空白の守護者

莉咲
@apk_qjg

守護者の恋

それからというもの、シャリテはベルの守護、パン屋の経営、ベットとの手合わせ、の毎日を送っていた。

ベルがベットと出会うまで、もう時間はあまりない。彼らが無事に出逢えたとして、使命を終えた私はどうすればいいのだろう。

家で家事をしている間、ぼんやりとそんなことを考えていた。

「………ふたりの幸せをずっと見守っていればいいじゃない」

シャリテは自分に言い聞かせるように自らの問いに答えた。ベルは大事な親友だし、ベットも素晴らしい人だ。これからの付き合いだってきっと受け入れてくれるだろう。彼女の呟きは静かな空間に溶け込んでいく。シャリテはこれまでの迷いを振り払うように家事をする手を早めた。


翌日、いつものようにシャリテはベットと一緒に手合わせを受けていた。

彼は、既に強いのだからそこまでする必要は無いだろうと言ったが、シャリテはぜひ手合わせをしてくれ、と申し入れた。

もとから体を動かすことは好きだったし、何より彼といると楽しい。

ベルと一緒に過ごすのとはまた別の嬉しさがあった。

ベットは確かに見た目は恐ろしい獣だ。

しかし、とても優しい紳士だし、身だしなみも所作もきちんとしている。

彼が人間に戻ればさぞかしベルは幸せだろうな、とシャリテは暖かい陽だまりの中、ぼんやりと考えていた。

(……………って、何を考えているの、私)

慌てて彼女は頭を振る。

ベットは親友の未来の夫。そんな彼を想うなど、親友失格だ。

ふと、ベットが彼女に視線を向けた。

「………君にはお付き合いしている殿方はいるのか?」

「……!?ゴホッゲホッ……!!」

「大丈夫か!?」

突如投げかけられた質問に、シャリテは飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。

さすがにベットがいる手前、そんなことはできなかったが、その代わりに飲み込んだお茶にむせてしまう。

いきなり何を聞いているのだろう、この野獣は。

「び、びっくりした……どうしたんですか、いきなり。」

何とか落ち着き、息を吐いてシャリテは問うた。

「いや、君のような年頃の女性との話題があまりピンと来なくてな。驚かせてしまってすまない。」

ベットは申し訳なさそうに言葉を述べた。

尻尾がシュンとなっていて、とてもわかりやすい。悪意はないようだ。

シャリテはふふっと小さく笑った。

「…………今までお付き合いしていた方は何人かいました。でも、​───────」

言葉と共に彼女の頭の中に何人かの男たちの顔と言葉が浮かんだ。


(君との結婚も考えた。でも、君の運命の書は白紙じゃないか。どうなるのかも分からないのに、結婚なんてできないよ)


(もう君と付き合うことはできない。今度、運命の書にかいてある女性と見合いで結婚するんだ。)


(君の運命の書が空白だなんてことは関係ない。だって君は家事ができるし力もある。うちで働けばとても助かるなぁ)


これまで一緒に過ごしてきた男性は、シャリテの運命の書が空白だと知った途端、すぐに距離をとっていった。

それでも構わない、と言ってくれた男性は付き合った当初よりも何故か雰囲気が代わり、働かない人間になってしまった。

後者はシャリテが甘やかして身の回りのことを全てしてしまった結果だが、本人は気がついていない。

「……………お付き合いしている方はいませんが、今恋い慕う方はいますね。」

「ほぉ。誰なんだ?」

それはあなたです​───────と言えたらどんなに楽だろう。

シャリテは喉まで出かかった言葉を飲み込み、笑顔で言った。

「秘密です。」

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