Mirrordoll

卯月姫@夏花
@hanahanasikihim

響く開演ブザー

「悠くん。ただいま。」

微笑みながらそう話しかける。

完璧にできているはずだ。あれだけ資料を読んだのだから。しかし、


「……お前誰だ?」


返ってきたのは予測していなかった返答だった。

少佐は明らかに慌てているが極めて平静を装い問いかける。

「な、何を言っているの?悠君。どう見ても冬華さんで「〝僕〟が、わかるの?」


「「え?」」「あ」


西宮…悠の訳がわからないといった顔。少佐の真っ青な表情。


やってしまった。

よりにもよって西宮悠…ターゲットに(半ば自白だけど)バレてしまった。


……つい、つい口が、動いてしまった。

僕を、僕を暴いてくれたのが、見つけてくれたのが、初めてだったから。


つい、口が動いてしまった。


「なんで違うって解ったの?僕完璧だったつもりなんだけど」

つい嬉しさが隠しきれない声で訊ねてしまう。

「いや、全部全くいっしょだった。……いっしょだったけど、何となく、何となく違う気がした。」

「な、何となくかぁ……すごいな……」


いや、そんなことより。

どうしよう、失敗なんてすれば、またマスターたちに怒られる……

もう絶対に誤魔化せないし……

僕が途方にくれていると、少佐が動いた。

「実はね、悠君………」



今回の僕の全ての任務を悠に説明した。

どうせ正体がバレてしまったのなら、任務の全容を黙っている方が怪しいのでは、と少佐は判断したようだった。

僕が鏡人形という生物であるということ、本物の冬華はまだ眠ったままだということ。悠は何とも言えないような顔で話を聞いていた。

「まさかバレるなんて思っていなかったから………どうしましょう。始まる前に任務失敗なんて、ねぇ………」

「あの、少佐、大丈夫ですよ。僕研究所に戻ります。」

「え?だけど冬華さん、」

「いいんです。怒られるのは慣れてますから。」

マスターたちの落胆した顔を思い出して少し悲しくなったけど、僕は少佐にそう伝えた。怒られるのは劣等生の役目だ。今さら悲観することじゃない。

そうして僕が一応悠に声をかけようとした時、悠が先に口を開いた。

「任務、続ければ?」

「「……え?」」

僕と少佐の声が重なる。

するとまた悠は平然とこう言う。

「俺が〝お前が鏡人形だって気づいてない〟フリをすればいいだろ?少佐と俺とお前、演技をする人数が増えただけだ。」

「そ、それで………大丈夫かな……?」

思っていたより単純な人のようだ。

事の経緯を見守っていた少佐も、僕らがいいと思うならいいのだろうと特に反論はしなかった。


「じゃあ…改めてよろしくね悠くん。〝私〟も頑張るから」

「あー……別に事情知ってるやつの前では『冬華』やらなくていいぞ」

「え、でも」

その申し出は大変ありがたいが、ちゃんと切り換えできるだろうか……こんな事態は初めてなので混乱してしまう。

まぁでも、その方がずっと楽だ。

僕はその提案を甘んじて受け入れることにした。

「……〝僕〟の時は、君のことを悠と呼ぶよ。よろしくね、悠。」

「別に何でもいい。勝手にしてくれ。」

悠は少し僕を突き放すように話す。

まぁ…愛する恋人がまだ病に臥せているというのに、その恋人の姿をした変な生物が出てきたとあってはその反応も正しいのだろう。

悠のことを傷つけないようにしなくちゃ。



変な状況にはなってしまったけど、予定通りこのまま残りの二人とも合流するべく朝霧班の部屋に向かう。

向かうといってもそこまで距離はないんだけど切り換えは大事だ。深呼吸、深呼吸。今から会う二人にとって僕は『病気から回復した久しぶりに帰ってくる冬華』なのだ。先程のようにヘマはできない。

もう一度深呼吸をする。

「いくわよ、冬華さん。」

少佐がそう言ってドアをノックした。

「時雨君、花火さん、いるかしら?」

「あっ!佳乃姐さんお疲れ様です!」「佳乃さんお疲れ様です!どうぞ入ってください!」

元気な声が返ってきた。

ドアを開けると向こう側にいたのは資料通りの二人。

「うっわ~!!冬華や!!ひっさしぶりやなー!!めっちゃ元気そうやん!!」

全体的に短髪で襟足だけ少し長い黒髪、つり目がちで小さな目、自身の故郷での方言を使う東藤時雨と、

うるっさいよ時雨!!でもよかった~冬華が元気になって!おかえり冬華~!!」

茶髪のお団子ヘア、同じく茶色の目、時雨と同郷だが方言は使っていない志田花火。

これで朝霧班全員と接触した。


「時雨くんも花火ちゃんもありがとう!ただいま!」


よかった、この二人には気づかれてない。

この調子で頑張らなくちゃ!!




ここから僕の賑やかな朝霧班での日々が幕を開けたのである。

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永い時を生き、それでも夢見たのは、誰かのそばにいること。

黒を纏った、雪のように美しい〝悪魔〟に、恋をしたのだと思っていた。