Mirrordoll

卯月姫@夏花
@hanahanasikihim

反転の実像

今回僕が為る人の名前は『水澄みすみ 冬華とうか』、そして、水澄の恋人の名前は『西宮 にしみや ゆう』というらしい。

水澄は一等兵、西宮は上等兵、西宮の方が位は一つ上だ。

二人は『朝霧あさぎり 佳乃よしの』少佐率いる朝霧班の班員で、朝霧班には二人の他に『東藤とうどう 時雨しぐれ』上等兵と『志田しだ 花火はなび』二等兵が所属している。

大和帝国軍は大きな一つの軍ではない。

所属は全員帝国軍ではあるが基本の形は5~6人(内一人は少尉以上のリーダー)で構成された少人数班で、作戦や任務内容によって班を組み合わせたり、軍全体で行動したりする。

しかし水澄冬華が病気にかかり、現在は朝霧班を抜け軍本部で療養中。朝霧班は今4人しかいないため任務に支障が出る可能性がある。鏡人形が〝冬華〟役に抜擢されたのはそういう理由もあるようだった。


『恋人』役……

正直あまり気乗りしない。

いや、気乗りする任務なんて今までなかったけど。

『恋』なんて難しい感情を伴う内容はとてもやりにくい。これならいっそ恋も愛もない爛れた関係の方がましだ。


でも、拒否することなんてできない。


任務が嫌で文句を言ったことや、上手くできなくて失敗してしまったことがある。

そのたびに研究員たちは…マスターは僕を責めた。

『お前の代わりさえいればすぐにでも処分するのに』と。

大和帝国軍は強大だ。だからこそ出来の悪い者は淘汰される。仕方のないこと、なのだそうだ。

僕はできるだけマスター達を悲しませたくなくて、どんな任務でも一生懸命頑張ってきた。今回の任務でも気を抜くわけにはいかない。

まずは水澄冬華へと会いに行く。

写真だけでは姿を借りるには不充分だからだ。冬華は病を発症してからずっと昏睡状態にあるらしい。詳しい容態はわからないが意識系統に関する病気、だそうだ。

薄暗い研究室からマスターと共に退室する。

退室さえすれば、あとは無機質な白い風景が広がる。無駄な飾りの無い廊下を歩き、車の停めてある駐車場へと向かう。

専用の車での目的地は軍本部にある軍人病院だ。

長い道中、車の中で必死に冬華の情報を覚える。声の音声データを聴き、目の色など昏睡状態により確認できない部分を写真で補正する。あとは口調、呼び方、仕草、癖………様々な情報を頭に叩き込んでいく。

記憶に関してはどうしようもないが、その点については特に問題はない。

僕は姿を借りている間だけ、その人の記憶や心が解る。全部完璧に解るわけじゃないけど、為る分には支障はない。

そうして病院に到着する頃には、水澄冬華をほぼ完全にインプットしていた。

静かな病院の中を歩く。

傍目から見ればマスターと研究員(瑞木)が二人で歩いているだけに見えているだろう。

「もうすぐ病室だ。できるだけ早く写せ。」

「……わかりました」


『306号室』


ここが冬華の病室だ。

コンコン

「失礼します。」

マスターがドアを開けた。

すると、

「あら、お見舞いの方かしら?」

落ち着いた女性の声が聞こえた。

中を見ると冬華が眠っているであろうベッドの横に、紫色の長い髪をポニーテールにまとめた女性が居た。軍服を着ているから軍人だ。こちらを向いた拍子に赤い耳飾りが光る。雫の形をした小さなものだ。

「いえ、鏡人形を連れてきました。」

「あぁ例の………じゃあそちらの科学者さんが………」

「はい。これが鏡人形です。」

女性……朝霧佳乃が僕を見る。

「今回の任務で〝起きている〟水澄冬華がお前だと知っているのは、軍の上層部を抜けば朝霧少佐だけだ。他の人間には決してバレないようにするんだぞ。」

バレた時には解っているな?とマスターが目で言う。

そんなマスターの視線を尻目に朝霧少佐が僕の手を取った。

「よろしくね。朝霧佳乃です。」

「はい。……よろしく…お願いします。」

とりあえず挨拶は大事だ。

この人は付き合いが長くなるだろうし、悪い人のような気もしない。


「それでは鏡、為りを始めろ。」

マスターが命令した。

「……はい。」




心を貸して、冬華。

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