恋する動詞111題・021~030

みもち(創作アカ)
@mimochi_sousaku

024. 出会う:鳳長太郎

忘れられない音がある。

出会ったのは、小さい頃に通っていた、ピアノ教室だ。


それは、とても自由で、開放感に溢れた演奏だった。

初めて聴いた時の胸の高鳴りは、いまでも鮮明に思い出せる。

時折混じる、先生の呆れ気味な溜息や小言にも構わず、踊るのを止めないどころか更に楽しげに飛び跳ねる音に合わせるように、気が付けば俺の指も自然と動いていた。

レッスン日が同じ日になることはまれで、だから、その音が聴けた日はとても嬉しかった。


しばらくして、その音はぱたりと途絶えた。

弾いていたのがどんな人なのかも知らず、ただ、音だけが、記憶の中で鳴り続けていた。


それから数年後。

今年の初めに、転校生が来た。

彼女の第一印象は、物静かな人。

同じ委員になって、時々言葉を交わすようになっても、その印象が大きく覆ることはなかった。


だから今日、偶然聴こえたあの奔放な懐かしい旋律を、彼女が奏でているのを見つけた時には、少し驚いた。

だって、彼女とあの音は、まるで真逆な印象だったから。


最後の一音が余韻と共に消えるのを見計らって小さな拍手を送ると、彼女は背をぴくんと震わせ、たかと思うと、ぐるんと勢いよく振り返った。

「えっ…あっ!? 鳳くん!?」

慌てふためく彼女の姿は第一印象とは程遠く、むしろ昔のあの音の印象に近い。

「そっちが素なの?」

「え、ス!? スって何!?」

「大人しい人なのかなって思ってたから。ピアノは昔通りなのにね」

「違っ…え、昔? 待って、鳳くん、昔の私を知ってるの!?」

「うん、俺ね、君と同じピアノ教室に通ってたんだよ」

「えっホントに!?」

「と言っても、俺は君のピアノの音しか知らないんだけど」

「音!? それだけで分かったの!?」

「うん。だって、もう一度会いたいってずっと思ってたから。出来れば、本人にも」

ようやく会えて嬉しい、と、笑いながら付け加えると、驚きの連続で呆然としていた彼女の顔が、不意に緩み、子供が悪戯を仕掛ける時のような笑みを浮かべた。


「…じゃあ、ここは『はじめまして』が、正しい挨拶?」


初めて見た彼女の表情に、俺の胸が、あの時と同じ様に――いや、あの時以上に、高く弾んだ。