拝啓、君への宣戦布告

甲殻類
@tarabadaYO

彼を初めて見たあの感動は今も忘れられない。

圧倒的な強さで勝利した彼の周りに歓声は沸き上がらず、ただ静かにコート上に立っていた。 勝つのが当たり前、とでも言うかの様に涼しい表情で膝をつく対戦相手を見下ろし、静かにその場を去っていく。 その時の風になびく柔らかな髪や、激しい試合の中でも落とすことのなかったジャージが更に人間離れした様に思えて、こんなにも美しい人が実在したんだ、と今でもその光景を思い出すことが出来る。 まさに神の子、それが幸村精市だった。





「騙された!!!!!」



当時その幸村精市に魅了された私の頬を、これでもかと言うほどひっぱたきたい。確かにあの時の幸村は美しく、まるで美術館に展示される作品たちの様に美しかった。 だから本人も物静かで、儚げで、物腰の柔らかい王子様のような人だと勘違いして憧れたというのに。



「全然儚くない!!! 寧ろ図太い!!!」

「は? 失礼だな」



そんな私の嘆きを隣で頬杖をついて聞いている男は紛れもなく幸村精市だった。今年同じクラスになり1人ワクワクしていたのだが、実際話してみればあの時とは違い偉そうだし、人のこといじってくるし、挙句の果てに"お前"呼ばわりだ。

あの日憧れたコートから出てしまえば彼は神の子ではなく、やけに美しい顔をした中身はそこら辺の男の子だった。



「勝手に俺に夢を見たのはお前だっていうのは理解してる?」

「そうなんだけど、夢見るだけならタダでしょ!!」



偉そうにそう言った姿は神の子どころか寧ろ悪魔。

彼は毎日こうやって私のことを弄っては遊ぶ。 しかもこのような態度はよっぽど仲のいい男友達にしかしないので、女としてのプライドもあるし、イラッとくる。 じゃれ合うのは楽しいけれど、何だか負けた気がするのだ。


そしてこの男は私の機嫌を損ねたことを察知すると、私の憧れた儚げ神の子オーラを出して機嫌をとり、そして機嫌が治ったことに対してまた満足気に私を見下ろす。まさに神話に出てくる割と自分勝手な神。 それを踏まえたニックネームなら座布団3枚ものである。

まあ何だかんだと長々言いつつも彼とは良好な関係を築いており、これまで通りわいわいと友人を続けていくつもりだったが、実は次の一言で私たちの関係は急変する。



「いや、俺お前のことが好きだよ」

「なんでそこも上から目線?」



びっくりしすぎて目も飛び出したし、空いた口もふさがらないし、多分寿命も縮んだ。 今は授業と授業の間で、ここは教室で。 でも周りは誰も聞いていないようで、私以外は依然としていつも通りだ。

そりゃ女子一仲がいいことは自負しているが、そんな感情はまさか持ってるとは思えなかった。

しかし私は疑問に思う。 もし本当に私のことが好きならば、私の憧れた神の子としての幸村で来られたら、私は一発で落ちた自信がある。 でも彼は敢えてそうはしなかった。そのことを疑問に思い問うと、割と納得する答えだった。



「お前が嫌いな俺で、お前の好きな神の子に勝ちたいんだよ」



思った以上に自分の中でストン、と来る答えだった。

その言葉には何故か自信が満ち溢れていて、私としてもその男らしさというか、今までとは違う輝きを放つ幸村に正直白旗を上げたくなる。

だが、いくら相手が幸村とはいえ私もそんな簡単な女ではない。 これは、彼への仕返しであり、ちょっとした意地だ。



「そう、なら私は神の子の幸村を落としてやる」

「やってみたらいい、きっと"俺"より難しいはずだから」


追うは神の子、追われるはただの男の子。

落とすか落とされるかのラグナロク、戦いの火蓋は切って落とされた。

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