北斗杯参加は勇気の讃歌

アッカ
@zuboranaAKKA

                   和谷義高 17歳   


楽平め、初出場で全身ガチガチになってるからって、オレのやる事真似して緊張解してんじゃねえよ。


北斗杯開会式前、オレは今年も出場出来ねえけど試合の見物に来たんだが。


伊角さんがにこにこしながら中国チームの楽平に話し掛けている。楽平がオレを睨みながらボソボソ何か言っている。

「和谷、楽平がお前こそ自分の真似をするなだってさ、ブフッ!」

「お前がオレの真似してんだろうが!」

ふーざけんなよこいつ。それに伊角さん、吹き出す程これが楽しいのかよ。

「伊角さんすんげーうれしそうだよな」

「ハハハ!夢にまで見たコラボが実現したんだからな、そりゃうれしいよ」

「何だよそれ・・・・・・」

そんなうれしそうな顔をされたら何にも言えねえだろ。

楽平が超うぜえ・・・。ただでさえさっきからこいつと顔が似てるからってだけで、色んな人にこいつとのツーショット写真撮られたりして嫌な思いしてるのによお、当の本人のお前までオレに不愉快な思いをさせんじゃねえぜ。

「もういいよ、伊角さんちょっとオレそこらをうろついてくるわ」

「分かったよ」


自販機でコーラを買ってホテルの中庭のベンチに座り空を見上げた。良い天気だな、雲が殆どないキレイな青空が葉桜の梢の上に広がっている。

ずっとイラついていると自分でも分かっていた。北斗杯は次で最後の出場チャンスだ、来年こそは選手としてここに来たい。今回の予選は良いとこまで行ったんだ。ダメだったけどな・・・・・・。

木陰の下から薄く透けた雲が流れるのを眺めて、暫くぼうっとしていた。


厚みのある雲が現れ影が濃くなった時、オレのすぐ近くに人がいる事に気が付いた。

横目で隣のベンチを確認、あーもうやだ楽平だよ。お前何時の間にここに来たんだ、もうすぐ開会式が始まるんじゃねえのか?

楽平はまだ身体から緊張が抜けてねえようだ、顔色良くねえし。

しょうがねえなあ。

楽平はオレと同じように右膝を上に脚を組んで、コーラの缶を右手で掴んで膝小僧の上に乗せている。

そうかよそんなにオレの真似をしたいのか。

オレはコーラを飲み干すと空き缶をベンチに置いて立ち上がった。伸びをするように両腕を上げると、楽平も立ち上がって両腕を上げた。

オレが頭の後ろで左腕を前にし、両肘を曲げ交差させる。楽平も左腕を前にして頭の後ろで交差したな・・・と、は、は、は。さあてお前にコレが出来るかな?

こうだああ!

腕を後頭部で固定したまま腰を左に入れる!顔を左斜めに傾けつつ正面を見る!手を左手は握り右手は指先だけを覗かせる!

これぞジョジョ立ち!見よ!このテクニックを!

横目でちらりと楽平を見ると、楽平は慌ててオレの真似てやがる。ギャハハ!ちげえよ腰は右じゃねえ左に入れるんだよ!

楽平が左に腰を入れ直した直後、俺は素早く体制を変えてやった。ふふん!次はもっと練度を上げてディオのポーズだ!

右膝を腹の位置まで上げると上体を前屈みに。それから左膝を少し落として、両手のひらを開いて指の第一関節だけを曲げる!指キツッ!身体キツッ!どうだ!お前にこれが出来るか!

我ながら素晴らしいポージングの出来映えに満足しつつ、オレの横に並ぶ楽平を振り返った。

嘘だろう・・・・・・楽平こいつオレの完コピしてやがる!指の第一関節まできっちり曲げて!

それどころかこいつ、ディオの邪悪笑いまで付けてオレを見やがった。うわ、オレが邪悪な顔をするとこんな顔になるのかよお!うわああ嫌だっ!

こいつ・・・・・・楽平やる!しかも確実にジョジョを知ってやがるぞ。

今度は楽平がコミックス七巻の表紙ジョゼフ・ジョースターのポーズを決め、た! 信じらんねえ、胸の前で交差した腕と指の形も顎のしゃくれ具合も完璧だぜ!

オレ達は視線をぶつけ合った。そして不思議な高揚感がここで生まれたのは間違いない。


オレ達は次々に荒業を繰り出していった!ジョナサンのポーズ!ジョゼフのポーズ!リサリサのポーズに承太郎!花京院!丈助のポーズだ!

ヨガのポーズよりも難易度を上げて、キッシュでかつコケティッシュでスタイリッシュにキメる!キメる!


ああ、身体が熱い。何かがオレの中から溢れだしてきそうだ。

そうだ楽平、勇気とは怖さを知る事、恐怖を自分の物にする事なんだ。人間讃歌とは勇気の讃歌だ。ツェペリ、いや間違えた森下先生、オレ来年は絶対北斗杯のメンバーに入ります!


そして最後は呼吸を整えながら顔の前で左手を開いて中指を鼻筋に当てた。右肩は上げ右腕は指先までピンと伸ばす。ジョジョ立ちの基本中の基本で場を締めた。これはオレ達にとってラジオ体操の締めの深呼吸なようなもんだった。

オレ達はやり遂げた、上空の清み渡った青空のような爽快な気分だった。


近くの遊歩道に人が立っているのに気が付いた。

高永夏だ。

高永夏は締めのジョナサンポーズをしているオレ達を、顎に握りこぶしを当てながら見ていた。

憐憫を含んだ微苦笑からの。ブホッと吹き出したかと思うと高永夏は腹を抱えてゲラゲラ笑い、ゲホゲホと頻りにむせながら北斗杯会場の方へ歩いていった。



「進藤、今日の韓国戦で高永夏と対決するのはお前か!」

「こっちになった」

「人を指差すな」

ぶすくれた顔で進藤が塔矢を指差した。こいつかあ!こいつかあ!くそっ!お前じゃねえのかこいつかよっ!

「うう~~、・・・・・・塔矢お前絶対高永夏なんかに負けんじゃねえぞ!」

「绝对不要输!(絶対負けるな!)」

「・・・・・・キミ達いったいどうしたんだ、楽平まで一緒になって」

「何でもいいんだよ!とにかくディオを倒せ!」

「杀死迪奥!(ディオを倒せ!)」

「ディオって?」

「え、高永夏あいつ日光に弱いの?」

「あのえれえキレイな顔、やっぱ石仮面ちゃうか」




後日談だが。


楽平とオレのジョジョ立ちが、何故かお堅い社会派写真雑誌の表紙を知らねえ内に飾っていやがった。

本屋の雑誌コーナーを通った時にそれを見付けて腰抜かしそうになった。

北斗杯のスポンサーがらみで大会の取材に来たカメラマンが、偶々ポーズを決めまくってるオレらを見付けていたそうだ。夢中になってて撮られていた事に全く気付かなかった。


表紙には太文字で『ジョジョ立ちに言葉はいらない』と大きく見出しが入っていた。ちげえよ囲碁に言葉はいらないって入れてくれよ。もう恥ずかしくて立ってらんねえ。



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