テニスの王子様 10年後の王子様達 氷帝の場合 彼のプロポーズ編

ゆにっち
@yuni_stardust_

誰もが夢の途中

『ねえ・・なんで、キミはいつも俺に優しいの?なんで、キミはいつも俺を見つめてるの?俺は・・キミにどうしたらいい?キミの望むものは・・』



ちちち・・と時計のアラームが鳴る。(あれ・・なんでアラームなんかセットしたんだろ。必要ないのに・・だって今日も彼女がく・・)そこで昨夜の出来事を思い出す。そして時計を見ていつもなら彼女からモーニングコールがある時間をとっくに過ぎていることを知る。「う、嘘だろ!本当に怒っちゃったの?・・な、なんだ目の前にいるじゃないキミ。え?・・なんでそんな・・顔」


 いつのまにか目の前にいた彼女の顔はとても寂しげなものだった。昨夜も見た泣きたいような、でも優しさも持った、そんな複雑な表情。自分はそんな彼女に何も言えなくて。だから余計に辛い思いもさせて。わかっているのに自分は。なのに言ってしまう。ねえ、黙ってないで何か言ってよ!俺は・・俺は・・・!


 突然、電話の着信音が鳴り響く。彼女の番号に設定してあるメロディ。(えっ?なんで今、鳴・・る。あ、夢・・だったの?)


 まだ寝ぼけているような自分の顔を両手で強く叩いて、彼はやっと電話に出る「あ、ごめんね。う、ううん・・いつもの俺だよ、ふふ。と、ところで昨夜のこと・・いや、なんでもないよ。電話くれたってことは今日も店の手伝いにきてくれるんだよね。・・午前中だけ?昨夜も言った?そ、そう。ううん、来てくれるだけで嬉しい。うちの親もキミのこと頼りにしてる・・。俺?俺はもちろん!それに・・いや今度ゆっくり話すよ。・・努力する」


 最後は少し小声になった。いまさら、努力もなにもないだろうって自分につっこみたくもなったから。(とにかく今日はちゃんとしてなきゃ。短い時間しかいられないなら、なおさら。昨夜のようにはなりたくない)


 30分ほどして彼女はやってきた。いつもどうりの笑顔で彼の家族に挨拶して、クリーニング依頼の客にも丁寧に応対する。この10年ずっと続いている、週に何度かの彼の実家でのバイト。就職してからも、休みのときはたいてい手伝いにきてくれた。もう当たり前のようになっている・・そう誰もが思っていたこの光景も(ダメになっちゃうかと思ったよ昨夜は)彼女の静かな怒りと悲しみは、ちょっと鈍感なとこがある彼にも感じとれるものだった。(それでも、ちゃんと来てくれるのは俺のため?・・だよねえ)


 「お昼ごはんくらい食べていけば?えっ、急ぐの?ごめんね、それなのに・・昨夜のこともあるのに。ほんと、ごめん」


 彼女は笑って手を振り、足早に駅へと向かっていった。「お願いだから、あの娘と喧嘩なんかしないでよ。大事な大事な存在なんだから」と母親に言われ、彼はただ苦笑するしかなかった。3時間ほどだったが、普通に話せた。ただ午後から何の用事があるのか、確かに昨夜聞いた気もするが彼には思いだせなかったし、彼女に聞くこともできなかった。(そうだよね、彼女だってもう24歳で。・・ずつとウチに拘束するわけにはいかないよね。婚約者とかでもないんだし、あくまで彼女の好意で手伝ってもらっているんだから・・)兄夫婦も店を一緒に切り盛りはしているが、もう10年もこの店に通っている彼女も周囲からは既に家族扱いなのを彼は知らない。当たり前のように思っていたことが自分の言葉一つで壊れてしまうかもしれないということを、その夜に彼は幼馴染の説教から思い知らされることになる・・




「珍しく、お前から飲もうなんて誘いがあったから何事かと思ってさ。んで、宍戸も呼んだわけよ。ったら、やっぱそんな話かよ。・・馬鹿だろ、お前。なんでちゃんと聞かねえんだよ。後悔するのがミエミエだっつうの!」


「おい岳人!お前の方が先に酔っちまってどーすんだよ。俺は明日は休みだからいいけどよ。で、なんで慈郎の恋愛相談に彼女もいねえ俺を引っ張り出してくんだよ、嫌味か!」


 夜の居酒屋。ときどきは昔の仲間と集まる場所。夕方と夜の二回、彼女に電話してもつながらなかった慈郎はすぐに向日に電話した。幼稚舎から大学までずっと一緒で、彼女とのことも最初から今までをずっと見てきた彼らは「ていうか、お前ら婚約したんじゃなかったのか?何やってんだよ、25にもなって」と呆れていた。


「いや、25にもなって独りもんの俺がいうこっちゃねえけどよ。・・ってこんな自虐的なこと言わせんなよ。ほんと、とっくに婚約ぐらいしてると思ってたから、今さら喧嘩したとか連絡がつかないとか言われてもピンとこねえよ。つうか、俺らと飲んでるより彼女を探したほうがいいんじゃねえの?」


 「んー。今夜はなんか会わない方がいいような気もするんだよね。昨日のこともあるし。でも・・」連絡がつかなくてほんとは凄く不安だった。いてもたってもいられなくて、でもこうして仲間と会って一人じゃなくなると少し気分も落ちついた。だって別れ際の彼女はいつもの笑顔で・・


「その笑顔がワナなんだって」と向日は酒をあおりながら言う。「俺の前の彼女がちょうどそんな感じだったぜ。あれはほんと不意打ちだった。まあ、慈郎の彼女はあんな女と違っていい子だからな。ずっと見ていたいカップル・・だったんだよ。でも・・さ」


「そうだな、お前らを見てると俺たちも楽しい気分になれたよ、学生のころはな。でもよぉ、もう10年だぜ?それにもう、俺たちも彼女もいい大人なんだ。一緒にいて楽しいだけじゃ割り切れねえもんがあんだろうよ。子供のころから慈郎は彼女に甘えっぱなしで。10代のころはそれでもよかったかもしれない。そんなお前を受けとめるだけの強さと優しさを一つ年下の彼女は持っていて、だから俺らも安心していた。でももういいかげん、そういうのは卒業しろよ」


「卒業たって・・俺はこういう自分しか彼女に見せてこなかった。そりゃ、うまくいかないときもあったけどでも・・」と慈郎は口ごもる。そんな慈郎を向日は悲しそうな目で見る(その目・・昨夜の彼女と一緒・・)


「俺はどう言えばよかったの?彼女は見返りを求めてはくれない。ただいつも側にいてくれて暖かくて・・。ううん、本当は知るのが怖いだけだってのもわかってる。ずっと10年間言わずにいたから、今さら伝えることなんてできない!俺が彼女をどう思っているのか!彼女にどう想われているのか!・・だから、夕べ・・彼女を拒絶した。『私たちって何なんですかね?』って聞かれて、わからない・・って答えた。それがそのときの本心だったから。言葉が・・他になかったから」


 気づくと涙が出ていた。「あれ・・俺泣いてる?なん・・で。ねえ、宍戸は誰と電話で話してんの。俺が泣いているのに・・」


「なんでもねえよ、つうか泣くなよみっともねえ。俺たちが家まで送っていくから出ようぜ」


 そして帰り道、ふと向日が言った「なあ、10年もたてば人は成長しなきゃいけねんだと思うぜ。俺はちょっとしくじっちゃったけど、慈郎はそうなってほしくはないんだよ。言葉に出さなくても伝わる思いってのも確かにあるだろうけど、心に残したい言葉ってのもあるんだよ、特に女ってのはな」つまりさ、わかるだろ?と向日は笑いながら言う。


「そうだな、初めての告白がプロポーズってのもお前らしくていいんじゃないの?・・てか、俺らのまわりにはどんだけ不器用なやつが揃ってんだよ。あ?俺のことじゃねえよ!ま、お前の問題が片付いたら今度はこっちだな。ったく、どうせ俺はずーっと彼女ナシだよ!ちっくしょう!」



 寝る前に携帯をチェックすると彼女からのメールが入っていた。「今日はごめんなさい」と一言。「それ・・だけ?普通に考えたら危ないフラグだよね、これ。プロポーズなんて・・無理じゃないの?だいたいどう言葉に・・」


そう思わず愚痴ったとたん、着信音が鳴った。「う、うわあ!びっくりしたあ。あ、ごめんね。メールみたよ、気にしなくていいからね。うん、ちょっと飲んできたんだ。あんまし気は晴れないけどね、あははは。・・ち、違うよ。キミのせいじゃない。ただ・・少しは吐き出せた。そんで、素直になれって言われた。成長しろって。じゃないとキミを・・・キミを失うかもしれないっ・・て。嫌だって思った。そんなの・・絶対俺は嫌だ!」


 そこまで言って電話の向こうの声が黙ってしまったことに気づく。「ごめん!お、俺・・つい。でも!・・本心、だから。一緒にずっといたいって、10年間ずっとキミを・・。ううん、ちゃんと会ってキミに言いたい!キミに告げる、俺の気持ち!だから明日の夜・・」


「ああ、あの・・・ごめんね。昨日は変な俺で。って・・いつものことか、てへ。・・・ごめん、ちゃんと言うって俺が宣言したんだよね。俺ね、・・ずーっとテニスでもなんでも自分のペースでやってきて、それでうまくいってたから、ずっとそれでいいと思ってた。1人でものんびりと・・ってのが俺のスタイル。そんな風に自分を決めつけていた。・・知るのが怖かった。自分から動いてキミに否定されるのが怖かったんだとも思う。キミはとっても優しい人なのにね。でも、俺も変わったんだ。これからはもっとキミに寄り添っていく。キミの気持ちに素直になっていく。だから新しくなっていく俺をどうか受け入れて。根本的なとこは変わらないと思うから。キミがずっと見つめてくれてた俺だから。だから・・聞いて」




俺・・きみと付き合い始めて


ずいぶんと生活のリズムが安定したと思う


ちゃんと起きていられるようになったし・・


きみのおかげで毎日飽きることなくいろんなことがやれてる


やっぱきみが俺には必要で


そしてきみが大好きで


きみと人生をやりぬきたい


一緒に寝て一緒に起きて


一緒にご飯食べて一緒に出掛けて


一緒にずっと笑っていられる


そんな生活を俺と始めてください



きみと共に歩む人生に終わりがこないことを祈りながら


これからもずっときみを・・愛しています


10年間ありがとう、側にいてくれて


この先も二人で・・・


   



          To Be Continued