花言葉 SS

沙羅/和葉@年1ディズニー
@aobiyori_sara

一次創作 創作の国「ワタシハシルソウ」


「シン、ドイ……」

 機械と人間の声が混ざった声音が部屋に響いた。

 積み重なった原稿用紙と資料を見て、椅子に座する者は動きを止め、首をうなだれる。

 錆び付いた四角い頭が、白紙と書きかけの原稿用紙が広がる机にごつんと触れて、突っ伏す形となった。

 頭上でひゅんひゅんと動いていたホースのような長い腕が、ぼとりと音を立てて床につく。

 大きな物音に気づいたのか、下の階にいた者が様子を見に訪れた。

 赤と黒の細いストライプ模様が目立つ紳士服に、同じ柄のシルクハット。右手には、黒染めのステッキが握られている。

 こつりこつりとステッキと靴の踵の音を出して現れた人物は、机に突っ伏したロボットを見て、狐のような細い目を見開いた。

「マスター!」

 慌てた様子で駆け寄り、金属で出来た硬い身体を揺さぶる。

 マスターと呼ばれたロボットは、きゅるきゅると電子音を発するのみで、言葉を返さない。

 男はロボットの背中にある燃料メーターに視線を移す。

 メーターは、空を表示していた。

 ああ、これはまずい。と、男は額を手で覆う。

 マスターの燃料は、レギュラーガソリンでもなければ灯油でもない。

 このロボットの燃料は、人々からの声だ。

 国をあげて毎月行われる演劇への声。

 毎月のように発行される本への声。

 声の内容は、喜びでも悲しみでも良い、怒りでも愛でも良い。

 人々から送られてくる心が、ロボットのエネルギーに変わるのだ。

 が、今のマスターにはその声が届いていないのか。それとも、声そのものを送られていないのか、枯渇している。

 このままでは、ロボットは動く事が出来ない。

「ああ、どうすれば……」

 紳士服を着た男は悲観にくれた。

 半年後に行われる演劇の台本の締め切りが、ゆっくりではあるが確実に、じわりじわりと近づいて来ている。

 台本作業はマスターの仕事だ。

 他の誰にも代わる事が出来ない、大切な作業。

 国民一人一人の人生を汲み取り、物語として残していく作業は、人々の記憶を受け取れるマスターにしか出来ない。

 紳士服を着た男は、そのマスターの作業が滞ることなく見守り導いていく補佐役だ。

 それが、創作の国にある創作の館の、館長としての役目だ。

 紳士服の内ポケットに手を入れ、二つ折りの携帯電話を取り出す。

 こういう時は、頼りになるヒーローとヒロインに連絡を入れるしかない。

 彼らは連絡を入れると、ぐちぐちだらだらと文句を言って来るが、結局最後は助けてくれる良き人物であり、良き友なのだ。





 城の裏側にある女王の庭園から、観衆の声が空へと響き渡る。

 庭園の中央にある広場には、円形の小さな舞台が作られ、観衆はそれを取り囲んでいた。

「ええい、桃太郎! 貴様、自分が何をしようとしているのか理解しているのか!」

「野蛮な鬼どもを一匹残らず灰にする。それの何が悪い」

 舞台上で、若い男が二人台本を片手に台詞を読み上げる。

 片方は、黒い髪を短く刈り上げた隊員装束の少年。

 片方は、墨色の狩衣を身に付けた、黒い髪に赤い瞳の青年。

 青年の背後には、犬や雉、猿と書かれたタスキを肩から掛けた人物が三人控えている。

 犬役は黒髪をつむじの辺りで一つに結んだ、成人して間もない女性。

 雉役は高校生くらいの少年。肩には、なぜか白い狐がいる。

 猿役は、燃えるような赤髪と目を持った雉役と同じく高校生くらいの少年だ。

 三人の手にも勿論、台本が握られていた。

 舞台に立つ者たちは、この国で有名かつ人気のある役者(しゅじんこう)たちである。

 その役者たちが一同に揃って朗読会をする。

 急に決まった公演にも関わらず、人気者が集まるとあってかあっという間に宣伝は広がり、庭園には多くの国民が集まったのだ。

 撮影だの仕事だので来れなかった者もいるが、そんな者たちの為に後日録画映像を売り出す予定も立てた。

 広場から聞こえてくる声援を、ノベルは創作の館にあるバルコニーからコーヒーを口にしつつ見守る。

 どうやら、思いつきは大成功のようだ。

 二階にある部屋からは、マスターがキーボードを打つ音も響いている。

 枯渇していたエネルギーは回復した。

 これで、しばらくの間は大丈夫だろう。

 台本の締め切りも、間に合いそうである。





 パチパチと響く、キーボードの軽い音。

 きゅるきゅると唸る、モーターの音。

 きゅいんきゅいんと響く、記憶を読み取る音。



 ワタシハ、シルソウ。


 アイスル、“モノ”タチノタメニ。


 キエユク、“モノ”タチノタメニ。


 イクタビ、ウマレカワッテモ、ワスレナイヨウニ。


 オモイダセル、ヨウニ。


 カレラガ、カノジョガ、イキタアカシヲ。


 ワタシハ、ココデ。


 イツマデモ、ココデ。


 イツマデモ。


 イツマデモーー。



 きゅるきゅると唸る、モーターの音。

 きゅいんきゅいんと響く、記憶を読み取る音。

 その音が止まることはない。

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