Take me with you.

第17話 Thoughts for myself

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 ふと目が覚めると、直ぐに薄いカーテンから外の明るさが分かった。

 恐らく、既に朝の時間帯は過ぎている頃だろう。この時間まで特に起こされなかったという事は、何も事件などが起こらず、他の4人もゆっくり過ごすことが出来ているということ。

 千里花は顔を洗って身支度を整え、隣の三蔵と悟空の部屋へ向かった。

 ノックをして開けると、目の前のテーブルには三蔵だけが座っていた。


「おはよう。あれ? 三蔵ひとり?」

「ああ」


 眼鏡を掛けて新聞を読んでいた三蔵が、吸っていた煙草を灰皿へ押し付けて応える。その灰皿には、既に1本の吸い殻が入っていた。窓が開いているようだが、室内は大分煙草臭い。

 しかし、今更そのようなことなど気にしなかった。


――三蔵も悟浄も、あたしがいるときは喫煙を控えてくれてるような感じがするんだけど。もしそうだったら、ありがたいな。


 千里花はドアを閉めて中へ入った。


「みんなは?」

「八戒と悟空は買い出し。悟浄は知らん。どっか行った」

「そっか、あたしだけ寝坊かあ」


 三蔵の向かいに座ると、テーブルの上に乗る一皿のサンドイッチが目に入る。それは2切れあって、上にラップを被っていた。


「八戒が、疲れてるだろうから寝かせておけ、だと」

「あはは、疲れてるのはあたしだけじゃないと思うけど」

「八戒がこれ作ったから食え」


 三蔵が目の前のサンドイッチに視線をやった。


「あ、八戒が作ってくれたんだ。じゃあ、コーヒー飲もうかな」


 三蔵の手元に置かれたコップを確認すると、中が空になっている。


「三蔵もまた飲む?」

「ああ」


 ここは素泊まりの宿であり、宿内に食堂などはないが室内で軽く料理が出来るだけの水道とコンロも備わっていた。シャワーもあって清潔な宿なので、安心して滞在出来ている。

 お湯を沸かして三蔵の分のコーヒーも淹れてあげてから、サンドイッチを手に取る。まだ柔らかいパンにトマトやレタスなどが挟まっていた。

 三蔵は口数が多い性格ではなく、千里花もお喋りな性質ではない。特に会話もなく室内は静寂に満たされるが、気まずい訳ではない。

 三蔵も静かに新聞を読んでいたいだろうし、千里花も落ち着いて食事をしたい。千里花にとっては、居心地の良い空間だった。


――おかしいよね。あんなに三蔵のことが好きだったのに。いや、今でも好きだけど。好きだけど……それにしてもきれいな金糸の髪である。どうやって手入れしてるんだろう。そしてきれいな……そう「紫暗の瞳」ね。たれ目で下まつ毛。はあ、神に愛されたとしか思えんほどの容姿。今でも夢を見ているのではという考えが捨てきれない。夢かな。長い、壮大な……。


「何見てんだよ」


 三蔵と目が合ったことに動揺したし、その上自分が今何をしていたのか分からず混乱した。

 どうやら、サンドイッチを食べながらずっと三蔵を見つめていたようだった。


「あっ、ご、ごめん……なんでもない」


 咄嗟に視線を逸らす。


「えーっとえーっと、髪の毛きれいだなって」


 動揺と混乱を誤魔化す為にそう述べた。案の定、三蔵は怪訝そうな表情になる。


「はあ?」


 三蔵は、自分への褒め言葉を素直に受け入れられない人間なのである。


――ただ単に、急に何言ってんだって感じかもしれないけど。ああもう、こんなに戸惑う必要なんかないのに。


「目の色もきれいだしね。4人共目の色がきれいでうらやましい」


――うらやましいのは目の色だけじゃないけどね。


「……急に何言ってんだ」

「ごめんごめん。気にしないで」


 千里花が再び食事に専念し、室内に静寂が訪れる。

 八戒の作ってくれたサンドイッチが、あともう何口かで食べ終える頃には、三蔵も新聞を読み終えて窓の外へ視線をやっていた。


「ひまだねー。三蔵はいつもひとりのとき、何しているの?」

「別に。何もしてねえ」

「ふ~ん。煙草、吸ってもいいよ。みんなが帰ってくるまで、ひまだしね」


 三蔵は灰皿の脇に置いてある煙草とライターに視線を落とし、そしてそれらを掴んで立ち上がった。


――部屋出てっちゃうかな。それはそれでさびしい。


 しかし三蔵は出て行かずに、窓のところへ向かったのだった。慣れた手付きで煙草を咥えてライターで火を付ける。そして、窓の外へ向かって煙を吐き出した。

 乳白色の空を背景に紫煙をくゆらせる三蔵は、画になっていて言葉に出来ない。


――……全く、一挙手一投足がかっこいいんだから。


「ごちそうさまでした」


 手を合わせてから、千里花は皿を洗いに行く。

 三蔵に一言言ってから一旦自室に戻り、歯を磨いてそれなりに身なりを整え、再度三蔵の部屋へ戻った。

 彼は、テーブルについて読み終わった筈の新聞をまた読み返していたのだった。


「ひまだよねえ。ちょっと一緒に出かけたりしない?」

「めんどくせえ」

「そっか」


 別に機嫌が悪い訳ではないことを知っている。三蔵は、こういう性格なのである。

 千里花も特にやることもなく、頬杖を突きながらこちら側から見える新聞を眺めた。


――この時間、無駄って言えば無駄だよね。だって、あの三蔵様とふたりっきりなんだし。何か出来ることないかな……。


「ねえ、三蔵。お願いがあるんだけど」

「何だ」

「髪の毛触らせて」

「ああ?」


 その返答に、僅かに怒りを帯びたように感じた。


「すごくきれいだから。絶対、あたしよりきれいだと思うの」

「…………」


 三蔵の髪を見つめ、そんな千里花を三蔵が訝し気に見つめてくる。


「勝手にしろ」


 お願いしておいて、千里花はてっきり断られると思っていた。だから、三蔵のその返答に些か驚いてしまった。そして、嬉しくなって思わず口元が緩んでしまう。

 千里花は、自分の座っている椅子を移動させて、三蔵の左隣に座った。


「じゃあ、失礼します」


 それでも三蔵は、構わず新聞を読み続けている。

 左手で、そっと彼の髪に触れた。

 三蔵の髪は、染めていない自然の金髪である。神々しくもある髪に触れてしまい、千里花はこの行動が罪深いとさえ思えてくるのだった。


――だって、あの三蔵様のきれいな髪を、こうやって素手で触っちゃってるんだよ。罰当たりだよ。


 指を動かすと、金糸の髪がさらさらと手から逃れていく。罪深く罰当たりだと思えてしまうが、この行為を止めることが出来ない。


「面白いか?」

「おもしろいっていうか、うーん。やっぱりきれいだなって」


 三蔵の髪の毛は、飽きずに触っていられる。


「綺麗かよ、こんなの」

「きれいだよ。あたしの髪よりずっとね」


 そう千里花が言うと、三蔵が持っていた新聞から右手を放して、徐にこちらへ伸ばしてきた。

 千里花の髪に手を差し込み、梳くようにして滑らす。この三蔵の行為に、千里花はひどく驚いて目を疑った。

 千里花は美容に興味がない訳ではないし、ヘアケアは力を入れたいところのひとつだった。しかし、それはこの旅では容易ではない。なので、必要最低限のケアだけはするようにしている。そのおかけで、痛みは多くないだろう。

 それでも、少しだけ三蔵の手に引っかかってしまったのが、とても悲しい。


――悲しいし、それに、三蔵がこんなことするなんて、信じられない。


「……お前の方がよっぽど」

「え?」


 手に引っかかるにも拘らず、三蔵が髪を梳くような動きを止めない。

 度々三蔵の指が微かに耳にも触れ、くすぐったくてむず痒くて恥ずかしかった。


「…………」


 いつの間にか千里花の左手は三蔵の髪から離れ、所在なく空中に留まっていたのだった。


「あ、あの、三蔵……」


 耐え切れずに名前を呼ぶ。


「及第点だな」


 その三蔵の言葉に、耳を疑った。


「え、及第点? すごい。三蔵の及第点って、かなり高評価だね」

「高評価じゃねえよ。及第点っつっただろ」


 三蔵の手が髪から離れて再び新聞を取ったので、名残惜しかった。


「三蔵の言う及第点は、あたしにとって高評価だよ。うれしい。ありがと」


 三蔵は特に返答せずに新聞を読み始める。


「三蔵、いつもありがとね」

「……急に何だよ」

「今が言えるいいチャンスかと思って――あたし、観ちゃんから頼まれてこの旅に加わったって感じだけど、でも、あたしがみんなと一緒にいたかったの。一緒に旅をすることを許してくれて、ありがとう」

「…………」

「これらも、みんなと一緒にいたいから、置いていかれないように、もっと強くなるね」

「――置いてかねえよ」


 三蔵の言葉に、またも耳を疑う。


「置いてかねえが……足手まといになったら置いていく」

「う、うん」


――そこは一貫してるのね。


「それが嫌だったら、ずっとついて来い」

「うん」


 三蔵の言動に、胸が高鳴るばかりだった。

 直に八戒と悟空が買い物から戻ってきて、その後悟浄も思ったより早く帰ってきたので、室内が賑やかになる。

 千里花はとにかくずっと、彼らへのただひたすらに強い思いを抱いていたのだが、今日は少しだけ三蔵の自分への思いも感じられたような気がした。

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