雄英1年A組と寮母さん

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野に咲く花のように強くあれ(芦戸 三奈)

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*寮母さん怒らしたら怖えよって話。

*仮免取る前くらい?




「あらあら、こんな所にいたのね」



それは、あたかも当たり前の事のように。日常であるかのようにごく普通に靴を鳴らしながら入ってきた、拘束された彼女―――芦戸三奈の前に。


芦戸がその瞬間を目撃したのは本当にたまたま、偶然とも言える。運悪く友達と予定が合わず、仕方なくひとりでぶらぶらと歩いていた。いちごシェイクをストローから吸い上げ、気道を冷やしながら凌いでいた暑い日。

ふと目に入った大人の男が子供に道を訊いている様子は、いつもだったら何も気にしなかっただろう。ただ、その時の芦戸は何故かじっと様子を見ていた。すると大人の男が子供の手を引いていこうとして、子供は抵抗をはかる。近くの路地に連れ込もうとしているように見えた、直感的に“まずい”と察知した瞬間に芦戸の身体は動いた。



「ちょっと、子供一人に何やって…」



子供の肩を掴んだ、その瞬間、芦戸の意識は暗転した。


どのくらい時間ときが経ってからなのか、芦戸は重たい瞼を上げた。頭がガンガンする、身体を起こそうとしたら身動きがとれない、両腕は後ろでしっかり固定されている。隣に子供が手足を縛られて転がされているのを見つけて、芦戸は冷水を浴びせられたような感覚に襲われた。

すると歯と歯をくすくすと擦り合わせるような嘲りが聞こえた、そちらに目を向けると見知らぬ男が四人ほど。薄暗がりながら、そこはどこかの廃墟であると芦戸でも分かった。



「オニーサン達、何なの?誘拐犯?」


「よく分かってんじゃねえか、生憎とお前さんには用はねえ。抵抗しなけりゃ危害は加えねえ、大人しくしててもらうぜ、雄英のお嬢さん」



そう言ってリーダー格らしい男が立ち上がった、どうやら主犯はこの男らしい。さて、どうしたものか。芦戸の“個性”を持ってすれば拘束は簡単に溶ける、しかし問題はその後だ。子供を置いていくことはできない、かといって自分は雄英の生徒ではあっても“個性”の使用は一般人と同じく禁止されている。仮に除籍覚悟で使ったとしてもこの人数、子供を守りながら切り抜けられる自身はない。USJや合宿の時とは勝手が違う、芦戸は八方塞がりであることを理解して唇を噛んだ。



「……上が騒がしいな、様子を見てくる。勝手なことはするなよ」


「へいへーい」



ここはどうやら地下らしい、バタバタと上階が煩くなっていることに気付いたリーダー格が階段を上がっていく。一方で子供は膝を丸めながら震えていた、芦戸はずりずりと身体をできる限り動かして寄り添う。



「…大丈夫?痛いところでもある?」


「ううん、大丈夫…大丈夫だよ…、」



気丈に振る舞いながら子供は泣くのを堪え、芦戸に答えているようで、自分に言い聞かせているようでもあった。自分よりも小さい子供が苦痛にも近い恐怖と不安を堪えながら耐えている様子に胸が痛んだ、不安だろうに、つらいだろうに。

芦戸は拳をぐっと握る、リーダー格の男が居なくなった後の三人、切り抜けられるかは自信がない(でも、やる前に諦めるなんて)(ヒーローじゃないよね!)。


手探りで縄に手を当てる、じわっと溶けていくのを悟られないように“個性”を発動する。一対多の場合は不意打ちが一番有効だ、バレないようにこっそりと溶かしていく、そして緩んだところで。


―――だんっ!



「なんだぁっ!?」



室内を弾けるように跳んだ、元々運動神経は良いのが幸いだった。天井ギリギリまで跳び上がり、ダンス由来の身体のバネを活かして腰をひねると勢いのままに蹴りを繰り出した。



「おりゃぁっ!」


「ぐへぇっ!?」



脳天直撃、まともにくらったひとりは簡単に倒すことができた。思わぬ不意打ちに残り二人が動く、ひとりが腕をムキムキとさせた。どうやら筋力強化系の“個性”らしい、ただし。



「うらあぁぁぁぁっ!」



襲いかかってきたところで強化されたのは腕だけで後は丸裸のようなものだ、一撃を身を低くすることで交わした芦戸は急所めがけて渾身の一撃を出した。



「ひぎゃっ、!?」



軸となっている身体そのものはそのまま、みぞおちにもろに食らった二人目もまたあっさりとやられてしまった。緊張と動きまわったおかげで芦戸は息が切れる、すると油断してしまったのだろう。ビュッと風を切った何かが芦戸の身体に巻きついて、拘束されてしまった。



「この糞ガキがぁっ!」


「ぅあっ!?」



巻き付いたそれは三人目の腕が形を変えて鞭となっていた、グンッと引き上げるようにそれを振るった三人目は容赦なく芦戸を捕らえたままコンクリートの床に叩きつけた、叩きつけられた衝撃に身体が悲鳴を上げるのは勿論、肺が短く酸素を吐き出した。詰まるような不快感と痛みに悶えている芦戸の髪を引っ張って、三人目は怒りに震えた。



「余計な手間かけさせてんじゃねえよなあ!?」



ぎちぎちと食い込んでいく、(女の子の髪ひっぱるなっつーの!)、それでも何とかもがこうとする芦戸のその頬を三人目は殴った。衝撃に揺さぶられた脳がくらくらと眩暈を起こす、(まだ、まだ)、それでも他の二人が起き上がらないうちになんとかしなくてはと反抗を試みようとした、その時だった。


階下に向かう靴音が地下室へと反響した、リーダー格が戻ってきてしまったのか、だとしら望みは薄くなる。自らの浅はかさと短慮さを恨んだ、子供一人助けてあげられないなんて(何が、ヒーローだ)。


しかし、予想は覆されて、冒頭に至る。



海月クラゲ、さん…?」



鳴り響いた靴音はリーダー格のものではなく、慣れ親しんだ寮の管理を任されているその人だった。にっこりと、いつもと変わらない笑顔を向けて頬に手を当てて話し続ける。



「探したわ芦戸さん、さぁ、帰りましょうね」


海月クラゲさ、にげ、」


「おい女!ひとの縄張りに入ってきて何言ってやがる!この状況を見ろやァ!」



完全無視されている三人目は目を血走らせながら海月クラゲを睨むが、当の彼女はどこ吹く風ぞと言わんばかりに微笑みを絶やさないし曇らせもしない。淡々と芦戸を痛めつけた三人目へと歩み寄ってくる、全く動じもしない海月クラゲに恐怖に似た不気味さを感じた三人目は焦り出した。



「て、めぇ、こっち来んじゃねえ!上の連中は何してやが…」


「ねぇ、お兄さん。あなた、それ以上その子を傷つけない方が得策よ?」


「あ"ぁ"!?」


「だって、」



―――これ以上、プライドをずたずたにされたくはないでしょう?


スゥッと細められた丸みを帯びたたれ目が、まるでナイフのような、いや大昔に使われた刀のような鋭さが覗いた。同時にその場の空気が湿度を忘れたかのごとく冷えた錯覚すら覚えた、それほどに海月クラゲの穏やかな口調と比例して怒りの深さが伝わった。



海月クラゲさん!後ろ!!」



いつの間にか復活した筋力強化系の“個性”の持ち主が海月クラゲを狙った、気配を察した芦戸が悲鳴に似た叫びを上げる、三人目がふっと嘲笑った瞬間。



「…あ"!?」



床に転がったのは筋力強化系の方だった、振り上げた拳を身を翻すことで躱して、ぶしゅうっと煙のようなものが噴き出て相手にかかった。すると相手はくらくらと眩暈を起こした、と思ったら追撃としてハイヒールによる蹴りが顎に入った。

ズゥンッ、巨躯は軽やかな一撃によって後ろ向きに倒れて、動かなくなった。狙ったのは顎だ、頭部に近いところであれ、衝撃は大きいはず。ならば、起き上がるのも難しいだろう。



「さて、今すぐその子とあの子を離して大人しくなるのとボコボコに殴られて気絶した後お縄になるのとどっちがいいかしら?」



些かすっきりしたようにも見える清々しい笑顔に、三人目は青褪めて芦戸を解放したあと、警察とプロヒーローが上階から降りてくるまで大人しく正座していたとかなんとか。






「たまたまだったのよ、調味料の買い出しに出てたら葉隠さんから連絡があってね」



警察からの事情聴取を受けた帰りの道すがら、曰く、とっくに戻っていてもいい時間なのに芦戸が戻っておらず、しかも携帯も繋がらないので心配になった葉隠から海月クラゲに連絡がいき、もしやと思ってイレイザーヘッドや根津校長に連絡を繋げてから要請を受けたプロヒーローと並行して探していたのだという。

先日、ニュースでヴィランによる悪質な誘拐が近辺で問題になっていた。巻き込まれている可能性は充分にあり得ると、判断した上での捜索だった。



海月クラゲさん、あんなに強かったなんて知らなかった…」


「いいえ、強くないわ。運がよかったのよ、発目さんから護身用に貰った発明品もあったから、そのお陰ね」



発目 明、サポート科に在籍する雄英の生徒。失敗作も多いようだが熱意と意欲が相まって成功作もまた数多く産みだす、正確に難有りと聞いていたがどうやら海月クラゲはそこそこ付き合いがあるらしい。

運が良かったのだ、海月クラゲはのたまったが運もまた実力の一つともいえると芦戸は考える。それに海月クラゲはなんの策もなく敵地に踏み込むような馬鹿には思えなかった、そう、自分と違って。



「……迷惑かけて、ごめんなさい……」



しゅんと萎れた花のように芦戸は項垂れた、自分は一体何が出来たんだろう。


ヒーロー科に入ったのはもちろんヒーローに憧れたからだ、華々しく、そして格好良くピンチに立ち向かう姿を目標と定めたからだ。そして、誰かを助ける、誰かにありがとうといわれる、この誇らしさが何よりも代えがたいことも芦戸は知っている。


しかし、現実はどうだろう。自分はまだ学生とはいえ、子供ひとりを助けることもできない、無力で無知で愚かであることを笑って誤魔化すことはできなかった。到底胸を晴れるものではなかった、情けなくて、恥ずかしくて、芦戸は漏れそうだった弱音を堪える代わりに謝罪を述べた。



「……貴方が彼らに向かっていったこと、確かに状況だけを見れば誇れるものではないわ」


「っ、!」


「でもね、あの子を助けたのは誰でもない貴方よ。芦戸さん」



芦戸は目を見開いて顔を上げた、既に暗い空を照らしている月明かりが海月クラゲの優しい眼差しに射し込む、少し離れていた位置で歩いていた芦戸に寄り添うように海月クラゲは芦戸の隣へ、そしてその手を握った。緊張で冷たくなっていた、傷だらけの手を。



「あの子の“個性”、上鳴くんと同じ電気系だったそうよ。これまでも付け狙われていたことがあったらしいわ」


「えっ!?」


「もしも、そのまま誘拐されていたら。どこかの企業に秘密裏に取引へ出されていたでしょう、母親にも父親にも会いたくても会えないところで無体を働かれたかもしれないわ」



個性目的の誘拐、というのは聞いたことがある。特に上鳴のような電気系の“個性”の持ち主は狙われやすいとも聞いた、それを思い出して芦戸の手に力が入った。そういったクソのような企業が小学校低学年程度の子供を攫ってやらせることなど容易に想像がついたからだ、(許せない、そんなの)。そんな芦戸の胸中を知るはずのない海月クラゲが、労るように手の甲を撫でる。いつも料理や掃除をする、母親の面影を重ねてしまいそうな程優しく。



「ね、何もかもがマイナスでも無駄になったわけでもないわ」



よく頑張ったわね、もう泣いてもいいのよ。


小さい子供に言い聞かせるように、諭すように、鼓膜を鳴らす声に言葉に、芦戸の目からじわりと堪えきれなかったものが溢れる。(ずるい、ずるい)、そんな優しい言い方されたら、(ホントに泣いちゃうじゃん、ずるいよ)。



「ふっ、う"っ、ぅ"う"ぅ"ぅ"ぅ"〜〜〜……っ!」


一度溢れ出してしまえば、止めることは難しく。濡れた視界を何度も手の甲で拭って、拭って、それでも止まらなくて。

そんな芦戸を自分に引き寄せながら、まるであやすように海月クラゲはずっと泣き止むまでその背中を擦り続けた。


―――ともあれ、今回首を突っ込んだことに関してお咎めがないかといえば、そうでもなく。イレイザーヘッドから反省文を書くように言いつけられた訳だが、何日か後に届いた一通の手紙が届く。



海月クラゲさーーーんっ、見て見て見て見て!これ!!」


「……あらあら、あの子からお礼の手紙なのね。良かったわね」


「へへっ、うんっ!」



さて、救われたのは誰なのか。





普段笑ってる印象が強い芦戸ちゃんですが、やるせない時もあって、でも強く前を向くからこそ笑う子なんだと思うわい。願望詰め詰め←←←