Star Heart Story

RAY/kaede
@growler_ray

7話

─王都カレント:グランセットの高台─


 レイルズのライブは2週間後、最初の1週間はこれまで通りのことをしていたものの、ついに本を読み切ってしまい、次の週は特にやることがなくなってしまったカーレイ。そんなカーレイはまたあの高台に来ていた。


「お、カーレイちゃんっ♪」

「フェルセル…さん」

「ちゃんでいいよ、今日もここにいたんだ」


 日が傾き始めるくらいの頃合にそこに来て、前のように無心で景色を眺めていると、背後からフェルセルがやってきた。太陽によって照らし出されたオッドアイは見事なもので、油断すると不思議さも相まって吸い込まれそうになってしまう。


「はい、ここお気に入りで」

「通だねぇ、地図にも乗ってないこんな所を気に入るなんて」

「そうですかね?」

「うん。けどいいと思うよ、静寂に交じる少しばかりの喧騒と、視界を覆う綺麗な景色、こんなのが嫌いな人なんていないはずだもん」


 どこか遠くを見据えながらそう言うフェルセルの顔は、驚く程大人びて見えた。おまけに夕焼けに照らされてもいるので、綺麗でもある。

 きっと巷ではモテるんだろうな、などとしょーもないことを考えているカーレイとは違って、フェルセルはもっと大きなことを考えているのだろう。


「…カーレイちゃん、何か食べに行かない?」

「え…けどこの時間だと夕食とかがあるんじゃ…」

「軽くだよ軽く!いいとこ知ってるからさー!」


 突拍子もなく出されたその話に、カーレイは有無を言わさず手を引っ張られて連行される。

 橙色に染まった街を駆け抜けてやってきたのは、オシャレそうなカフェだった。チラリと見えるレトロな内装からも、この夕日に負けず劣らずの眩しいオシャレオーラが感じられてしまう。


「入るよー」

「はっはい!」


 ドアがカランカランと音を鳴らして、入店の合図を出す。中は椅子4つと机のセットが2つ、カウンター席が8つといった風に、小さめだった。そしてカウンターの向こう側には、髭を生やした渋い男性が立っていた。男性は音を聞いてこちらに気づくと、手を振り話しかけてくる。


「やあ、アルフちゃん。そっちの子は友達かい?」

「そんな感じだね、カウンターいい?」

「ああ、もちろんどうぞ」


 父と子程年齢が離れているように見えるのに、そんなのを全く感じさせないほど気軽に2人は話し合っている。


「知り合いなんですか?って、アルフってなんですか、フェ…」


 上ってきた疑問をいっぺんに口に出そうとしたが、途中でフェルセルに指で遮られてしまう。


「ここではアルフって呼んでね、その方がかっこいいから」


 無邪気な顔で言う。冷静に考えればそんな一言で止められるわけがないのだが、そこはさすがカーレイ。一発で納得してしまい、そこから先追求することは無かった。


「…知ってるのかい?あの子」

「知らないんじゃないかな、旅人とか言ってたし…」

「旅人でも知ってそうなもんだが……」


 そんな男性とフェルセルのひそひそ話もカーレイの耳には届かず、ただ落ち着かない様子でキョロキョロ見回しているだけだった。


「ねえ、甘い物って大丈夫?」

「全然大丈夫ですよ」

「よかった、じゃあいつものと、それのライトお願い」

「はいよ、おーい、いつものとそれのライトだってよ」


 フェルセルが手馴れた様子で注文し、男性は壁に取りつけてあった穴らしき物へその注文を流す。

 3分程たった後、カウンター奥の扉から女性が現われ2人の前にカップをひとつずつ置く。カーレイの前に置かれたカップの中身は薄い茶色で、フェルセルの前のはかなり濃い茶色だ。先の質問と漂ってくる匂いからも、これが甘いものだということは分かる。


「いつも通り、温かいうちに飲んでくれ」


 まずは1口。広がってきたのは甘みだけで、そこそこ濃いめ。この甘さはココアとチョコレートの中間と言った感じだろうか。


「甘っ……」


 想像以上の甘みに、つい一言を漏らしてしまう。まあ仕方ないだろう、下手すれば飲み物を飲んでいるはずなのにさらに喉が渇くようなものなのだから。


「ふっふー、なんなら私のも一口飲んでみる?」

「え、いいんですか?」

「もちろん!」


 フェルセルによってカップが口元に近づけられる。そして口を開けて飲み物が中へ入ってくるのを待つのだが、それまでの時間がいやに長い。

 そんな降って湧いた疑問は、実際に入ってきたものによって一瞬で消された。


「ー!?」


 それは、飲み物と言うには少々無理があった。口に入った瞬間でもわかるとんでもない甘さ、一応液体なのに思わず噛んでしまうような粘度、飲み込むと喉にベッタリと張り付くような不思議な感覚。

 なにより明らかに乾く喉。当然だ、これはチョコレートをそのまま溶かした上に更に砂糖を加えた滅茶苦茶な甘さを持つ飲み物なのだから。


「甘すぎませんか…これ…」

「あはは、やっぱり?水もあるから、そっちで喉は潤せるよ」


 カーレイは言われた通り置いてあった水を一息に飲む。張り付いたチョコを洗い流すついでに乾きを癒してくれて、幾分かマシになった。


「ふう……」


 それから数十分ほど、スイーツを食べたりなんだりして過ごしている内に店内は人で溢れかえり、幾多の人々の声が聞こえる賑やかな空間に変貌していた。そんな中でカーレイは話を切り出す。


「そういえば、この国には王様がいるんですよね」

「それはもちろん!けどどうかしたの?」

「実は、その王様に関わる怖い噂を最近見ちゃいまして…」


 フェルセルの目の色が変わるが、カーレイは気づかない。

「…どんな?」

「王様はとても気難しくて、相手が少しでも機嫌を損ねたら氷漬けにしちゃうって噂です」

「ふーん……」


 興味なさげな返事に聞こえるが、その実フェルセルの目は何を考えているのか理解できないような目になっていた。無数の感情が入り交じるような、とにかく不思議な目だ。


「その噂がもう怖くて…夜少し眠れなくなるくらいでした」

「…………」

「フェルセルさん?」

「……ううん、なんでもないよ。もう夜遅くなるし帰ろうか」


 立ち上がり、懐から財布を出そうとするフェルセル、それに釣られてカーレイもポケットから出そうとする。

 …なお、この際語っておくが、カーレイはレイルズに頼んで数日前からバイトの助っ人のような仕事を始めた為、金銭面の問題は今のところない。


「いつもひいきにして貰ってるし、友達も連れて来てくれたし、今日はサービスだ」

「結構食べちゃったよ、いいの?」

「ああ、だけど内緒だぞ」

「わかった、ありがと!」


 お代をサービスしてもらった事をカーレイに伝え、2人は店を出た。フェルセルの言った通り空にはすっかり月が登っており、暗闇に星が爛々と輝いている。


「じゃあね、カーレイちゃん。今日は楽しかったよ」

「私もです、また会いましょうね!」

「うん、じゃあね!」


 別れを告げ、カーレイはレイルズの家へと帰った。

 フェルセルがあの時見せたあの目は、一体どういう心から現れたものだったのだろうか。その答えは、彼女のみが知る。

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