Star Heart Story

RAY/kaede
@growler_ray

6話

─王都カレント:郊外、レイルズの家─


「今日も私の歌聞いてるの?」

「はい!何度聞いたって全然飽きませんから」

「面と向かって言われると照れちゃうね」


 あれから数日、カーレイはレイルズの好意で変わらず宿泊させてもらっている。

 自分の目的…星界へ戻る方法を探すためには、まず伝承やおとぎ話のようなものを見て行った方が早いと考え、そのためには王都にある図書館の本を片端から読んでいくのがいいと言う結論に達したためだ。

 レイルズの方も特に生活に困っている訳ではなく、同年代の人と一緒に暮らすのが楽しくなってきているのもあって、カーレイを泊めている。


「それにしてもあの時は驚きました、まさかレイルズさんがあの歌を歌っていただけでなく、この国の人気者だったなんて」

「人気者は言い過ぎじゃない?」

「そんなことありませんよ」

「そうかな…いや、そう言ってくれるならそうだよね!」


 携帯音楽プレイヤーで音楽を聴くカーレイをレイルズはしばらく見ていたが、やがて時計を確認するといそいそと外へ出る準備を始めた。


「お出かけですか?」

「そう、ちょっとね。カーレイちゃんは?」

「私もそろそろ図書館に行こうと思ってます」

「じゃあ途中まで一緒に行こっか」


 外へ出れば、綺麗な青空が広がっていた。星界の下に広がり、地上の上に広がる、ごくごく普通でいつもの青空。そんな青空の中、カーレイが向かう先はいつもの様に図書館だ。


「もしかしてお仕事ですか?」

「正解、ラジオのお仕事があるの」

「ラジオ…図書館でも流れますかね」

「さすがに流れないんじゃないかな…?」

「冗談ですよ。けど、やっぱり人気者ですね」


 人気者。そう、なんとこの少女「レイルズ・ウェーナ」は、ティライク王国に君臨する頂点にしてただ1人のアイドルだったのだ。ラジオに出演し、イベントに出演し、歌を作って弾いてライブを行う可憐なアイドル。

 今朝話していたが、数日前にカーレイが見てハマったアニメのオープニングを歌っているのもレイルズだ。ちなみにカーレイ曰く「かっこいい声すぎてわからなかった」とか。


「っと、それじゃ探し物頑張ってね!」

「はい!レイルズさんもお仕事頑張って!」


 なお、カーレイは今「ある物を探しに来ている旅人」というテイで通している。怪しさ満点だが、そこはレイルズの人の良さ。疑問こそ浮かべど何も疑っては来ない。

 本当に一切の疑問を浮かべず信じてくれてると思っているカーレイの性格も性格だが…。


「おはよう、嬢ちゃん」

「おはようございます」


 レイルズと別れたカーレイは、道行く人に軽い挨拶を交わしながら図書館へと向かう。ある程度は覚えた大通り、そしてそこかしこに建つ真っ白な建物に差し込む朝日は、相も変わらず目を眩ませてくる。

 10分ほど歩き、国立図書館に到着へと到着した。中は外とは打って変わって木の茶色が目立つレトロな内装で、照明もそれに合わせてランタンを模した、暖色系のライトが点灯している。


「確か70の2……と」


 先述したように、カーレイがここで調べているのは主に伝承等の曖昧な昔の文献や物語だ。

 一応それを真っ先に調べているのには理由がある。というのも、どこから広まったのか、星界にまつわる伝説がいくつかこの地上界に残されていたから。

 おまけにカーレイの姉の存在に至っては密かに神格化すらされていて、一部地域では彼女を信仰する宗教もあるとかないとか。


「昨日はここまででしたね、今日は……」


 カーレイはここで、朝早くから日が沈む夕暮れまで、食事も休憩も一切取らずにひたすら伝承等が収められている棚の本を読み続ける。加えて、彼女自身の恐ろしいまでの理解力によって、本棚の3分の1近くを既に読破していた。

 非効率的だなんて思うかもしれないが、カーレイの心の中ではそんなことは微塵も思ってはいない、仮に思おうが、それ以外に選択肢なんてないのだから意味は無いと分かっているから、というのもあるだろうが。


「おや、今日もいたんですか」

「はい!調べたいものがあるので」


 来始めたのはほんの数日前だが、その滞在時間の長さから常連からは顔を覚えられていた。カーレイ自身の人の良さもあって、声をかけられることも多々ある。地上界には前々からよく来ていたのもあって、人との付き合い方も良好なようだ。


「眩し……あ」


 赤い西日がカーレイの顔に注ぎ込む。眩しさに本を読む手をやっと止めると、ようやく今の時間を認識することが出来た。太陽はすっかり傾き、人々は皆家へと帰る準備を進めている、そんな時間。

 カーレイは本を棚に戻すと、軽く首を回す。すると面白いぐらいゴキゴキという音が鳴る、その音量たるや、そばに居た人が驚愕の目で見たくらいだった。


「もう少し眺めてから帰ろうかな」


 付近にあった時計を見て時間を確認し、カーレイはどこかへ向かう。

 曲がり道に階段と坂、もう1回階段を上れば、そこは王都屈指の絶景スポットの高台だった。雄大な太陽が、揺らめく海に光の道を作り、水はそれを受けて輝く最高の場所。恋人同士がこんな所に来て告白でもしようものなら、されたほうはイチコロに間違いない。

 とはいえ、道順が複雑なのもあってここはかなりマイナーなスポット。カーレイ以外に人はおらず、聞こえるのは鳥の鳴き声と、微かな人々の声だけという静かな場所だ。


「やっぱり綺麗……」


 数日前からよくここには来ているが、決まってカーレイはこの言葉を吐く。確かに夕焼けは人の心を夢うつつにさせると言う。ぼんやりとした気持ちで同じことを言ってしまっているのかもしれない。

 だが、それがなくともこの景色は幻想的で綺麗だ、こんな言葉を毎度毎度言ってしまうのも頷ける。


「おねーちゃん」

「んわっ!?」


 そうやって一人静かに景色を眺めていたカーレイの背後から、いきなり呼ぶ声がしたものだからさあ大変。変な声を出しながら50センチほど飛び上がってしまった。

 一呼吸置いて落ち着き、背後を振り返ると、そこには空色の髪をした少女が立っていた。身長はカーレイよりも少し小さめなくらいで、よくよく見ると両目の色が違う。オッドアイというものだろうか。


「えっと…私に何か?」

「ふふ、特に何ってわけじゃないの、ただぼやーっとしてたから大丈夫かなって」


 少女はいたずらっぽく微笑み、そう言った。


「大丈夫ですよ。私、ここの景色が好きで、よく来てるんです」

「そうなんだ!フェルセルと同じだね、フェルセルもよくここに来るの」


 フェルセルというのは少女の名だろうか。その少女はカーレイの隣に立って同じ景色を見ると、話を続ける。


「綺麗だよね、どんなに嫌なことがあっても、この景色を見れば全部忘れられちゃうもん」

「嫌なことですか…?」

「そ、君は何か嫌な事とかないの?」

「私は特には」

「そうなんだ…じゃ、きっと幸せなんだね」

「そうなんでしょうか…」

「ぜーたくだなー」


 そんな話をして夕日を眺めていたが、時が流れるのは早いもの。ふと気づけば夕日はすっかり沈んでしまっていて、辺りは暗くなりだしていた。


「とと、そろそろ帰らないと」

「もう帰るの?」

「はい、あまり心配はかけたくないので」

「ふーん…そうだ、君、名前はなんて言うの?」

「カーレイっていいます、カーレイ・ラフェルナスです」

「私はさっきも言ったと思うけど、フェルセル。さ、カーレイちゃん、お近付きの印にこれあげるね」


 フェルセルと名乗った少女が差し出してきたのは、1枚の長方形の紙らしきものだった。


「歌は好き?」

「はい、とっても!」

「それはよかった!それね、みんな大好きなアイドル、レイルズちゃんのライブのチケットなんだ」

「レイルズさんの…!」

「すっごくいい席なんだよ?絶対誰にも渡さないで内緒にして、君だけが使ってね」

「え、でも、こんないい物」

「もちろんタダだよ、気にしなーいで、それじゃあね!それと、私のことも秘密にしてくれると助かるな!」


 楽しげにそう告げると、フェルセルはさっさとその場から去っていってしまった。少しの間呆然としていたカーレイだったが、やがてフェルセルの言葉を信じ、チケットを持ってレイルズの家へ戻るのであった。


「お帰り!ねえねえ、聞いて聞いて!」


 家へ帰るなり、レイルズがカーレイの元へと駆け寄った。隠しきれない程の喜びの感情と笑顔を抱えながら。


「ど、どうしたんですか?」


 迫力に気圧されながら、どうにか口を開く。


「私のライブステージが決まったの!」

「そうなんですか!?おめでとうございます!」

「それでね、明日カーレイちゃんの分も特等チケットを貰ってく……あれ?」

「どうかしましたか?」


 レイルズの視線が、カーレイの顔から肩を通り、手元、更にはそこにあるチケットに行った。


「このチケット、どうしたの?」

「これなら、高台で会った親切な女の子がくれました。特別な席だから誰にも渡さないでって……」

「ちょっと見せてもらっていい?」

「え、はい」


 チケットを受け取ったレイルズは、じっくり隅から隅までそれを眺める。それこそ線の1本の歪みすら見逃さないほどの血眼で見ていたが、考えるような仕草をしながらカーレイに返した。


「確かに今度のライブのチケットだし、偽物でもないんだけど……」

「けど?」

「まだ発売開始してないはずなの、ましてや特等なんて、私でも明日なのに」

「ええ!?」

「ねぇ、何者なの?その女の子って…」

「えっと…その…」


 レイルズの質問には応えたいが、フェルセルからは、秘密にして欲しいとも言われている。2つの板挟みに苦しみながら、その日は過ぎていくのだった。

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