☆同居シリーズ☆

ねむい子
@kao_nashiko

二日酔い

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
キャラベルに登録してログインすると、登場人物の名前をお好きな名前に変更できます。

 …セブルス・スネイプは、いつでも遅くまで起きている男であったから、その日彼女の帰りが遅いからといってわざわざその帰りを待つために寝ないでいたわけではないだろう。しかしやはり、彼自身それと気づかなかったが、いつになく、手元の本から度々視線を上げては、時計の針を見、また本のページへ視線を戻すという動きを繰り返していた。なぜだか、いつもより読書が進まないことに些かの苛立ちを感じるセブルスだったが、その苛立ちがどこからくるものなのか、全く気付いていないようだった。

 不意に、ガチャリと鍵の開く音が聞こえ、間髪入れず扉を乱暴に開けて家に入って来る者の無遠慮な気配を感じた。セブルスは呆れたように小さく溜息を吐き、読んでいた本を閉じてテーブルの上へ置くと、気怠そうに、しかしどこか待ちかねていたように立ち上がり、玄関の方へと歩みを進めた。


 「どういうザマだ、それは」

 苦々しげに見下ろす視線の先には、したたかに酒に酔って頬を紅潮させ、玄関先にへたり込んで笑っているリオの姿があった。

 「えへへへへ、たらいま〜〜」

 セブルスの苦々しい表情などに全く頓着せず、リオは上機嫌に、セブルスに向かって両腕を伸ばした。

 「何の真似だ、」

 セブルスの苦々しげな表情はさらに険しくなり、不愉快さを精一杯込めて言葉を発したつもりだったが、その気配も今の彼女には通じないようだった。

 「立てなぁーい、運んで〜」

 「馬鹿も休み休み言え、この酔っ払いが!」

 そう、怒気を込めて吐き捨てながら、セブルスは心中で動揺していた。もちろん、彼は自分が動揺しているなどという自覚はつゆもなかったが、目の前のこの事態にどう収拾をつけるべきか、聡明なはずの彼の頭の中に、何一つ正解らしいものが浮かばなかったのである。

 常から冷静さにかけては、この男の右に出る者はそうは居ない。長年、壮絶な戦いの中に身を置くうちにいやでも培われた洞察力と判断力。最愛の者を失った時から、己の感情の一切を隠し、予期せず自らの死に直面した最期の時でさえ、自分がなすべき事を瞬時に判断し、何一つ誤ることなくそれを遂行した。そんなセブルスである。戦いから離れ、命の危険などとは無縁である現在の生活の中で起こる様々な事象など、彼を悩ませたり、あまつさえ動揺させるようなものは何一つなかった。いつでも、どんな状況においても、そこにおける“最適解”を選ぶことは、彼にとって意識して行うまでもない、容易いことなのである。それなのに。

 リオと共同生活を送るようになって久しいが、これまで、泥酔した彼女の姿を見たことはなかった。同じテーブルで食事をし、ワインを空けたことも何度もあるが、理性を失うようなことはなかった。酒には強いのだと思っていた。そのリオが。

 「ふざけていないで、さっさと上がって寝ろ。何時だと思っている。」

 「………」

 「おい、いい加減に、」

 「………」

 「まさか……」

 「……………」

 セブルスは眉間の皺をいっそう深くし、小さく舌打ちをした。玄関先で泥酔したまま、寝息を立て始めた同居人に、自分がとるべき行動は何であるのか。先程の彼女の「運んで〜」という、平生耳にしたことのない甘ったるい声が、頭の中に響いた気がした。

 

 –––翌朝、こびりつくような頭痛と内臓の不快感とともに、リオは目を覚ました。窓から差し込む太陽光が眩しく、思わず眉を顰める。胃のむかつきと、異様な喉の渇きを覚え、重たい身体をベッドから起こした。ふと見ると、昨日着ていた服を着たままである。リオは現状を把握しようと、昨夜の記憶を手繰りながら、ゆっくりと、階下へ降りていった。

 そうしているうちにも常に湧き上がってくる吐き気と頭痛に顔をしかめながら、手近にあったグラスに水を注ぐと、無造作に飲み干した。–––と、ダイニングの向こうに、見慣れた背中を見つけて、もやがかかっていたような視界が少し晴れたような感じがした。

 「おはよう。」

 リオは、その背中に声をかける。しかし、返事はない。

 「セブルス、おはよう。」

 彼の座るソファの所まで歩いて行き、もう一度、声をかけた。するとセブルスはこの上ない苦々しい顔でぎろりと彼女を睨んだ。その不機嫌な様子に彼女は思わず怯んだ。

 「……おはよう、という時間では、ないな。」

 「えっ、今、何時…」

 「正午だ。」

 「………」

 「覚えていないのか、昨日のザマを。」

 セブルスは、怒りを込めて言った。リオは痛む頭を押さえながら、必死で思い出そうと努めたが、どうしても、食事会の後、どうやっていつ頃家に帰って来たか、思い出せないようだった。セブルスは、聞こえよがしに大きく溜息を吐いた。

 「それで、その顔色は何だ。」

 「……気持ち悪いのと、頭が痛い…」

 「誰が悪い、」

 「……私です…」

 セブルスは再び大きく溜息を吐くと、立ち上がって、どこからか、半透明の液体が入ったガラスポットを取り出し、その中身をグラスに注いだ。

 「飲め。」

 カタン、と音を立ててテーブルにグラスを置くと、くるりと背を向け、出かける支度を始めた。

 「セブルス、どこか行くの?」

 「どうせ今日はお前は使い物にならんだろう。寝ていろ。」

 目を合わせることなくそう言って、黒いローブを羽織ると、足早に部屋を出て行った。バタン、と扉が閉められ、リオは部屋に一人、残された。玄関の扉を開け、外へ出て行く音が遠くに聞こえる。彼女は小さく溜息を吐くと、テーブルに置かれたグラスを手に取り、液体を口に含んだ。それはひんやりとしていて、うっすらと甘く、少し酸味もあり、むかむかしていた胸の辺りへ優しく沁み渡っていくような心持ちがした。

 「……おいし。」

 小さく呟くと、今度はごくごくとそれを飲み干し、ソファに横になった。相変わらず頭は痛むが、気分の悪さは少し和らいだ気がした。もう少し休んで、起きたらシャワーを浴びて、夕食を–––

 そこで、リオの意識は途切れた。


 帰宅したセブルスが、まだ目を覚まさない同居人を見下ろして再び溜息を吐くことになるのは、それから数時間後のことである。