恋する動詞111題・021~030

みもち(創作アカ)
@mimochi_sousaku

022. 躊躇う:不二裕太

「あの…不二さん、ですよね?」

声を掛けられて振り向くと、妙に顔を赤くした、同じ学校の見知らぬ女子の姿があった。

「……そうだけど」

「あの……これ…」

おず、と差し出された手紙の宛名は、“不二先輩”。成程、下級生なら見覚えはない。

「あの、私、この間の試合、見てて。それで…勢いで、手紙を書いてしまって」

「試合?」

「はい、あの、先月の…」

「ああ…アレ」

青学とやった練習試合のことだ。

「友達が行くって言って、私は付いてっただけなんですけど、そこで先輩見て、すごく…あの、カッコいいなぁって…」

面と向かってそんなことを言われるのは、さすがに照れる。

「えっ…あー…えっと、ありがと…」

言いながら伸ばし掛けた手が、ふと止まる。


………待てよ。

これは、本当に俺――不二“裕太”宛なのか?


躊躇いを覚えるには十分過ぎる苦い思い出が、次々と浮かんでくる。


そう、あの場には、兄貴もいた。

相変わらず凄いテニスしてて、わかってはいたけど、やっぱり少し焦って。

結局俺は、カッコいいとはとても言えない姿を晒してばかりいた気がする。


「……これ、どっちの不二宛て?」

「え? どっちの、って…え?」

「だから、俺か兄貴か、ってこと」

「兄貴…お兄さん? えっ、不二先輩、お兄さんいるんですか?」


意外な反応に、一瞬言葉を失った。


「……いや、こないだの試合もいただろ。青学の不二周助」

「す…すみません、私、詳しくなくて。あの時も不二先輩しか見てなくて…他の人、全然わからない、です…」

赤い顔を更に真っ赤にして、彼女が申し訳なさげに俯く。

本気で困っているその様子に、俺は唖然とする。

「…マジで知らないの、不二周助」

「はい…ごめんなさい…」

「いや、謝ることじゃねぇけど…」


兄貴じゃなくて、俺を見てた?

あの情けない姿を、それでもカッコいいって?


躊躇いが、徐々に消えていく。


あそこで、兄貴じゃなく、俺を見てくれていた人がいた。

それだけのことが、ひねくれていた心をほぐし、前を向く力をくれる。


「…ごめん、俺も悪かった」

「え?」

「いや、こっちの話。…手紙、ありがとう、ちゃんと読ませてもらう」

ぎこちないながらも笑顔を作り、差し出された手紙に改めて手を伸ばす。

しっかりと受け取ると、相変わらず赤い彼女の顔にも、眩しいくらいの笑顔が浮かんだ。