Mirrordoll

卯月姫@夏花
@hanahanasikihim

冬華の完成

周りの人間から見れば、一秒にも満たない。

僕の姿はもう冬華になっていた。

藍色の前下がりボブの髪、紫色の大きな目、小さめの口………女の子らしい可愛さを持つ美少女である。

「………本当に冬華さんの姿に……」

僕の為りを見て朝霧少佐が声を上げる。確かに慣れていなければ中々驚く場面だと思う。

「鏡人形はそういう生き物ですのでこんなことは出来て当たり前です。

それでは少佐、後は頼んでよろしいのですね?」

「わかりました。お任せくださいな。」

朝霧少佐がマスターに穏やかな微笑をたたえてそう告げる。

これから僕はいきなり朝霧班に入る(戻る)。混乱が起こらないように既に数日前から〝冬華〟が今日戻ることは伝えられているそうだ。

「さぁ、行きましょうか。」

僕は本物の冬華じゃないのに、本物は目の前で眠っているのに、朝霧少佐は本当に嬉しそうに、まるで本当に戻ってきた冬華を見るように僕のことを見る。薄い桃色の優しい目。

その視線が、ちょっとくすぐったくて不思議な気分。

三人で病室を出て、僕ら二人とマスターに別れて廊下を歩く。マスターの戻る研究所と、僕らの向かう軍本部とは出入り口が別になっているからだ。

だいぶ歩いてマスターの靴音も聞こえなくなった頃、前を歩いていた朝霧少佐が急に振り向いた。

「それで鏡人形さん!!」

?!………はい!?」

朝霧少佐は、先程の慈愛に満ちた目線とは違う、興味津々といった感じの瞳で僕を見た。

「あぁいえ、〝冬華〟さんね、慣れなくちゃだわ……」

そう言って少佐は確かめるように一人呟いている。

「あの……失礼を承知でお訊ねしますが、少佐は隊員のことを下の名前で呼ばれるのですか……?」

「えぇ。仲間というものはお互いを信頼しあってこそ成り立つものだから。呼び方風情で、とはよく言われるのだけど、私自身がしたいからそうしてるのよ。だから私のことも自由に呼んでちょうだいね。」

「はぁ…」

出会った当初から思っていたけど、お人好しというか何というか……良い上司を絵に描いたような人だ。

これまた気になるといった感じでまた少佐が僕に訊ねる。

「冬華さん。そうやって他の人に変身する、というのは声や体格もなのね。本当に興味深いわ……」

「そう…ですか」

「ただね、見た目は変わるけど中身はどうするの?その人の性格や能力までは真似できないんじゃないかしら?」

「事前に綿密に調査して性格等は忠実に再現します。能力は声と同じようにコピーできます。…たとえば」


心を貸して、朝霧少佐。


心の中でそう言って僕は少佐の姿になった。

「こうして朝霧少佐の姿に為れば、朝霧少佐の明晰な『頭脳』を僕が同じように使える…ということです。」

説明する僕を少佐がまじまじと見つめる。

「不思議なものねぇ……本当に鏡みたい……」


心を貸して、冬華。


また冬華の姿に戻る。

「なるほど、よく解ったわ。ありがとう。

あ、それと、もし何か困ったことがあったらすぐ私に言ってね。私のできる範囲であれば何でも冬華さんの力になるわ。」

「ありがとうございます。すごく助かります。」


そうこう話しているうちに本部へと到着した。そしてここからそれぞれの軍舎に移動する。軍舎とは本部とは離れた場所にある各地の基地のようなもので、4~5つの班で一つ…というように割りふられている。朝霧班の軍舎は本部から割と近い場所にあるので短時間の移動だった。

移動中の車内で〝私〟の恋人、西宮悠の話を聞いた。

「とても真面目で優秀よ。ただ、実力は申し分ないんだけど、よく言えば素直で、悪く言えば単純といった感じの子よ」

「(馬鹿なら扱いやすくていいや)そうですか、わかりました。」

「悠君は冬華さんのことが大好きなの。……あなたとも、仲良くなれたらいいんだけど……」

そう言って少佐は心配そうにこちらを見ていた。

とうとう軍舎に到着した。軍舎の中はまた部屋に分かれていて、朝霧班の部屋は奥の方だ。しかし、とりあえず先にまずは西宮悠に会うことになっている。一応恋人であるのだし、まずここでテスト、というわけだ。

二人で西宮のいる部屋に向かう。少しずつ緊張してきた。ターゲットに会うときはいつもそうだ。


こんこん


「悠君私よ。入っていいかしら。」

「朝霧少佐、お疲れ様です。どうぞ。」

中から少し弾んだ男性の声が聞こえた。

ドアを開けて中に入ると、そこには赤に近い茶色の髪、赤い目を持った、調査資料通りの西宮悠が立っていた。



さぁ、〝冬華〟の始まりだ。


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