ガラハッド卿若き日の友情

マサイ
@masaiz


ガラハッド卿若き日の受難


 テープを再生した途端、女の喘ぎ声が聞こえてマーリンはうんざりした。あのガラハッドとか言うの。軽薄そうなのは外見だけだと思っていたが時計の針も読めないほど脳みそも軽いのか? 何が二時頃聞き出した、だ。完全に真っ最中じゃないか。とはいえ聞き飛ばすわけにもいかず、いらいらとこめかみを揉む。騎士たちが持ってきた情報の管理はマーリンの仕事だ。それは不正を防ぐためでもあるし、「マーリン」というポストが結局のところ、騎士たちの雑用係であるということでもあった。

 テープからは女の声に混じって若い男の囁き声が聞こえた。新しくガラハッドの席に座るようになったこの男が、マーリンは苦手だった。新アーサーとなったチェスター・キングの推薦で、代々変わり者を輩出することで有名なハート家の三男坊。なるほど優秀で家柄も申し分ない。何不自由なく育ったために無意識に傲慢なところはあるが、それすら魅力に変えてしまうような、人懐っこいユーモアがある。だからこういう任務、つまりターゲットの妻や愛人に近づいて、彼らの漏らした秘密を聞き出すような任務は上手くこなす。

 しかしその、人当たりの良さというか、人の領域に躊躇なく踏みこむ軽薄さが、マーリンは苦手だった。嫌い、と言ってもいい。

 テープではガラハッドが、ベッドをきしませながら歯の浮くような言葉をターゲット夫人に吐いている。かわいそうに、夫人はもう彼の虜だ。本当は、そんな誠実な男ではない。彼の言葉は、嘘ばかりだ。

(私はいつも、君を口説くつもりでやっているんだが)

 無理しなくてもいいのよ、と夫人が笑いながら言う。こんなおばさんに。そんなことを言ってはいけません、と、ガラハッドの声が怒りをにじませて言う。「私はあなたを尊敬したいのです」ベッドがきしみ、女が息を飲む。若い男は、息を小さく途切れさせながら、懇願するように言う。「どうかあなたに跪かせてくださいませんか」

 数日経ってガラハッドがやってきた。

「どうだった?」

「あなたが聞き出した情報のお陰で、飛行機が落とされずに済みそうです」

 ガラハッドはそういうことじゃない、と意味ありげに首を振った。マーリンは無視してモニターに視線を向ける。阿呆に付き合っている暇はないのだ。

「用件はお済みですか」

「いやまだある」

 ガラハッドはマーリンの椅子の肘置きをつかんで手をつくと、上体をかがめて顔をじっと見つめた。ガラハッドの腕の間に閉じこめられるような形になってしまい、マーリンはこの形の椅子を選んだことを後悔した。

「言っただろ。君を口説くつもりでやったんだ。君の意見が聞きたい」

 ガラハッドの茶色い瞳が間近で神経質そうにまばたきをした。同じ瞳が、数ヶ月前、このモニタールームをくるくると眺めまわし、マーリン、君の城はずいぶんと明るいんだね、と大声で言ったのだ。それ以来、この男は時折訪ねてくるようになった。彼の孤独の城たるモニタールームは、このガラハッドの来訪によってしばしばかき乱された。

「真っ平御免です」

 マーリンはガラハッドの瞳を見つめ返しながら言った。明るい茶色の瞳がぴくりと動いた。「もういいですか」マーリンはなおも動こうとしないガラハッドの顔をぐいと押して腕から抜け出すと、身体ごとモニターに向き直った。

「……愛してるんだけど?」

「そうですか」




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