Mirrordoll

卯月姫@夏花
@hanahanasikihim

鏡の覚醒

「意識反応あり。覚醒しました。」

「圧力調整を少し上げろ。栄養分の点滴は途切れないように気を配れ。」


聞き慣れた音、見慣れた場所。

この研究所では、僕の『調整』をしているのだそうだ。


「おはよう〝鏡〟。僕らの最高傑作。」



僕は、この人たちに造られたらしい。

名前は〝鏡人形〟(『個体を識別するための名前ではない』らしいけど)。

造られたと言ってもロボットではない。

ちゃんと血も通っているし、心臓も動いているれっきとした生物。

ただ僕は、〝自分自身〟を持たない。

名前の表す通り、鏡のように人を写し取り、人形のように人の手によって初めて意志が生まれる。

研究者たちに言わせると、『くろーん』の進化版…らしい。


ここは一般的な研究所ではない。

極東の帝国……遠い過去には『日本』と呼ばれていた、現在、名を『大和やまと帝国』。

圧倒的な科学力を誇り、それに伴い軍事力も充分の強大な帝国である。

その大和帝国の中の第一研究所が、鏡人形の生まれた場所なのだ。

過去より極端に少なくなった物資、大きくなった気候変動…そんな過ごしにくくなった世界は、現在様々な国の塊に分かれていた。

同盟を結び支えあっていこうとする国々。

表立って協力はしないものの、お互いの意思を尊重し助け合う国々。

我関せずといったように、他の国に関わらず、我が道を行く国々。

そして、富国強兵精神を掲げ、領土を奪い合い、敵対する国々。

世界でも有名な敵対している国々は大和帝国と、その周りの三国だった。

その三国の中でも『しん』という国は、大和帝国と同じほどの強大な力を持つ国で大和帝国とは犬猿の仲である。

そして、そんな神牙に対抗するために開発されたのが〝鏡人形〟だった。


辺りを見回して、鏡人形は溜め息をついた。

何の面白みも変化もない場所。

それは、自分自身の人生をも表したようなものだった。

今までに鏡人形は様々な実験を重ねた。

生まれた時点からそれは始まっていた。

まず、生まれてくる姿は鏡人形の本来の見た目だ。

『自分自身を持たない』と先述したが、詳しく言うと少し違う。

もちろん鏡人形には体がちゃんとあるし、自分の姿も持っている。

ただそれを保つことができないのだ。

髪も目も真っ白で、肌にも色がないように見える…いわばアルビノのような見た目、それが本来の鏡人形の姿。

生命力を維持できるのが丸12時間。

『どこまで自分自身の姿を保っていられるのか』…研究者たちが誰も想定していなかった命がけの実験が、図らずも鏡人形第一の実験になった。

第二の実験は『どうすれば人の姿を写せるのか』。基礎中の基礎…といった感じだが、そもそもそんなことができるという確証もなかったので、成功作か失敗作か見極めるためにも行われた実験だった。

結果は大成功、見ただけの研究者を完璧に写し取ったのだ。声や体格まで完璧に。

本人曰く、「心を貸して」と唱えただけなのだという。

その後に写し取る対象の声や記憶、口調など、詳しい情報を与えれば与えるほどより本人に近づくことができることが判明した。

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永い時を生き、それでも夢見たのは、誰かのそばにいること。

魚が泳ぐ教室で、『神様』と話したありふれた夏のこと。