廃校ゴリラ戦記

「ふぁ、あ……。え、なんだここ……?」

目が醒めるとそこは何やら薄暗く埃っぽい、見覚えがあるようでない場所だった。

前後にある扉、前にある黒板と教卓、大量の机と椅子と後ろのロッカー。

そこで教室であるということは分かるが、自分の学校はこんなに埃っぽくはないし、第一自分は家に帰って、自分の部屋のベッドで寝たはずだから、まず学校に居ること自体が可笑しい。

そこまで考えてはっ、と思い至る。

もしかしなくてもこれ、よくあるホラー小説と同じ状況なんじゃないか……?

さあぁっ、と血の気が引いていくのが分かった。

待て待て、俺は読むのが好きなのであって自分で体験したいとは思ったことがない。

むしろ無理無理絶対無理。

えっちょっまっ、ほん、家に!帰らせて!

頭の中でわぁわぁと騒いでいると、掃除用具入れの中から小さな声が聞こえた。

え、声が、聞こえた……?

ハイアウトー!セウトじゃないですね、かんっぺきにアウト!はぁい本当にお疲れ様でしたー!

じゃないじゃない幽霊でもゾンビでもどっちにしろ駄目!

か、隠れ場所、えーっときょ、教卓ぐらいしかない!いや遠いわアホ!それ扉開く方が早いから!

ギィィ……。

ん?ぎ、ギィィ……?

それは当然、掃除用具入れの扉が、開く音なわけで。

もう駄目だ、と目を瞑った瞬間、聞き覚えのある声がした。

「どこだよここ!臭いわ!……って、ん?飯山、お前なんでこんなところにいるの?犯人お前?」

「誰が犯人だ違うわ!……って、え、月城?」

ロッカーから出てきたのは、考えていた敵ではなく、クラスメイトの女子__月城 貴子だった。

「え、なんで月城がここにいるんだ?」

「そりゃ、よく分からんけど気付いたらここにいたんだよ。好き好んで埃臭い掃除用具入れの中に入るかっつーの」

いやまぁそうなんだけど、テンプレは大事にしたい派なんですって。

いやそんなこと気にしてる場合ではないんだけどさ。

少しほっとしながらも現状を説明すると、分かった、と笑った。

「じゃあ、外に出るために適当に探索すればいいってことか。じゃ、とりあえずこの部屋漁って、終わったら違う部屋行く、って感じでいい?」

全く怖がらないし、というか適応速すぎない?お前本当に人間か?実は幽霊だったりしないよな?えっ嘘だろ嘘だよな?

驚いている内にも、月城はテキパキと自分が出てきた掃除用具入れや荷物を入れておくロッカー、机の中を探っていく。

ぽかん、としている間に教卓まで見終えたらしい月城は、呆れ顔でこちらを振り返った。

「おーい、飯山、突っ立ってる間に終わったよ?はいこれ結果。そうそう、喜ばしいことに、さっき言ってた中だとゾンビものの方に当てはまりそうだよ」

謎のメモ、少し錆びたものと新品の二本のナイフといくつかの手榴弾。

確かにこれは、物理的対抗策があるあたりゾンビ系か。よかった、これで月城は人間確定で良さそうだ。メンタルが人間じゃないけど。

そうだな、と頷いていると、前の扉が急に叩かれた。

ダンダン、ダンダン、と叩かれていく毎に、磨りガラスが血で汚れて、何も見えなくなっていく。

そのことと、ヴォォ、という唸り声でピンと来た。

「ぞ、ゾンビだ……」

「ん、じゃあ読み通りか。で、引き戸なのに叩くだけだし、知能はないのかな。人が居ないかの確認なら、扉を開けた方が速いしね。それか、部屋の中には入ってこれない可能性もあるけど……。どうする飯山、試してみる?」

「月城は冷静すぎるだろ何でだよ。というか情けない話だけど俺、戦えないぞ……?」

「別にいいよ。あ、ゾンビって素手で触ったらまずいか?」

「え、いや、感触は最悪だけど毒とかはない、ってのが大体かな。ここのが毒ないかは分かんないけど」

俺がそう言うと、月城はすたすたと前よ扉に近寄り、ガラリと開けると素早く距離を取った。

「って、はぁ!?お前何で開けたんだよアホ!速く閉めろ!」

「いや、ごめん、これも試してみる価値はあるな、と思って。どうやら扉が開いてれば入っては来れるんだね」

「報連相しろ馬鹿!ほんと馬鹿!戦えないっつったろ俺!」

俺の言葉に、ははは、と笑うと月城はさっと扉を閉めて、入ってきたゾンビに向かい合って、俺にぱちりとウィンクをした。

「大丈夫、戦うのは私だからね」

「……はぁぁぁっ!?」

「さて、レッツ、マッスールッ」

おもむろにゾンビの頭を掴んむと、ぶちっ、とゾンビの体から首をもぎ取った。

そう、もぎ取った。

「なんだお前!いや、なんだお前!」

「うん、これで再起不能になるみたいだね、これも新たな情報だ」

「え、首もいだ?元とはいえ人間の?首もいだよな今?」

「うんうん、毒も無さそうだね。さ、もうここ用済みでしょ?次に行こうか」

そう、俺は忘れていたのだ。

月城 貴子が、紛うことなき、正真正銘の、美少女の皮を被った__ゴリラだ、ということを。

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君はずっと、太陽じゃなくてひまわりだった。

<殺し屋殺し>の殺し屋と気紛れな殺し屋の、奇妙な同居生活のお話。