媚薬編



 翌朝、気怠げに寝台から起き上がった青年が、乱れた淡いブロンドの髪をかきあげて周囲を見回す。自身が充てがわれた部屋ではない。寝ぼけた眼差しで、ふと視線を落とした青年の瞳が大きく見開く。

 まず、彼は裸だった。──彼に裸で寝る趣味はない。そして、青年の横でぐったりと眠る彼の王もまた裸だった。

「……っ!?」

 混乱のまま、寝台の外──床を見やれば、点々と脱ぎ散らされた青年と彼女の服。

「な、な、なぜ」

「ん……」

 小さな吐息が聞こえて、青年は反射的に彼女の方を見る。そして、一気に顔が真っ赤になった。

「っ!」

 彼女の滑らかな肌のいたるところに、紅い花が咲いていた。其れを見て、昨夜の記憶が蘇ってくる。熱い吐息、絡む舌、脳天に響く甘い嬌声、ただただ獣のように求め合い、何度も満たし合った記憶が。

「わ、私は、何という事を」

 頭を抱えて寝台に突っ伏した彼の肌は真っ赤に染まっていた。

「……ベディヴィエール?」

 掠れた声で彼女が囁き、青年の手に触れる。

「……アルトリア様」

 沈んだ声音に、ネフライトの瞳を開いた彼女が重そうに身体を起こす。彼の王を抱き起こそうと、青年の手が滑らかな肌に触れる。あまりの柔らかさと、吸い付くような肌に驚いたのか、一瞬だけ動きを止めた青年は、恐る恐る華奢な身体を助け起こした。

 其の動きで、束ねていたミモザの花色の髪が、さらさらと彼女の腰近くまで落ちる。甘い花の薫りは、昨晩の行為を思い出させて──青年はぐっと眉間に皺を寄せた。

「嫌でしたか?」

「違います」

 即答し、青年は彼の王の柔らかな頬を包む。

「……生半可な想いで貴女を抱いたわけではありません」

「ベディヴィエール……」

 忠誠を誓った王ではあるが、其れ以前に彼女は人であり、個である。そして、青年は彼女が王という超然とした──孤独の王ではなく、人としてあたたかく満ち足りた人生を送って欲しいと願っていた。

「貴女を愛していると伝えた言葉に、嘘はありません」

 不敬だと、不忠だと押し隠したところで、気持ちは偽れない。青年は、彼の王を愛してしまっていた。

「しかし、其れは……騎士としてあるまじき行為です」

 彼女が限界した頃、世話をしなくても良いと言っていたのを説き伏せて、傍にいたのは彼だ。

「私は、自分の立場を利用して……貴女を」

「ベディヴィエール」

「は、い」

「あなたは知らないと思いますが、私は……あなたが心の拠り所でした。あなたが、全面の信頼を寄せてくれたから、私はあの時代を走れたのです」

 理想の王国を追い求めるも、現実は滅びへと向かっていた時代。他愛のない言葉と、裏表ない真っ直ぐな笑顔で──最初の誓い通り、ずっと変わらず傍にいてくれた騎士。

 聖剣ではなく聖槍を扱うIFの王が生まれたのは、彼女ではない彼女の意思が働いたのだと思った。慣れ親しんだ聖槍ならば、優しい誰かの手を煩わせる事なく彼女自身の手で返還できる。其れは、彼の苦悩を和らげるだろう。

 王を想って聖剣を返還できず、戻るたびにぼろぼろに泣き腫れていた姿。そう──私(かのじょ)は、泣き腫らした彼の顔に滅法弱いのだから。

「そんなあなたに女性扱いされて、私が揺らがないとでも? あなたを愛さないとでも?」

「アルトリア様……」

「私は、あなたを愛しています。あなたが思うよりも、ずっと、ずっと」

「……っ」

「私はもっとあなたに抱かれたいですし、もっとあなたの傍にいたい。……イヤ、ですか?」

「いいえ……私も貴女を抱きたい。ずっと傍にいたいです……いさせて下さい」

 鼻が触れ合い、唇が触れる。触れるだけのくちづけは、やがて深く激しいものへと変わり──再び、身体を燃やす熱となった。

 そうして、指が絡み合い、身体が絡み合う、互いを貪るような行為はしばらく続いたのだった。



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