胸の内側を強く叩く

やよい
@yay0izuki

と、と、と、と



 規則的なリズム。

 静かに打ち続ける、確かな鼓動。

 沖田は耳を張り付け、聞いていた。

 そして不意に、そっと囁く。


 あんた、ちゃんと生きてるんですね、と。


 湿気が二人の身体を重くする。肌を触れ合わせても決して気持ちの良いものではないのに、ぺとりとした感覚が、いやに二人を心地良くさせる。

 何時もより肌と肌が吸いあっているような、そんな錯覚。


 「おめえのも同じ様に鳴ってんだろうが」


 土方の身体に被さって音を聴いていたら、肩を押され、容易く身体をひっくり返されて。

 ぺたりと、大きな手のひらが沖田の白い肌に吸い寄せられるように落とされた。


 「、ん…」


 二人は布団の中、身を纏うものを全て剥がし ことに及んでいた。

 一通り終わらせ余韻に浸っていた沖田の身体はまだ体温を冷ましていないから敏感に反応してしまう。

 触れられたところからじわりじわり、土方の熱を吸いとり、己の身体に再び熱を帯始めるのを自覚するのと同時に。


 「心音、やけに速ぇな」


 意地の悪い男は態と胸の上で手のひらを滑らせるようにするから、身体がひくひくと、甘く期待をする。

 そこに沖田の気持ちは関係ないらしい。


 「うる…せェ…あんたが、っ」


 そんな風に触るから、と吐き出した声は少し震えてしまい。

 沖田は身体の反応を誤魔化すように強い瞳で土方を睨みつける。

 それを男はどう受け取ったのか、胸の飾りを指の腹で撫でられる。

 「んァっ」と、咄嗟のことに手で口を抑えることも叶わず。

 先程まで散々啼き声をあげ、もう喉が痛いというのに、引き摺り出さずにはいられない。


 はぁ、はぁ、と乱れる息を吐き出して。


 「もう、嫌です、からね...」


 沖田は手の甲を口許に押し付け、泣きそうな声をだした。

 それは子供っぽく、勘弁してくれと。

 熱をあつめ赤く色付いていく肌を楽しそうに擽っていた土方は、沖田の様子にふっと笑う。

 既に三回も欲を吐き出している沖田の身体は無理がきている。

 限度を知らないこの男に最後まで付き合っていては身体が壊れてしまうと、情けなくも懇願に近い眼差しで土方を見た。


 「心配すんな。もうしねーよ」

 「……ほんと、ですぜ?」


 土方の言葉を疑うように眉を寄せれば、男は薄く整った唇を沖田の耳許に寄せ、あぁ、と。

 そのまま耳にキスをし、軽いリップ音を立てるから、沖田は耳のなかへと送られる熱い吐息にさえ擽ったさを覚える。

 身を捩ると耳から落ちていき、首筋に続く口づけ。

 何度か吸われ、肌に点々と散らばる赤はまた暫く消えそうにない。

 熱かろうが湿度が高かろうがスカーフをしっかりと首に巻かなければいけないことを考えると少しだけ気が重くなり、いつまでもじゃれてくる土方に僅かな怒りを感じてしまう。

 その怒りを散らせ、上回る感情があるのも消えようのない事実。


 「そろそろ寝るか」


 沖田は明日非番だが土方は仕事だ。

 首筋にあらかたキスを贈ると満足したのか身を引いた。

 沖田にしたら幸いであった。

 これ以上続けられれば容易く土方に流されていただろうから。

 それを考えると自然とほっと息が洩れる。


 が、次に出た土方の行動にギョッと目を剥いた。

 土方の黒い短髪が胸を擽る。身体の胴にがっしりと腕を回され、身動き出来ぬよう固められたのだ。


 「ちょ、苦しんですけど」


 抱き締められているのとはまた少し違い、まるで今の沖田は土方の抱き枕状態だ。

 先程自分が土方にしていたように胸の上に土方の頭がある。

 耳をぴたりと張り付けているのも先程の沖田同様で。


 「重てえ。圧迫死させる気ですかィ」

 「るせえなぁ。文句ばっか垂れてんじゃねえよ」


 眉間に皺を寄せ、更にギュウッと沖田の躰を締め付けるから「痛い痛いっ?!」 と沖田は余計に喚き出す。

 慣れない状況、慣れない重みに沖田の表情は困惑を浮かべていた。



と、と、と、と…



「ぁー、なんかこれ落ち着くわ」

「……」


 お前がよくこうしてくる気持ち判るわ。

 そう云った慣れない土方の態度に動揺よりも確かな嬉しさが胸を締め付ける。

 小さな痛みを きゅぅっ、と沖田は胸に押し込めて、必死に顔に出ないよう堪えていた。


 「お、また速くなった」


 悪気なく出た土方の言葉がすとん、と沖田の胸へ落ち。

 必死に堪えていたものは呆気なく破られる。


 「、っの、や…ッロウ!」


 歯を喰い縛り、全身全霊、力の限りとはこのことか。

 被さる土方の身体を沖田は突き飛ばした。思いの外吹っ飛んでいく。

 きっと馬鹿力というのはこういった処で発揮されるのだろう。

 「どわ?!」と土方は声をあげ、布団の外へと飛ばされていた。


 「な、っにすんだこの野郎!!」

 「それはこっちの台詞でさァ! 何時までもベタベタと。キショイったらねェ」

 「キショッ!?」


 その言葉にショックを受ける土方は口を変な形に開ききり固まった。

 そんな土方に顔を真っ赤にさせ怒鳴りあげるのは、完全なる沖田の照れ隠しだ。


 心臓は速鐘を打ち付けるように



 ドッドッドッドッ、



 胸を内側から強く叩く。







 あぁ、いきてる




【終】

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