Masquerade【主人公総受け】

....オモテト 2

上空を気持ち良さげに泳ぐオリオンだが、先程からぶくぶく空気を吐き出すようにしてイッキへの猜疑心を溢している。それを水面からぼんやり見つめていたのだけれど、ふと「ねぇ、何を見てるの?」なんて言葉が耳元に触れたため、視線をすぐ隣に向ければ青い瞳に無表情の自分が映って見えた。


「もしかして、警戒してる?大丈夫だよ。ただ、部屋に送るだけだから。といっても、ずっと2人きりになりたいって思ってたから役得かな」

「2人きりになりたかったんですか?」

「そうだよ?なんたって、君を追いかけて此処まで来たんだからね」

「…さっきは、皆に会いに来たって言っていました」

「ははっ。そうだね…ねぇ、どっちが本当だと思う?」


躱し合うような遣り取りを退屈そうに聞いていたオリオンはイッキを掴みどころがない人だと言うが、本当にその通りだと思う。意地悪な質問に困って目を伏せれば、イッキは楽しげに笑うため、悔しいと思う反面、芽生える好奇心から彼の笑顔を覗き見た。

整った顔立ちだが、その表情はただ貼り付けただけのように見える。目が合うとその青に冷たい海を重ねて、胸がぎゅっと痛む。「ん?どうかした?」なんて甘い声で問われ、首を振って答える序でに妙な感覚を振り払おうとしたのだけれど、それでも尚、イッキのことが気になってしまう。


「ねぇ。君の様子がいつもと違うのは…入院していたことと関係があったりする?」

「え…」

「サワちゃんたちから聞いたよ。君が数日、バイトを休んでたのは入院していたからだって…何があったの?」


「それを聞きたいのは、こっちなんだけど…」とオリオンが言うように、今、持っている一番古い記憶が病室のベッドに腰掛けていた時のことで。それからすぐにシンとトーマに会って退院。流れに乗っているうちに信濃に来ていたという状況なのだ。

幼馴染だという2人は相変わらず病院にいた理由を教えてくれないし、イッキの様子を見る限り、彼も自分と同じように何も知らないのだろう。話を振られて何か分かるかもと期待したところで逆に質問されても困ってしまう。


「話したくないかな?ごめんね。突っ込んだこと聞いて」

「…」

「例のファンクラブが関係してるんじゃないかって、気になったから」

「ファンクラブ…?」

「ほら。僕のせいでまた嫌がらせにあって怪我でもしたのかと思ってたんだけど…その様子だと、違うんだね?」


イッキが何を言っているのか分からず、首を傾げたまま頷いてしまう。その曖昧な返事に眉を寄せるイッキを横目に「ファンクラブについて心当たりはない?」とオリオンに促されるがまま考えてみる。

イッキの物言いや、魅力そのものを考えれば彼のファンクラブとすれば合点がいく。しかし、なぜ自分が嫌がらせを受けていたのか思い出される気配はなく、深く考えようとすると胸の奥がざわつくような感覚に襲われる。思い出さないほうが良いと警告されているようで、気が付けば、ただ歩くだけの自分になっていた。


会話が途切れたまま暫く進んでいるうちに、こちらに合わせるように並奏していた足音が1つ消える。それに倣って足を止めれば、そこには女性スタッフの部屋があって。柔らかなライトカラーのドアがイッキの手によって開けられるのを見ながら「結局、ファンクラブのことはよく分からないままだね」というオリオンの言葉に頷いた。


「あの…ありがとうございました」


沈黙を含んだ重い空気を吸って、言葉を紡ぐ。ぺこりと下げた頭を上げる頃には、イッキは顰め面を一変。穏やかに「どういたしまして」と返してくれるから、今までの遣り取りがなかったかのような気になる。けれど、不意にそれは間違いだと失ったはずの自分が囁いたから、部屋に足を踏み入れてすぐに振り返ってみれば、揺れる青と視線が絡む。

次の瞬間には、貼り付けたような笑みを浮かべ「どうかした?もしかして一緒にいてほしい?」なんて、白々しく尋ねてくるイッキに対し、道すがらの遣り取りを含め、今まで見てきた彼の全てが偽りだったように思えた。そして、残ったのは彼の悲しみや不安、孤独。


「私は、大丈夫ですよ」


イッキがずっと心配してくれていたことにもっと早く気付いて、伝えるべき言葉だったのだと思う。唯の言い訳になるが、自分のことに精一杯で、他人も同然な認識の中にある相手のことが見えなかったのだ。

だけど、漸く心からの笑みを浮かべ「そうだね」と安堵を溢すイッキを見ていると遅くても気付けて良かったと、彼のことをもっと知っていかなければと、思った。







End