Wichtig

プロローグ

日が沈み、辺りが暗くなると若者達が街中に戯れ始める。

笑声が響き渡り、通行人は迷惑そうに小走りに去って行く。

東京都内。人通りの多い飲み屋街から少し離れた繁華街。

いくつかのグループがわいわいとはしゃいでいる。

そのうちのひとつ、ある3人組の男子達。

髪を派手に染め、ピアスを開けているのが1人いた。未成年なのは確かだ。

彼は、ほかの人が見てもわかるほど酔っ払っていて、他の2人はそれを煽り立てていた。

彼らは、歩いていく女子高生すべてに声をかけているようだった。

「なぁ、ねぇちゃんさ。俺とヤらね?一回だけでいいからさ。俺めっちゃ上手いよ?どう?試してみない?」

「…………すいませんっ」

目をそらし、彼女らは逃げていく。

「チッ……またか、釣れねぇな」

「鴻市、もう諦めろよ」

鴻市と呼ばれた彼はまだ諦めないというように首を横に振る。

「んだよ、1回くらいヤれねぇと落ち着かねぇんだよ」

「そんなに声掛けても、引っかかる奴いないと思うけどな」

もう一人、別の男子が口を挟む。

「そんなの言ってる場合じゃねぇよ、溜まってんだっつーの」

「風俗行けよ」

「んなもん、金あったら行ってる」

と、ケラケラと笑いながら鴻市は誤魔化す。

なにせ鴻市は

__未だに童貞なのだから。

キスしかしたことがない。

鴻市は今まで、ずっとそれを隠し通してきた。周りの男子はもう経験済みで、そろそろやばいなと思い始めていた。

「あぁーヤリてぇーもういっそ男でもいい………」

その場に座り込み顔を埋める。

数分後……

「お前さ、さっき男でも言いっつったよな」

グループの1人が、鴻市の肩に手を置いた。

「あぁ……言ったよ」

「あいつとかどうだ?」

「……あぁ?」

指さされた男性を見た。

少し幼めの会社員だった。

「ふぅん……悪くねぇじゃん」

と、鴻市は立ち上がった。

「おい鴻市まじかよ、ふざけてんのくらいわかってんだろ?」

隣に立っていた2人は驚いて鴻市を引き止めようとする。

「やめろ、いいんだよ。さっき言っただろ?男でもいいって……っく……」

鴻市は完全に酔っ払っていて、2人を振り払い会社員に近づく。

「お、近くから見たらめっちゃ綺麗じゃん」

腕を掴み自分の体に引き寄せる。

「っへ?誰ですか、やめてください……」

彼は驚いて、小さく声を上げる。

「怯えてんの?可愛いね……」

「え、何言ってるんですか……僕男には興味ないんで……」

「まぁまぁ~そんなこと言わずにさぁ……」

鴻市は彼の顎に手をかけ、顔に近づける。

「ちょ、おかしいですって、やめてくださ……っん……」

抵抗する彼を黙らせるように鴻市は唇をキスで塞いだ。

後方からは先程のグループ2人が「おい、まじかよ……」と唖然に立ちすくんでいる。

鴻市はそれを気にせずにキスを続ける。

口の角度を変え、舌を絡ませる。

「ん、ふぁ……あ、の……ほんと、やめっ」

彼はもがき、鴻市から距離を取ろうとする。

だが、鴻市がそれを許さない。

深く、舌を捩じ込み、中を掻き回す。

そこで、痺れを切らした彼は鴻市の右足を思い切り踏みつけた。

「ん、……ってぇ………」

「あ、あぁすみません……あなたが妙にしつこいので……」

鴻市は彼を見て、にこりと笑った。

「大丈夫だよ……」

「そ、そうですか……よかったです」

彼は安心して胸を撫で下ろしていた。

しかし……鴻市の笑顔はただの偽りだった。

「……とか言うと思うか?調子のんじゃねぇぞ」

「ひぃッ……」

鴻市は怒り狂い、彼の胸倉を掴み叫んだ。

「てめぇ、こっちが気に入って抱いてやろうってんだから黙ってつったってりゃいいんだよ!」

「は、はい……すみませんっ……」

「もう、いいわ……挿れるぞ……」

「えっ、嫌です!やめてくださいって……」

「いや、もう我慢出来ねぇ……」

「や、だから嫌ですって!」

焦り、鴻市を押しのけようとする。

後退り、両手で阻む。

「__ッ、もうほんとやめてください!」

彼はほとんど叫ぶように言い放ち、力強く押した。

体を話そうとしただけだった。

本当にそれだけだった。

タイミングを間違えたのだ。

鴻市は後ろにあった段差に躓き、バランスを崩していた。

「は?待っ……」

鴻市は頭を激しく打ち付けた。

一瞬、彼を睨みつけ、ゆっくりと目を閉じていく。

それと同時に赤黒い血溜まりをつくってゆく。

じんわりと広がり、鉄の匂いを放つ。

彼は震えて立ち尽くす。

携帯を手に取り警察と救急車を呼ぶ。

電話を切ってすぐに、彼はその場に崩れ落ちた。