星ノ海ニ舞ウ姫

アメツキ
@black_a_dream

八、青葉と小枝

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 宵藍が平家へ来て数日。

 自室の戸を開けていると、笛の音が聞こえてきた。

 宵藍はその音が聞こえる方へと向かった。


 笛の音が聞こえてくる離れまでくると、一人の青年が音のする方角を見ていた。


経正つねまさ殿?』

「ああ、宵藍殿…」


 たいらの経正つねまさ

 たいらの経盛つねもりの長男で、たいらの敦盛あつもりの兄。平清盛の甥にあたる。

 平家一門の中でも俊才として知られ、歌人として活躍。また平安貴族が愛用した楽器の琵琶の名手として名を挙げた人物(Wikipedia参照)。


『なぜこのような所に?』

「...敦盛、...弟があそこにいるのです」


 そう言って経正は、笛の音が聞こえる離れの一角を指差した。


 彼の弟であるたいらの敦盛あつもりは怨霊だ。彼の死後、清盛は悲しみ、三種の神器を用いて、彼を怨霊として甦らせた。彼は、平家で最初に怨霊となった者らしい。

 経正の話では、敦盛は怨霊となってから怨霊としての衝動に自制がきかなくなる時があるらしく、他者を傷つけたくないからと、あの離れに引き込もっているらしい。


「怨霊となってから離れに籠りきりで...。

 ...宵藍殿、どうかあの子の話し相手に

 なってあげてはくれませんか?」

『私が?』


 経正は宵藍をまっすぐ見つめ、「どうか、お願いします」と言った。

 宵藍は経正を見て頷くと、美しい笛の音が聞こえる離れへと向かった。


 一瞬、何か企むような笑みを浮かべて。


◇◇◇


 笛の音が聞こえる離れの一室は、障子戸が開いたままだった。

 宵藍はその一室へと近づいていくと、部屋の一歩手前で、床がギシッと音を立てた。


「っ、誰だ?」


 音に驚き、紫色の髪を揺らし振り向いく青年。

 たいらの敦盛あつもり

 平経盛の末子で、平経正の弟。

 官職にはついておらず、無官むかん大夫たいふ(たゆう)と称された。笛の名手であり、祖父・たいらの忠盛ただもりが鳥羽院より賜った『小枝さえだ』(または『青葉』)という笛を譲り受ける(Wikipedia参照)。


『突然、失礼しました。

 貴方あなたが、平敦盛殿か?』

「あ、ああ。そうだ。...あなたは?」

『私は宵藍と申します』

「黒の巫の...」


 敦盛は「あなたが、そうなのか...」と呟き、宵藍を見る。


「......早々に立ち去られよ。

 怨霊の身である私は...」

『傷つけることしかできない、ですか?』

「っ...、そうだ。だから」


 「だから立ち去られよ」、そう続けようとした敦盛の言葉を遮り、宵藍は『大丈夫』と言って彼の手を握る。


「は、放せっ!」


 宵藍の手を放そうとする敦盛に、宵藍は『貴方は、優しい人ですね』と言った。


『大丈夫です。私が黒の巫であると

 ご存知ならば、そのちからのことも

 知っておりましょう?』

「...確か、怨霊を式神とする力を、

 持つのであったか」


 敦盛の言葉にた対し、宵藍は『はい』と返事をするし、さらに『そこで提案がございます』と言葉を続けた。


「提案...?」

『貴方の力を、私にお貸しください』

「!?」


 宵藍の提案とはこうだ。

 敦盛が宵藍の式神となれば、怨霊としての渇きや衝動を取り除くことができる。だからその契約をしないか、ということだった。


『これはただの提案ですから、

 どうするかは貴方様次第です』

「...本当に、消すことができるのか?」


 敦盛の問いに、宵藍は『はい』と頷く。


「...そうか。応じよう」

『! よろしいのですか?私のような、

 得体の知れない女の言葉に応じて』

「...清盛叔父上は、

 貴女あなたを迎え入れると言っていた。

 貴女を信ずるにはそれで十分だ」


 迷い無く応じると言った敦盛に、宵藍は少し驚く。そんな宵藍に対し、敦盛は宵藍をまっすぐ見つめ、もう一度「私は貴女を信じる」と言った。


「...もし、私が騙されたのだとしたら、

 それはあなたの本質を見抜けなかった

 私の落ち度。悔いるような事はしない」


 敦盛はさらにそう付け加えると、宵藍は目を丸くした。


『...一本取られたなァ』


 宵藍は苦笑して、彼を見つめ返した。




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