彼女は"自身"を殺す【坂口安吾】

宇鷺林檎
@RingoUsagi1020

二話

果暮カクレのモノローグ

 分かってたことだった。

 どうせこの恋だって、いずれ枯れて草臥れて、終わってしまうって。



 仕事場(兼自宅)に安吾が遊びに来なくなって。ラインやメールが途絶えて。

 そこで改めて、彼が心の支えになってたことを知った。


…………私には、他人に大っぴらに出来ない過去がある。しかも、「昔、ヤンチャやってましたぁ」みたいに笑い飛ばせるような、内容じゃない。

 遠い昔の、夏の夜。私は面識もない、見知らぬ中年の男に突然襲われた。

 後ろから殴られて、意識がぼーっとしていたところで、押し倒されたのである。

……結局、その男は無罪放免みたいな感じで、何のお咎めも無く。

 それからだ。

 髪はバッサリ切り、好きだったワンピースは全て売り払い。

「強く」なろうと決めたのは。

ぞんざいな言葉遣いになったのは。

 それでも彼は、微笑んでそばにいてくれたんだ。「貴方の気が安らぐなら」って。

――私は、そんな寛大な彼に甘え過ぎていたのかもしれない。


「…………。

ごめんな、安吾」

 ああ。二度と泣かないって決めたのに。

 弱さを全て捨ててしまおうと。それであんなにも頑張ったのに。


「…………駄目だよ、私。

未だあんたがいないと苦しい」


 古い癒えない傷が、まだ奥の奥で疼いている。このまま泣いていたら、湿っぽくて、化膿してしまいそうだ。

私は泣き止まないといけない。

それでも、涙は止まらない。

 今は無い、懐かしい愛おしい体温が恋しくて、辛くて、傷が痛くて、止まないのだ。



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