恋する動詞111題・021~030

みもち(創作アカ)
@mimochi_sousaku

028. 溶け合う:伊武深司

俺は彼女が苦手だ。


愛想が良くて人当たりが良くて、いつもニコニコしていて。

素直で明るくてポジティブで、つまり俺とは真逆で。


「しーんじ、おっはよ!」

なのにこんなふうに、俺にも屈託のない笑顔を真っ直ぐに向けてくる、だから、苦手だ。


「………おはよ」

伏し目がちに挨拶を返せば、彼女は「うーん、もうちょっとだなぁ」と零す。

「何がもうちょっとなんだよ」

「深司の笑顔まで」


……意味が分からない。


思いっきり顔を顰めると、「ほら、やっぱりもうちょっと」と彼女は笑う。

「目、悪いんじゃないの。俺、今、笑顔から一番遠い顔してると思うけど」

覗き込んでくる視線から逃げるように顔を背けてそう言っても、

「ね~、前はほとんど無表情だったのにね~。進歩進歩!」

全く応えないどころか、歌うように言って足取りを弾ませる彼女に、もう溜息しか出ない。

「なんでそんなモン見たいんだよ…」

「苦いのもいいけど、甘いのもいいと思うんだよね~」

「何の話だよ」

「コーヒーもさ、砂糖とかミルクとか入れると飲みやすくなるよね、って話」

「話が全然つながってない気がするんだけど。いつからコーヒーの話になったんだよ」

「コーヒーは例え話」

「何の例えなのか全然伝わらない時点で例え話としては失敗なんじゃないの。あとついでに言っとくけど、俺はブラックの方が好きだから」

「だよね~、分かるわ~」

あはは、と、笑う彼女に、もう一度溜息を吐きながら、頭の片隅でちらりと、だけど、と思う。


苦いコーヒーに砂糖が溶けて、甘くなるように。

そんな風に、誰かと溶け合って、違う自分を発見するのは、そんなに悪いものじゃない、のかもしれない。

甘いコーヒーは俺の好みじゃないけど、でも―――


「でもさ、甘いコーヒーだって、飲んでみたら案外おいしいかもよ?」


タイミングの良さに驚いて思わず顔を上げると、やっぱり彼女は真っ直ぐ俺を見ていて、それからニヤリと小さく笑った。