Mirrordoll

卯月姫@花雪
@hanahanasikihim

〝私〟の初任務

『…の……務      は…失敗…許…


な…   

    ……誰……れ……い……


            …よ……完………に

為………』


ぶつ、ぶつと途切れながら誰かの声を夢に聞く。

為っている時に見る夢は為っている対象の記憶であったりすることが多い。


これは冬華の記憶だろうか。

何か……命令を受けている……?



「冬華。とーおーか!!朝だよ!!」

「ぅ……んぅ……あ、花火ちゃん……おはよう…」

「おはよう冬華!昨日バタバタしてたし疲れてるのかな。いきなりなんだけど今日の任務行けそう?

まだ体調が優れないなら休んでてもいいって佳乃さんが。」

「大丈夫だよ。今日から一週間は町の警備だったっけ。」

「今のご時世、町中でも何があるかわかんないしね~物騒な世の中になったな~」

頷きつつ鏡はぐうっと腕や背を伸ばした。確かに花火の言う通り疲れているのかもしれないがそれをおくびには出さない様に振る舞うのが鏡の仕事である。気を抜いてはいけない。

花火と談笑しつつ用意を整える。朝食を食べに向かうと既に時雨と悠は朝食の準備をしていた。

「お、やっと来よった!二人とものんびりしとったんか知らんけどオレら準備しといたったしな!片付けはせぇよ!」

「偉そうに言ってるけどそんなに遅くなってないでしょ!!ねぇ冬華?」

「あはは、まぁまぁ二人とも、とりあえず朝ごはん食べよう?ほら、悠くん待ってるし」

「あ~やっぱり冬華はオレのオアシスや~

ボソッ(キッツイ花火と違って

「はぁ?!」


痴話喧嘩を繰り広げる二人を尻目に僕は悠の元へ向かう。少し眠たそう。

二人に聞こえない程度の音量で話しかける。

「おはよう悠」

「おう。……今日の任務出んのか?」

「うん。体調も大丈夫だし、あんまり閉じ籠ってても疑われそうだしね。」

「まぁ確かに冬華は積極的に任務に参加する方だしな…」

それから手早く四人分の朝食をよそって席につく。少佐は既に別の場所に居るようで朝食には来なかった。


今日から一週間行う任務は町の警備という比較的楽で日常的な任務だそうだ。治安の悪い今の世の中では町中でもトラブルが起こりやすく警備の必要があるらしい。特別な任務がない時には非番以外のだいたいの班が町の至るところに在中している。

朝霧班が割り当てられた所は今居る軍舎よりも少し離れた所にある町の東の外れの方だ。

東の外れと言えば特に治安が悪いことで有名で、裏道や細い道が多く闇市場などがよく検挙されているが、その数は年々多くなっているらしい。

普段なら二、三人ずつに分かれて二地点を警備するそうなのだが『冬華』の体調等を考慮して、今回は五人全員で一地点を警備することになった。


現場には既に佳乃が先に行き、鏡達を待っていた。

「すいません少佐。遅くなりました。」

「いえいえ、大丈夫よ悠君。冬華さんは昨日戻ったばかりなのだし。冬華さん、体調どうかしら?」

「大丈夫です!ありがとうございます。今日の任務も頑張ります!」

「キター!!〝今日の任務も頑張ります〟!!ほんまに冬華が帰ってきたー!!」

突然時雨が叫んだ。そう、冬華はいつも任務の前にこの「今日の任務も頑張ります」というセリフを言うらしい。実践した鏡は安堵の表情をバレないように浮かべていた。

そんな時雨に花火が

「ほんっっとにうるさいよ時雨そろそろ殴るからね」

と睨みを効かすが当の本人に効き目はない様子。

それを見て苦笑を浮かべる悠。その様子を微笑ましく見つめる佳乃。

こうして鏡の〝冬華としての〟記念すべき初任務が始まった。


警備と言っても何もなければ立っているだけで暇だなぁ(だからと言って何かあって忙しいよりは良いか)と鏡は既に思い始めていた。

五人全員で警備しているとはいえ、目の届く範囲に全員が居るだけなので自然と少佐、時雨と花火、悠と自分といった感じに分かれる。時雨と花火はさすが幼馴染み、時おり賑やかに話が弾んでいて任務中なのに楽しそうである。しっかり周りを見てさえいれば話をしたりするのは比較的許可されているようなのだが、中々どうして悠とは話が進まない。というか話しかけにくい。こちらには一瞥もくれず、ずっと町を見ている。


どうにも暇なので、鏡は悠の観察をすることにした。

(……写真でも見たけど、やっぱりかっこいいなぁ。赤い目が綺麗…少佐の耳飾りと同じ色…睫毛長いし、鼻もスッと通ってるし、こういうTheイケメンみたいな人もってみたいなぁ…)

ボーッと観察を続けていた鏡の視線に気づき、悠がこちらを見る。

「……何だよ。何か付いてるか?」

「えっあっいや、その……暇だし観察でもしようかなって…」

「何だよそれ…どんな暇潰しだよ」

しどろもどろ答える鏡を見て悠が少し笑う。

「く、癖というか習性…?というか……でもやっぱり悠かっこいいなぁって」

「っはぁ?!」

急に照れ臭そうに顔を赤くする悠。あれ?ちょっと面白いかも…

「睫毛長いし鼻もスッと通ってるし赤い目も綺麗だなぁと思っ「わかった。わかったから黙っとけ。」

僕の褒め殺しにすっかり赤くなりながら悠は僕の口を塞ぐ。本当のこと言っただけなのに照れ屋さんなんだなぁ。これは可愛い。

調子に乗った僕が次に口を開こうとしたのを見計らってか悠が急いで僕より先に口を開く。

「お前の!」

「え?」

「お前の……きょうの見た目は、どんなのなんだよ」

「……僕の……?」

そう問われて僕はしばらく自分自身の姿を見ていないことに気づいた。鏡は見たら命に関わるし、誰かの姿を借りてないとそれも命に関わるし……うーん…確か…

「確か……髪も目も真っ白…だったと思う。」

「〝思う〟?」

「僕、自分の姿を持たないからさ。誰かの姿を借りてないと死んじゃうから、ずっと誰かしらの姿になってて、鏡も見たら命に関わるし自分の姿はしばらく見てないなぁ…って。昔一度か二度、写真で見せてもらったことはあるよ。」

「……」

普通のトーンで話しているのだが、悠は急に神妙な面持ちになる。

ワケわからないこと言い出して何だこの生き物って感じなんだろうなぁ。

と勝手に納得していると、

「それ、」

「ん?」


「危なくないのかよ」


悠が僕の肩を掴み、真剣な目でこう言った。

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魚が泳ぐ教室で、『神様』と話したありふれた夏のこと。