愛は食卓にある

厚揚げパーリナイ
@CxlTiA6KhtGs98v

次会うときは顔見知り

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
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さんざん好きなようにからかって、両親に支えられながらフラフラと馬車に乗り込む名前の姿を見送り、お前何をしたんだと言いたげな中尉の視線をかわしながら兵舎に着いたのが昨日の夕方のこと。

だから、朝イチで中尉の部屋に呼び出しを食らった時は、てっきり昨日の所業がバレて叱られるものとばかり思っていた。

まあ多少の小言は仕方ないか、となかば諦めのような気持ちで扉をノックすると、すぐに「入れ」との返事が聞こえる。

中尉は椅子に座ったままくるりとこちらを振り返ると、いきなり本題を口にした。

「名前嬢がな、また貴様に会いたいと言っているそうだ」

「はっ」

「こんなことは今までになかったらしい。先方もかなり驚いておられる」

ニィ、と笑って尾形を見る中尉は楽しそうに頬杖をつきながら意味ありげに目線を寄越す。

もったいぶらないで早く教えてくれ、とこちらも視線で返すと、両手を胸に当てて芝居っぽく頭をふるふる揺らしながら信じられない事を言った。

「なんとなんと、あわれ花も恥じらう名前嬢は、貴様に一目惚れしてしまった、とのことだぞ」

一目惚れ?この俺に?にわかには信じがたい。

驚くよりむしろ呆れる。何かの間違いじゃないのか。

女子に騒がれるような顔でないことは自分で承知している。だからこそ中尉は此度の一件に自分を抜擢したのではないか?

「しかしながら鶴見中尉、名前嬢には俺よりしかるべき相手と添わせてやりたいというのがご両親の人情では」

「その通り。しかしあの親は娘にとことん甘くてなあ、『おがたさまとめおとになれないなら、わたくしはしんでもよござんす、およよ』と泣かれてほとほと参っておるそうだ」

中尉の独特のあの声音で、小娘の真似事はかなり毒だ。鳥肌がたつ。

「中尉、しかし2度会ってしまえば、変に期待を持たせることになってしまうのでは」

面倒なことになったぞとげんなりしながら、言外にそちらで適当に断ってくれよと求めると。

「期待を持たせて、何が駄目なのだ?」

中尉がわざとらしく首をかしげる。

首をかしげたいのはこちらである。この上官は何を言っている?

「ですから、名前嬢が俺に惚れているというのが本当なら、会ってしまったら余計に辛い思いをさせるのではと」

「それは大丈夫だ。彼女は失恋なんかしないからな」

全く噛み合わない。名前が失恋しないということはつまり、尾形との結婚を意味する。

そこまで考えて、やっと尾形は中尉の思惑にたどり着いた。

「見合い中はあんなだったが、彼女は裁縫も料理も家事も出来るぞ。これ以上の良縁が貴様に今後くるとは思えん。結婚しとけ」

最後だけ妙に語気が強く、ぱちぱちと目をしばたかせながら話を薦めてくる。元々はお転婆娘をどうにか大和撫子に、という話ではなかったか?ここで尾形がハイそうですかと名前を貰ってしまえば、ご両親がなんのために心を砕いて中尉に相談を持ちかけたのか分からなくなってしまうが。中尉はたらしだが、本心から尾形の嫁の世話をしてやろうというのでもあるまい。なにか裏があるはずだ。

渋面で立ち尽くす尾形は上官の前にあるまじき無礼を働いているわけだが、中尉は別に気にした様子もない。

「…………先方が伝えてきたのは、娘と会ってほしいという一件のみですか」

苦虫を噛み潰したような顔で尋ねてくる尾形を全く意にも介さず、中尉は何でもないことのように言った。

「貴様がめでたく愛娘と結婚の運びとなれば、義理の息子の所属する師団に心付けをさせてもらいましょうとのことだ」


…………………………売られた……………………。


どうやら名前の親は、花婿の地位がつまらないものなら、カネにものを言わせて愛娘に見合う男に仕立てようという腹積もりらしい。利害の一致。つまり長期的な投資家を見つけたということか。こうなったらなにか口先で誤魔化して逃げようとしてもどうせ通用しない。中尉を出し抜くのは諦めたほうが良さそうだ。

あの女と結婚する。師団は金を貰う。鶴見中尉のなかでこれだけはどうやら決定事項のようだった。

向こうはそれなりのロマンスを夢見て尾形に惚れた(馬鹿か?)のかもしれないが、尾形の立場において求められているのは婚姻だ。恋愛ごっこに付き合う義理はない。

甚だ不本意だが仕方ない。ちょっと予定が早まっただけ。尾形の人生までも大きく変えるようなものではないだろう。

そっと溜め息をつきながら日取りはいつにしましょう、と問いかけると、中尉がぱちぱちと気の抜けた拍手をした。







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