忘却ヒーロー

IKU@ナマモノ注意/薬研推/豊前サンレベリング
@Y0ayFxY5X1qwpfT

(まるで忘れるなと警告するかのように)

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―――その男はごく平凡な家庭の生まれであった、父母と妹がいる、ヒーローへの憧れが強い男であった。

超人社会の中でヒーローに憧れないものは少数に思われる、彼は大多数の人間に入るだろう。持ち合わせた“個性”はヒーロー向きではなかったが正義感が強かった彼は研鑽を重ねることで乗り越えようとした、努力は惜しまない男であった。ヒーロー科を受け、彼はそこで実力を積み続け、それまるで忘れるなと警告するかのようにが大樹となり実を成した―――プロヒーローになることができたのだ。その後、婚約者もできた―――しかし絶望は突然降りかかる。


その身を実験材にしようとするヴィランに囚われ、そして材料にされた。その実験によって得られたものは男を絶望に突き落とすには充分だった、荒ぶるままにその実験施設を出た先で正気を失う、そして気が付けば己が手で犠牲者を生んでいた。血まみれに横たわる見知らぬ優男と傍らに呆然と自分を見上げる幼い子供―――そして。



「逃げ、ろ、…―――!」



見知らぬ優男はそれだけ叫んで、事切れた。

逃げていく小さい背中を見送り、ヒーローだった彼は雄叫びを上げた―――初めて世界を憎んだ。




「最近、随分大人しいな。三月サツキ


「顔面蹴られたいですか相澤センセイ」


「怖……」


よく言うわ、どの口が怖いとか言えるのよ。

言いたくなくとも言いたくなるわ、口汚く罵ってしまいたかったのを堪えた。一応、相手はヒーロー科の教師だ。普段はそれらしくなくとも、ヒーローとしての能力も経験値も向こうの方が上だし。ただ、分かってても文句の一つや二つや三つは出るんだ。たまたま廊下で行き会った細めで目つきの悪い1年A組担任に悪態を吐きつつ、私は溜息を溢した。チラリと先生の視線が隣にいる梅雨ちゃんに流れる、気付いた彼女はにこりと微笑んだ。



「蛙吹や轟とも上手くやってるようで何よりだ」


「ちっとも嬉しくない誉め言葉をアリガトウコザイマス」


「尖るなよ、次の実技訓練、早めに身体ほぐしとけって伝えておいてくれ」


「はいはーい」



生返事だけして踵を返す、梅雨ちゃんが後を追いかけてくるのが分かった。恐らく呆れたように相澤センセイは見送っただろう、だが改める気もない。フーフーと毛を逆立てる猫よろしく興奮気味になる私の背を、馬を諌めるかのように撫でる梅雨ちゃんがコテンと首を傾げる。



鈴音スズちゃんは相澤先生が苦手なの?」


「苦手どころか嫌い」



あの気怠げなくせに見透かしたような言い方とか、何でか知らないが気に食わない。多分、本能的に天敵だと判断したのだろう。私が猫ならあっちは猛禽類、仲良くなんかできるわけない。その例えが可笑しかったのか、梅雨ちゃんはケロケロと面白げに笑った。いや、こっちは笑えないんだって。



「ねえ、鈴音スズちゃん。私、思ったことを言ってしまうの。だから答えにくかったら、ごめんなさい」


「?何?」


鈴音スズちゃん、どうして夜に寮を抜けだしてたのかしら?ケロッ」



少し距離を詰めて分かった、確かに彼女、蛙吹さん―――梅雨ちゃんは思ったことをスルッと口から出す。性分的なものなのだろう、曖昧に濁さず白黒はっきりしてると言ってもいい、悪いことではない。ただ、それはとても的確に相手の中心をついてくる……あまりの鋭さにこちらが押し黙るほど。

さて、どう答えたらいいのだろう。ただ単に夜遊び好きの不良だからと誤魔化してもいいが、恐らく嘘だと見抜かれるだろう。考えあぐねる、だって、嘘はつきたくない。



「行きましょうか鈴音スズちゃん、授業に遅れちゃうわ」



困っていると判断したのか、時計を見て彼女は話題を切り替えた。嫌味のない気の遣い方に申し訳無さが込みあげるのを感じて、たかだか数日間で随分と絆されてると改めて自覚する。それでも、これだけは、教えることはできない。嘘をつけない代わりに、私は優しい彼女に沈黙を貫くしかないのだ。



「オラァッ!」



こんな風に悶々とするときに“個性”なしの実技と称した格闘訓練に当たるのはすごく助かる、何せ思い切りストレス解消ができる。とはいえ、暴君と言わんばかりの爆豪と当たるとは運がない気がする。面倒臭い、緑谷とは相対的な印象だがプロヒーローになるという熱意は誰よりも強く感じる。性格的には裏表がなくていいのだが、はっきり言えば苦手なタイプだ。



三月サツキ!テメェ真面目にやれや潰すぞゴルァッ!」


「いや、こっちはすごい真面目…」



ただ、あんたの勢いに突っ込む気が起きないだけで。不良臭い割に根っこが真面目なのは爆豪の方なんだろうなぁ、真面目にやれやって…。そんな風に怒りながら繰り出す拳をかわしては反撃の隙を伺う、皮一枚一撃かわしたかと思えば今度は蹴りまでくる。

これキリないなと隙を伺うのをやめて作ることにした、一発が頬をかすめた瞬間に拳を掴む。



「っふ!」



素早く爆豪の腕を固定し、勢い良く身体を反転させると反動で爆豪の身体が浮いた。そのまま地面に叩きつける、が彼は立て直して私の手を叩き離脱。ううん、やっぱ簡単にやられてくれないか。



「…っ?」



どうしたもんかと迷っていたら皮膚が引き攣るような違和感が左上腕に走った、痛いというわけではないが拭い切れない不快なそれに気を取られた瞬間、その隙を見逃さなかった爆豪が間合いを詰めてきた。



「っ!」


「余所見してんじゃねえぞクソがっ!」



肩を掴まれてしまえば、後は早く。足をかけられてしまい、あっという間に地面に叩きつけられてしまった。そこまで、と鶴の一声もといイレイザーヘッドの審判が下り勝負ありと相成った。立ち上がって腕を抑える、ざわざわと背筋を這うような寒気が襲う。すると、私はぐらりと膝をついた。



三月サツキ?」



イレイザーヘッドが呼んでいるのが分かる、けれど段々と寒気がじわじわと強くなっていくもので私の唇は震えるばかりで答えられなかった。ズキンッ、電流が駆け抜けるような感覚が激痛となって襲ってきた。膝で立つことも辛くなって、身体が傾いた。



鈴音スズちゃんっ!?」


「おいっ、三月サツキ!」



ズキンズキンと強くなってくる痛みが波のように押し寄せる、身体が震えて呼吸が苦しくなるような錯覚を覚える。何もないはずの胃袋が嘔吐感を訴え始める頃には意識も朦朧となってきていた、ぼやける視界に映った梅雨ちゃんとその後を追いかけてくる轟。



鈴音スズ!」



二人が焦るなんて、珍しいなぁ。

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