恋する動詞111題・021~030

みもち(創作アカ)
@mimochi_sousaku

030. 重ねる:東方雅美

「だれかー、ゴミ捨て一緒に行ってくれなーい?」

「ああ、俺行くよ」

誰よりも早く反応し、同じように声を上げかけていた隣のヤツに箒を預け、大きなゴミ箱の片側に手を掛けている彼女の方へと向かう。

「ありがとー、助かる」

「いや、俺だって当番だし」

「え? …あ、そっか」

そうだったね、と笑う彼女に苦笑を返しながら、とりあえず1ポイント、と思い、ゴミ箱を挟んで歩き出す。


ずっと気になってた彼女と同じクラスになった時、印象の薄い自分を覚えてもらう為に出来るだけ言葉を交わそうと決めて、数ヶ月。

これまでコツコツ積み重ねてきたポイントは結構溜まってきているはず、なのだが。

「あっついねぇ、今日。部活タイヘンだー」

「でもバスケ部なら室内だろ? 俺みたいに外で直射日光浴びるよりマシだと思うけど」

「いやいや、室内だって蒸し風呂状態になるから…って、あれ、東方くん何部だっけ?」

「………テニス部」

「あ、そうなんだー」

部活の話、前にもしたよな、確か。

やっぱりまだ、俺は彼女の記憶に残るクラスメイトにはなれていないらしい。

まぁ、名前を覚えてくれてるってことは積み重ねは確実に利いてるんだし、前向きに捉えよう。

と、小さな溜息を胸の中でつきながら階段を降り始めた時。

「っと、わっ!?」

彼女が声を上げた。

同時に、持っていたゴミ箱が突然重くなる。


考えるより先に動いていた。

足を滑らせ、後ろに傾いた彼女の背後に腕を伸ばし、抱え込む。

ガランガランと大きな音を立てて、中身をぶちまけながらゴミ箱が階段を転がっていく。

周囲にいた人の視線が、何事かと集中する。


「大丈夫か!?」

「…あ、うん…」

青ざめた顔でぼうっとしている彼女を一先ずそこに座らせて、集まった野次馬へ「大丈夫だから」「驚かせて悪い」と声を掛けつつ散らしつつ、散乱したゴミとゴミ箱を回収して戻ると、漸く落ち着いたのか、彼女はふぅっ、と大きく息を吐いた。

「…大丈夫か?」

「うん、もう大丈夫」

「あの…ごめんな、急だったから、その…」

突然のこととはいえ、大して親しくもない男にこんな触れ方をされて、彼女はどう思ったろう。

もしかしたら、今まで積み重ねてきたポイントが全て無に帰したかもしれない。

それどころか、下手したらマイナスだって有り得る。

ただでさえ遠かったゴールが、更に遠くなったな…。

なんてことを思って軽く落ち込みかけたところで、彼女が俺に向かって言った。


「ありがと東方くん、助かった。結構、頼り甲斐あるんだね」


……あれっ。


「い、いや、そんなことは…」

「いやいや、東方くんいなかったらケガしてたもん。ホント、ありがとう」


これは……もしかして。


「ちょっと、ヒーローみたいだったよ」


考える間もなく咄嗟に取った行動は、どうやら今までで一番デカいポイントを叩き出していたらしい。

彼女の笑顔は、見えなかったゴールが少しだけ近付いたことを教えてくれた。