとの取っ組み合いに終止符を打ち、その行方を目で追う。


「え、吹き飛んで……」


 次に視線をレイルズに映すと、レイルズはギターをまるで武器のような構え方で持っていた。


「や…やった……」


 ポカンとする両者。だがそれを知り目に吹き飛ばされたグラールフは着地し、再度高速でレイルズに迫る。気を取られていたカーレイは、それに気づけない。


「カーレイ、ちゃんっ!!」


 だが、その攻撃をレイルズはまたも迎撃する。体をずらし、横に構えたギターとグラールフを直線上に、渾身の横振り。自らを呼ぶ声でやっと気を取り戻したカーレイは、それが自分の方向に飛んでくると理解する。


「任せてください!」


 自分の頭上を飛んでいくグラールフを狙い、カーレイは正中線を捉え正確に武器を振り抜く。バチバチ!と弾けたような音と共に、グラールフの体は一刀両断された。血飛沫がすこし顔に飛んだが、カーレイはそんなのを気にせずレイルズに駆け寄る。


「け、怪我は」

「大丈夫だいじょーぶ!それよりどう?かっこよかった?」

「…はい、すごいかっこよかったです!」

「ふふ、でしょー?カーレイちゃんもすごいかっこよかったよ!」


 戦闘のあとだというのに、いや、だからこそだろうか。2人は楽しそうに会話をする。


「けどびっくりしました、逃げずに立ち向かうなんて」

「カーレイちゃんが戦う姿に勇気もらっちゃったのかな、それに、マナーの悪いお客様は退場してもらわないとみんなの迷惑だしね!」

「あははっ!確かにそうですね!」


 ステージ上で楽しそうに話す2人を見つめる警備隊の視線にカーレイ達が気づくのは、それから数分の時間を要したのだった。


「モンスターやっつけたから、30分後にライブまた始めるよー!持っかい言うねー!モンスターやっつけたからー……」


 さらに数分後、アナウンス用のマイクから逃げてしまった係の人代わりに案内を飛ばし、レイルズはカーレイのそばに座る。周囲のスタッフは破損箇所の確認に死骸の処理にと大忙しだ。


「…けど、あんな光る武器、見た事も聞いた事もないよ」

「へ、そ、そうですか…?」

「カーレイちゃん、旅人なんて言ってるけど、本当は何者なの!?ねえねえ!兵士の人でも大変なグラールフをまとめて相手にしちゃうし!」

「え、あぁ…そのー……」


 鼻息荒く迫るレイルズ。その曇りなき好奇心の瞳に気圧され、仰け反ってしまう。

 目の前のこの少女は信頼出来る、身元を明かしても囃し立てたりなんてしないだろう。しかし、そもそも信じてもらえないのではないか?大真面目に自分の身元を言ったところで、嘘だと一蹴されてしまうのではないか。


「(レイルズさんは、信用できます…けど…)」


 カーレイは全力で思考を回す。そして、どの道今話すのは得策ではないと判断。その判断を悟られぬよう言葉を選び、レイルズに伝える。


「今はまだ、秘密です」


 人差し指を縦に唇に当て、いたずらっぽく笑ってそう言う。


「もー、…いつか教えてねっ」

「機会があったら、ぜひ」


 「きっとその機会を迎える前に、自分は求めるものを探すためにここを去っていますけどね」カーレイは、ぽつりと心に浮かんだ根拠の無い言葉を静かに飲み込む。


「そろそろ時間かぁ」

「会場の周りもだいぶ騒がしくなってきましたね…まだ歌えるんですか?」

「ふふっ、もちろん!最前列で最高の歌を聞かせてあげる!」

「楽しみです!」


 カーレイがステージから降りてスタッフに案内されて最前列ど真ん中に移動すると、程なくして両サイドの出入口から人がどっとなだれ込んできた。人々は規則正しくズラズラと並んでいき、騒動前のような賑わいを取り戻すのは本当にすぐだ。


「〜♪」


 歌が始まる。最前列だったためその音圧にカーレイは吹っ飛ばされそうになりながら、なんとか気を保って曲を聴いていく。


「(…ああ、すごいなっ)」


 最初こそ少しばかりうるさいと思っていたカーレイだったが、その歌声と振動を肌で感じとっていく内、そんな感想はどこかへ吹っ飛んで行った。

 ギターを弾きながら器用に歌までこなし、その両方に決して片手間という風を見せない、見事なライブ。両方やり、両方全力。そんな精一杯な彼女だからこそ、人々は惹かれたのだろう。奇妙な確信が、カーレイの胸中にポッと浮かんだ。


「………?」


 遅れを取り戻さんばかりにノンストップで続くライブ。現実を離れたかのような感覚に包まれていたカーレイだったが、その精神は腰をつつかれるような感覚と共に現実へと舞い戻った。しかし不審に思って周囲を見回すも、特にちょっかいを出してきた人物の姿は見えない。


「…??あっ」


 そうこうしているうちにまたつつかれる。が、今度はしっかり意識があったおかげで位置が特定できた。その方向を見ようと真後ろを振り向けば、そこにあったのはフードを目深に被った人物の姿。その人物はカーレイに気づくとメモ帳の1ページを差し出す。

 『ライブが終わったら、右側出入口出る寸前のところで待ってるね』

ページにはそう書かれていた。この人物が誰かわからない以上下手に返事をするのは……と思っていた矢先、文末にある名前に目がいった。

 『フェルセル』

その文字を見た瞬間、カーレイは胸を撫で下ろす。そしてしゃがんでフードの人物…フェルセルの顔を覗き、了解のハンドサインを送る。すると、にこりとフェルセルの顔が笑顔になった。


「さぁ、次はいよいよラストの曲だけど…みんな、あのアニメは見てるー?」

「「おーっ!!」」


 気づけばライブも終盤、ラストを飾ろうと、レイルズが収まりかけていた会場のテンションを最大まで上げていく。


「急展開に次ぐ急展開!みんなをかばったオーテスの安否が気になって私夜しか寝れないよ!…ってそうじゃなかった」

「ふふっ……レイルズさんってば」


 子供のようにはしゃいで話しすぎるレイルズを見て、カーレイは思わず微笑みをこぼす。


「みんなも見てるって事は、やっぱりあの街を黄昏から救いたいよねー?」

「「おーっ!」」

「本当にーっ!?」

「「おおーーっ!!」」

「私もーっ!じゃあ行くよーっ!『-Ragnarok Flame-』!」


 『-Ragnarok Flame-』このティライク王国で絶賛放送中のアニメのオープニングテーマで、レイルズの歌。


「わあ……っ!」


 そして、カーレイがアイドルとしてのレイルズを知った歌。短い間ながら、そんな思い入れがある曲。そんな曲が生で聴けるとあれば、ファンならば感無量という物だろう。

狂い壊れそうな程に限界突破したテンションのまま、長い長い5分間はそうして過ぎていった。


「ハァ…ハァ……じゃ、ライブはこれでおしまい!みんな気をつけて帰ってねー!」


 その声が終わると共にステージ照明が消え、外周部の照明に切り替わる。周りから聞こえてくるスタッフの声に従い、観客達も撤退を始めた。

余韻に浸りすぎて一瞬出口付近の待ち人を忘れかけたカーレイだったが、出口を通る瞬間に感じた冷たい視線に睨まれて我に返り、フェルセルに合流する。


「忘れかけたでしょ」


 ジト目で睨んでくるフェルセルに対し、何も言い返せないカーレイはタジタジだ。


「ご…ゴメンナサイ」

「…いいよ、じゃあ着いてきて」

「どこかに行くんですか?」

「あのカフェ」

「あそこですか…って、あそこはもう閉店時間を過ぎてません?」

「特別に開けといてもらってるの、ほらほら急いで!」

「わっちょっ…!」


 引っ張られるまま郊外を駆け抜け、灯り揺らめく王都を駆け抜け、いつぞやフェルセルに誘われて行ったカフェに到着する。看板には『OPEN 9:00 CLOSE 22:00』と書かれていて、傍にある時計で現在時刻を確認すると、やはりばっちり10時を回っている。


「やっぱり閉まってますよ…」

「開いてるよ、ほら」

「えっ!?」


 何言ってんのとでも言いたげに一切躊躇うことなくフェルセルは扉を開けようとする。すると扉には鍵はかけられておらず、あっさり開いて2人を出迎えた。


「おや、アルフちゃん」

「やっほー」


 中は以前来た時とは変わっていない。椅子と机とカウンター、髭を生やした男性。強いて言うなら照明がランタン1つになっている事だけだ。


「なにか淹れるかな?」

「何か冷たくて飲みやすいのお願い、火照っちゃって」

「ライブ帰りだったね、わかったよ」


 程なくして運ばれてきた飲み物を置くと、男性は奥の席に移動してコーヒーを飲み出した。少しだけそれを眺めていたフェルセルだったが、徐に目を閉じて真剣な顔でそれを開き、カーレイと向き合う。


「実は、カーレイちゃんに話…ううん、お願いがあるんだ」

「お願い…ですか…?」


 あんまりにもフェルセルが真剣な顔で覗き込むもので、カーレイも思わず唾を飲み込んでしまう。


「今日ライブ会場でグラールフが襲ってきたでしょ?」

「え…はい、なんとか撃退しましたけど…」

「あれ、レイルズちゃんを嫌う人達が仕向けたんだ」

「へー……ええ!?」

「シーっ!」


 僅かにカーレイを睨み、フェルセルは人差し指を口に当てる。


「しかもその人達すっごく危なくてね、武器まで揃えて、今度は自分たちでめちゃくちゃにするつもりらしいの」

「たっ…大変じゃないですか…!」

「うん、大変。レイルズちゃんが怪我しちゃうかもしれないし、観客の人達も危ないから」

「どうすれば……」

「止める方法ならあるよ、そして、それをカーレイちゃんに頼みに来たの」


 そう言うと、フェルセルは王都周辺の地図を取り出し、森林公園の奥地、立ち位置禁止とされているエリアに指を置く。


「ここにその悪い人達がいるってわかったんだ」

「なら早く兵士さん達に…」

「ダメなの、兵士たちは確固たる証拠…動き出した瞬間を捕えないといけないから動けなくて。かといって野放しにしてると危なすぎるから…」

「から?」


「お願い、カーレイちゃん。この人たちをやっつけて!」

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