Mirrordoll

卯月姫@夏花
@hanahanasikihim

実験と任務

二度目の実験を終えて、研究者たちはある可能性に気がついた。

〝他意により為りが解かれてしまう可能性〟である。

普通は鏡人形の意思でのみ為りは解くことができるがただ一つだけ、それを強制的に解ける物があった。

『鏡』だった。

一度鏡を見ると強制的に為りは解かれてしまい、そこから10時間、誰の姿も写し取ることができなくなる。

自身の姿を保てるリミットは12時間、しかしその12時間は万全の状態で保ち続けることができるわけではなく、リミットに近づくにつれて身体的に辛くなっていく。

10時間も写し取れず、残る時間は2時間…これは鏡人形の体に相当な苦痛を要した。

なので、鏡を見てしまうことはいちばんのタブーとなった。それと同時に自身の姿で〝健康な〟状態を保てる時間が8時間までであることも解った。


いつも実験・任務が終わると、この液体の中に戻される。

鏡人形が生まれた、人間でいう子宮の中の羊水代わりの水の中に。

ピーと電子音が鳴り、水が少しずつ減っていく。完全に水が無くなると、口に付けられた酸素マスクや体の至る所に付けられたチューブが外されていく。

今の今まで自分が入っていた…水槽?のような入れ物から足を降ろす。基本的に僕はこの水の中に入ることで身体を回復する。正しく言えば、この水の中に入り、研究者たちに手入れをしてもらうことによって……だけど。

もちろん普通の生き物と同じようにご飯も食べるし睡眠も摂る。人に為っている時は普通の人間と同じ暮らしで事足りるけど、誰にも為っていない時はここで回復するよう研究者に言われている。

「体調はどうだ?異常はないか?」

「…何も異常ない。」

いつも通りの言葉、問い。

僕も同じように答える。

僕は今、目の前にいる茶色の短髪で眼鏡をかけた若い男性の研究者ではなく、その後ろで何やら機械を操作している若い黒髪の女性の研究者の姿を借りている。

男性の研究者の名は橋本というらしい。マスターと呼べと言われているから呼んだことはないけど。

僕の研究に関すること全てのリーダーであり、僕といちばん付き合いの長い人。

最初はこの人の姿を借りていたけど、そのうち自分の姿をしたものと話すのは落ち着かないからとやめるように言われた。

それからはずっと黒髪の……確か、みずという名の女性の研究者の姿を借りている。

いつも手入れが終わると僕の体調などに関してマスターに質問され、それに僕が答える。話し方は、マスターで覚えた。僕にははっきりした性別がないから一人称に〝僕〟を使ってもおかしくはないらしい(よくわからないけど)。

「よし、調整はこれくらいでいいだろう。」

そう言ってマスターが脇に抱えていたファイルから書類を出す。

こうした時は大抵任務の話だ。

「鏡、次の任務が来た。次はこの大和帝国軍内部での任務だぞ。」

とても珍しい内容の任務だ。

いつもなら任務の内容は大抵あの国のあの人物になって情報を手に入れる…とか、あの機関のあの人物の愛人の姿になって暗殺する…とか、そういった他国に対してのことだ。

僕はそういうことのために造られたのだから。

でも

「今回は…」

そのどれでもなかった。

今回の任務内容、それは



〝恋人になること〟。



何も伝えずにある人物の、病気で療養中の恋人に為り、僕がどこまで〝本物〟に近づけるのか、相手が僕へどこまでの気持ちを持つのかを検証する、という長期任務。

言わば、本物への『為り代わり』の限度のテストだ。

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