魔導姫戦記 外典 ドラゴンハンター

ウロボロス団
@ouroboros_dan

国境

ヴァナヘイム国とムスペルヘイム国の間に位置する、大昔の地殻変動で出来たと思われる断層地帯。

そこで学者達が何やら調査している。


助手♀「…あった!先生、これは?」

学者「…うむ、間違いない!」

助手A「こちらにも…!」

助手B「こっちにもあります!」

学者「やはり、この一帯は大規模な鉱脈になっている様だな。

早速本国に報告し、本格的な発掘を…」


その時、護衛の為に同行していた兵士が叫んだ。


「‼︎

貴様ら何者…ぐわッ‼︎」


謎の武装集団による襲撃を受け、護衛の兵士はことごとく倒された。

そして、その血に塗れた刃が助手の娘に振り下ろされようとした、その時である。

白馬に乗って駆けつけた1人の騎士の槍によって、賊の剣が弾かれた。


「女性に剣を向けるなんて不粋だね。

私はヴァナヘイム騎士団所属・パーシアス=リュンポス。

何者だい、君達?」


賊は何かに気付き、舌打ちをする。


「!……チッ…」


パーシアス「…戦いに礼儀など無用か…それもいいだろう…って、あれ?」


武装集団は踵を返して撤退した。


パーシアス「…拍子抜けだなぁ。

(助手♀を見て)

大丈夫ですか?」

助手♀「…は、はいッ、ありがとうございます!」

パーシアス「こんな所で何をなさってたんですか?」

学者「…地質調査をしておりました。

我々はムスペルヘイム国の学者です。」

パーシアス「そうでしたか。

兵が全滅しては心許ないでしょう?

私が街まで護衛いたします。」

学者「…ありがとうございます。」




道中、助手の娘がパーシアスに尋ねた。


「パーシアス様は何故このような所に?」


パーシアス「…故郷が近くてね。」

助手♀「…?

ヴァナヘイムのリュンポス家と言えば、この隣国にまで知れた、武勲の誉れ高き名家…首都で生まれ育ったのではないのですか?」

パーシアス「…父は紛れもなくデウス=リュンポスなんだけど、母は正妻じゃないんだ。」

助手♀「あっ…ご、ごめんなさい…!」

パーシアス「いや、いいんだ。」




かくして、ムスペルヘイム領・エチオピクスの街に辿り着く。


学者「…ありがとうございます。」

パーシアス「いえ、騎士道に従ったまでです。

では、私はこれで失礼します。」


皆が立ち去る中、助手の娘がパーシアスを呼び止めた。


「お待ち下さい、パーシアス様!

…あの…お礼と言っては何ですが、お茶でもいかがですか?」


パーシアス「…

…じゃあ、御馳走になろうかな。

そういえばまだ名前を聞いてなかったね。」

助手♀「メロディアナと言います。」

パーシアス「素敵な名だ。

よろしく、メロディアナ。」




街外れの屋敷に辿り着く。


パーシアス「凄い豪邸に住んでるね。」

メロディアナ「お父様はこの街の領主なんです。

でも、リュンポス邸ほどではないでしょう?」

パーシアス「いやいや…」




庭園のテラスでメイドが入れた紅茶を飲んでいると、メロディアナの父が現れて言った。


「お初にお目にかかる。

私はメロディアナの父・ケフェウス。」


パーシアス「はじめまして。

ヴァナヘイム国騎士・パーシアス=リュンポスです。」

ケフェウス「パーシアス卿、娘の命の恩人に対して遺憾ではあるが、今後わが国は貴国からの越境を容認せぬ方針だ。

早々にお引き取り願う。」

メロディアナ「お父様⁉︎何を…⁉︎」

パーシアス「…⁉︎

…そうでしたか…それは失礼しました。

では、私はこれで…」

メロディアナ「パーシアス様!」

ケフェウス「待ちなさい、メロディアナ!」




父の静止も聞かず、街の出口まで見送りに来たメロディアナが言う。


メロディアナ「…ごめんなさい、パーシアス様…こんな…」

パーシアス「…国の問題だ…君が謝る事は無いよ。」

メロディアナ「…あのっ!

…また…逢えますか⁉︎」

パーシアス「…

…ああ、逢えるさ、きっと…!」






その後…


かの断層地帯の数ヶ所において、ヴァナヘイム・ムスペルヘイムの両国がフォシルを発見・発掘し、その領有権を巡って両国議会は対立した。

そして、それぞれが領有する採掘場に配備された両国軍は一触即発の冷戦状態となる。

そんな中、パーシアスはヴァナヘイム側のフォシル採掘場の警備を任された。


ある日、メロディアナはパーシアスに逢いたい一心で、国境に物資を運ぶ馬車の積荷に紛れ込んで越境を試み、ヴァナヘイム軍に捕らえられる。


メロディアナ「私はエチオピクス領主の娘・メロディアナです。

パーシアス様に逢わせてください!」

兵士「…このように申しておりますが、いかがなさいますか?」


視察に訪れていたパーシアスの義母・ヘラが言った。


「あれに逢う為にわざわざ…一途ですこと…

私はパーシアスの義母、ヘラ=リュンポス。

我が国に亡命し魔導師となるならば、パーシアスに逢わせましょう。」


メロディアナ「…私が…パーシアス様と同じヴァナヘイム国民に…?

…わかりました、私、魔導師になります!」




かくしてメロディアナは、発掘されたフォシルと共にヴァナヘイム首都へ移送される事となった。

採掘場から首都までの地形は湾状になっており、陸路では大きく迂回する必要がある為、移送は船で行われる。

兵士達の噂話にそれを聞いたパーシアス。


「あの子が亡命して魔導師に…?」


彼女を案じつつも、自分に逢いたいというその気持ちを嬉しく思った。

そんな矢先、アルキュオネを介して、腹違いの弟・エルキュールから連絡が入る。

パーシアスはその内容に愕然とした。


「何だって!

…メタモルフの正体が…魔導師の成れの果て…?」


すぐさま白馬を駆り、ヴァナヘイム首都行きの船が出る港を目指す。






一方その頃…

フォシル採掘場に訪れたシグルズ達。


シェイミー「パーシアス卿はいらっしゃるかしら?」

兵士「パーシアス様ならたった今、港へ行くと言って出て行かれました。」




港へ行くと、船が出港した直後だった。

茫然と立ち尽くし船を見送る騎士に話し掛ける。


シグルズ「パーシアスって男を知らねぇか?」

パーシアス「…

…私がそうだけど…」

シグルズ「なら話が早え。

俺はシグルズ=ヴォルスング。」

パーシアス「…貴方が…?

弟から話は聞いている…

でも、もう遅い…

フォシルはあそこさ…」


そう言って、遠ざかる船を力無く指差した。


シグルズ「いいや、上出来だ。

なぁ、メリュジーヌ?」

メリュジーヌ「うむ。


盟約に従い受け継ぎし力と、其を振るうに相応しき姿を、今、解き放たん…」


海に向かってそう唱えたメリュジーヌは、光を放ちながら翼竜の姿に変わっていった。


パーシアス「…‼︎

これが…竜…⁉︎

エルキュールから聞いてはいたけど、この目で見て尚、信じられない…!」


翼竜がシグルズとシェイミーを乗せ港を飛び立とうとすると、パーシアスは懇願した。


「私も連れて行ってくれないか⁉︎」


シェイミー「…私達はこれから、貴方の国の船を襲撃するのよ。

同行してたら立場的にまずいでしょ?」

パーシアス「いや…私も、義母上のやり方

には我慢ならなくてね。」

シグルズ「面白そうじゃねぇか、乗りな。

話、聞かせろよ。」






船の上空…


シグルズ「な〜るほど、惚れた女をね…」

パーシアス「革命戦の英雄様からしたら女々しいかな?」

シグルズ「…いいや、それもまた騎士道だろ。」

シェイミー「そんな事より、この後どうやって船に?」

シグルズ「そうだな…






船上で弓や槍を構える兵士達に向かって、シグルズは舞い降りる竜の背の上から叫んだ。


「全員動くな‼︎

パーシアス卿の命が惜しいならな‼︎」


兵士達

「パーシアス様⁉︎」

「おのれ…卑怯な!」


自国の貴族を人質に取られ手も足も出ない兵士達を、翼竜の羽ばたく風で吹き飛ばし、悠々と船に乗り込む。


パーシアス「いい作戦だけど、この先は通用しないかも…

あの義母上なら、私もろとも殺せと言いかねないからね。」

シグルズ「それでも、俺らがグルだってバレなきゃ、女が人質に取られなくて済むだろ?」

パーシアス「なるほど。」


そこへ刺客が現れる。


シグルズ「オイお前ら、パーシアス卿を殺すぞ⁉︎」


だが、パーシアスの言った通りヘラの差し金なのか、人質もろとも殺すつもりのようだ。


パーシアス「やはりそう来るか。

でも、私もまだ死にたくはないからね。」


4人の共闘によって刺客達を倒すと、パーシアスはある事に気付く。


パーシアス「この男は…!」

シグルズ「どうした?」

パーシアス「国境付近で彼女を…隣国の学者達を襲った賊だ。

なぜ彼らがここに…?」

メリュジーヌ「…フォシルを巡る人間同士の争いは、その時から既に始まっていたという事だな。」

パーシアス「そんな…⁉︎」




船内を探索していると、フォシルを保管している部屋に辿り着く。


メロディアナ「パーシアス様…!」

ヘラ「下がりなさい!

お前が人質だなどと…狂言なのはわかっています。」


メロディアナの首筋にナイフを突きつけたヘラが言った。


パーシアス「…何故…そう思うのです?」

ヘラ「卑しくも我が夫・デウスの血を引くお前が、人質になど甘んじたりはしないでしょう?」

パーシアス「…流石は義母上…」

ヘラ「下賤の血筋が気安く母などと呼ぶでない。

わかったなら下がりなさい。」

パーシアス「くっ…」


パーシアスが成す術無く引き下がろうとした時、シグルズが口を開いた。


「ナメられたもんだな、俺らも。

なぁメリュジーヌ?」


メリュジーヌ「ふむ。」


そう言うと、メリュジーヌはフォシルへと近づいた。


ヘラ「止まりなさい、小娘!

何をするつもりです⁉︎」

メリュジーヌ「ククク…小娘とな…?

その言葉、汝にそっくり返してやろうぞ。

(フォシルに向かって)

…忌まわしきアグエル文明により封印されし我が眷族よ…

その戒めを今、解き放たん。」


するとフォシルは砕け散って光の粒子となり、海竜の姿を象った。


ヘラ「ひいいぃぃ‼︎

フォ、フォシルからメ、メ、メタモルフが…⁉︎」

メリュジーヌ「…メタモルフではないのだがな…」


ヘラがおののいた隙に、パーシアスはメロディアナを救いだす。


メロディアナ「パーシアス様!」

パーシアス「無事かい?」

メロディアナ「ええ…でも、これは一体?」

パーシアス「あれは竜…

フォシルの…魔法の力の正体らしい。」


海竜「我はケートス。

我が戒めを解き放てし眷族よ…

汝が力を我に示せば、盟約に従い我が力を授けん。」

ヘラ「しゃ、しゃ、しゃべっ…

メタモルフが…喋った⁉︎」


驚くヘラをよそに、シグルズは剣を構えて言った。


「手伝えパーシアス!

気を抜くなよ、殺されるぜ。」


4人は協力してケートスを打ち破る。


「見事なり…盟約に従い我が力を汝に授けん。」


ケートスはそう言うと、砕け散って無数の光の粒子となり、メリュジーヌに吸収された。

かくして、メリュジーヌはケートスの力を手に入れる。

戦いの最中、ヘラも逃げていたようだ。


シグルズ「さあ、脱出だ。」






シグルズ達を乗せた翼竜は、目立たぬようエチオピクスからやや離れた地に降り立ち、一行は街の入口まで陸路を行く。


パーシアス「越境行為を咎められてしまうからね…ここでお別れだ。」

メロディアナ「…はい…ありがとうございました。」

パーシアス「もう無茶はしないでね。」

シェイミー「貴女の気持ちはわかるけど、もし貴女の身に何かあれば、ムスペルヘイムにとっては先制攻撃を正当化する口実になり得た…2人の祖国が戦争を始めるきっかけになっていたかもしれないのよ。」

メロディアナ「…ご、ごめんなさい…」

パーシアス「まぁまぁ…

国交が正常化すれば堂々と逢えるようになるさ。

その為に私は、私の立場で出来る事をするよ。」

メロディアナ「私も、お父様を説得してみます。」

パーシアス「…じゃあ…また逢う日まで…!」

メロディアナ「…はい、お元気で…!」






続く…

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