えるそこばなし

しらす
@Shalsh_Noir

人になりたかった天使の話



「ああ、サラ。サラフィエル。会いたかった」

ちょっと近道をしようと路地裏に入ったら見知らぬ男性が私を見て涙を流した。


「え・・・?あの、だれですか・・・?」

「私は・・・君の番になりうるものだよ」

綺麗な桜色の髪の彼はそういって私を抱き寄せた。

咄嗟のことで動けなかった。


「あの、人違いです」

「そんなわけがあるか。私は、この私の羽を持ったかの美しい人の姿をした君を求めていたのだから」

私はなんだか怖くなった。

誰?誰なんだろう?


だけれど、私の中のコアが反応する。

これはあの花売りちゃんに出会った時の・・・・・・。


なんとか突き飛ばし、恐怖に荒くなった息を落ち着けることも出来ずに私は羽を広げた。

逃げなきゃ。

なんだかこわい。

この人、こわい。逃げなきゃ。


「どうして拒絶するんだい?君の中の私は私を拒絶するどころか求めているはずなんだが・・・」

「どういう・・・、いみですか・・・」

「ん?君のなかの天使の元になったのは私の一部なのさ。だから私を懐かしんで求めている」

さっきから動機が止まらない。

翼は広げはしたものの、羽ばたこうとしてくれない。


「ああ・・・美しい翼だ。私のものより美しい。サラ。サラフィエル。君の全てが美しく、そして愛おしい・・・」

情熱的に、そして甘ったるく私の名前を呼ぶ。

いやだ、いやだ。

私は・・・彼以外にそんな甘く呼ばれたくない。


だというのに私の体は言うことを聞いてくれない。

どうして?こんなにも、私は恐怖と嫌悪に襲われているのに。


「あなた・・・だれ・・・・・・」

「ああ、そうか、名乗っていなかった。私はアザゼル・・・今は堕ちた身でね、人としてはアゼルと名乗っているよ」

アゼルは私に近付いて、私の着物の帯を解いた。


「・・っ!?」

はら、と解けて肌が露出する。


「あぁ・・・!どこもかしこも綺麗で、きれい・・・で・・・?」

彼が手を止めた。


「サラ・・・君は・・・既に誰かと契約しているのかい?」


契約・・・?なんのことだろう


「いや・・・これはまだ仮契約か?完全ではない、が・・・そうか、君は既に別の男と・・・・・・」

アゼルはとても悲しそうな顔をして、そっと私の着物で前を隠した。


「ごめんよ、そうと解っていたら手を出さなかったのに。怖かったろう」

そういって涙をひとつ零した。


「私はずっと君を求めていた。君も本当なら私と番になるのが運命だった。だけれど、私では君と契約出来ない・・・君が天使としてその権能を行使することは許さない」

アゼルはしゃがんで私の手を取った。

「サラフィエル、私は貴方を愛している。だから、貴方がもしこの世界に絶望したり、その権能を使って全てを無くして空っぽになってしまったら・・・私の元へおいで。私は貴女を必ず幸せにしてみせるから・・・・・・」


そういって私の手にキスをするとアゼルはそのまま去っていった。


「さようなら、私の愛した君よ」

そう小さく呟いたのを、風に掻き消える前に私の耳は拾っていた。


私はその場にへたりこんでしまって、さっきまで触られていたおなかを拭うように触れる。

おへそのところに、いつの間にかあった刻印が鈍く光った。


「らむだ・・・さん・・・・・・」

ほろり、と涙が溢れた。


ああ、でも少しほっとした。

私まだこわいって思えた。

私、まだ・・・悲しいって思えた。


アゼルの顔をみて私なんだか悲しい。

そして無性にラムダさんに会いたくなった。


だけれども、服が乱れているから動くに動けない。


「・・・サラ、ちゃん・・・・・・?」

聞き覚えのある声に、はっと顔を上げるとラムダさんがそこにいた。

幻だろうか?

会いた過ぎて私は幻覚をみている?


「どうしたの・・・なんで、服はだけて・・・っ」

「あ・・・これ、違うの、その・・・あの・・・っ」

ほろ、と目から涙がこぼれて視界がどんどん滲んでいく。

ラムダさんは私に上着を着せると、抱き抱えた。

体格の差から私はラムダさんの上着にすっぽりとくるまってしまう。




ラムダさんが自宅へ私を運んでくれて、あったかいミルクをくれた。

はちみつ入りのそれは優しくて。


ぽつり、ぽつりと私はさっきあったことを話していく。


「ラムダさん、あの私・・・気がついたの。改めて、気が付いたの」

「・・・うん?」

「さっきは怖かった。私の感情とは別に、私のことを置いていって私はあの人についていきそうになってた。すごく・・・怖かった。それで気が付いたの。ううん、わかってたんだけど」


ぽろぽろこぼれる涙は止まる気配を見せない。


「こんな時に、あんなことあったあとに言うことじゃないと思うの。

でも、言わせて欲しい。

私・・・ラムダさんが好き。

これは私だけの、私が思う感情。

ラムダさんが好き。好きで好きでどうしようもない。

おかしいよね、私は感情をなくしてしまうはずなのに・・・」


こんなにも熱くて、苦しくて、それなのに壊れてしまいそうな。

そんな感情を知ってしまったのだから。



「どうしたらいいのか、わからないの。

困らせてしまったらごめんなさい。

・・・・・・あいしています」


いつか失うかもしれない感情。

それを思うとこわい。

ああ・・・こんなことなら、人になりたかったなあ・・・。



























彼女を失った痛みは私のなかに深く刻まれた。


いつしか愛した彼女。

私の翼。


痛みがほろほろと溢れては視界を歪ませて。


「ああ・・・・・・これが感情。これが、ヒトのもつ・・・・・・」


愛おしい。

この痛みすらも愛おしい。


そして同時に嫉妬する。

サラフィエルに思われている相手を。

祈りの相手を。


ああ悔しい。憎らしい。


だけれども、サラフィエルはきっと権能を使うだろう。

その時までに私が彼女を忘れられずにいたのなら・・・・・・

彼女は私がさらってしまおう。


己の感情をコントロールして力に変える術も見出した。

かなしい、かなしい、かなしいー・・・・・・。


「ああ・・・どうか、私に・・・」

この嫉妬の炎を消し去る術を教えてくれ。


ああ、こんなことなら。

天使であることを忘れ、身も心も。人になりたかった。