蜂蜜ライセンス

深矢
@fucaya

この小説は夢小説 (名前変換ができる小説) です。
キャラベルに登録してログインすると、登場人物の名前をお好きな名前に変更できます。









掃除が始まった教室内で慈郎くんは私の腕をきつく掴んだまま離そうとしなかった。

私はこれから訪れる悲しみから逃げようとは思っていなかったし、寧ろ、慈郎くんにと向かい合わなくてはいけないと思っていたのでそれはそれで全然いいのだけれど。



だけど、何も話してもらえないのはいささか辛い。

こんな場所でお別れをするのも変だと思う私は(だって掃除中だから)場所を移動しない?と慈郎くんに声をかけたのだけれど慈郎くんは今日、一番怖い顔をして私を見つめているだけなのだ。



どうしろというのだ。




掃除は着々と進んでいて、私達が立っているのはすごく迷惑だと遠巻きに思った。

自分達のことなのに。









「慈郎くん、聞いてる?場所移動しよう?」



「・・・・・・・」



「ここにいたら迷惑だよ?ね?」









もう一度伺いを立てる。

出来るだけ笑顔を作って、私は大丈夫だからとそんな風に。



だって私は笑顔でお別れがしたいんだから。




私が真っ直ぐ見つめ返したのを暫く見つめて、それから慈郎くんは私の腕を引っ張って歩き出した。






















着いたのは慈郎くんのお気に入りの昼寝スポット裏庭の木陰だ。

ここは私が慈郎くんに告白した場所であり、慈郎くんがそれに答えてくれた場所でもある。



そして、本命の彼女を幸せそうに抱きしめていた場所でも。







すこしだけ心に傷みを感じながら、だけど、自分の愛の押しつけを思い出して傷める資格すらないように思った。慈郎くんは何も悪いことなどしていないのだ。



私が勝手にたくさんの愛を放って、慈郎くんはそれのお返しをくれた。それだけだ。

随分甘くて、そして、残酷なお返しだなって思うけれど。









「あのね、慈郎くん私ね話が



「おしたりと付き合うんでしょ?」



「え?」



「名前ちゃんおしたりが良くなったんでしょ!?」








木陰についてやはり黙り込んだ慈郎くんに核心の話をしようとしたら慈郎くんはよくわからないことを、すごく、すごく怖い顔で言い出した。目が本気で怒っているのを告げていて、そして未だにつかまれている腕が痛い。



忍足くんって、なんだ?









「ちょっと、慈郎くん落ち着いて!忍足く



「俺よりおしたりのほうが背が高いからっ!?」



「なにを言って



「おしたりのほうが頭がいいからっ?!」








慈郎くんは尚も続ける。

こんなに大きな声を出した慈郎くんは初めて見るなって場違いにも思った。



というか、意味がわからない。











「慈郎くん、あのね、聞いて?」



「だって名前ちゃんが!」



「忍足くんなんかどうして出てくるの?どうでもいいよ私」



「え、」



「そんなことより、話があるんだ」










そういや殴りそこなってると思いつつ、忍足くんは今は本気でどうでもいい。

勢いづいていた慈郎くんをなんとか落ち着かせて、ゆっくりと、私を捕まえている慈郎くんの手首にもう片方の手で触れた。離してって言うように。



だけど慈郎くんは離す気はないらしい。落ち着いて少し緩んでいた力を再びきつく握り込んだ。

痛い、んだけどな。



でも仕方ない。

こんなことでウダウダしている時間ではないのだ。

決着をつけるべく私は此処に慈郎くんといるのだから。



ゴクンと唾を飲み込んで慈郎くんを見つめた。






キラキラ光る髪の毛が私には眩しい。

大きな目も、痩せているように見えるのにしっかり整っているその身体も、

眠そうだったり、嬉しそうだったり、色んな音が出るその口も、

少し大きめの制服を着ているせいでかわいく見えるその佇まいも。



全部全部私には眩しくて、もったいない。







一瞬だけでも幸せにしてもらったんだからそれでいい。

慈郎くんが幸せそうに笑うのがあの子の隣だっていうならそれでいい。

そう思ったら悲しいけれど諦めはつくんじゃないかと思う。



好きな人、だから慈郎くんは。









「慈郎くん、本当にごめんね」










だからしっかり謝って、慈郎くんにもう気にしなくていいって言うんだ。










「今までどうもありがとう、・・・えと、









私の押し付けの愛情に、もう答えようとしてくれなくてもいいよ。



慈郎くんは慈郎くんの好きな人の隣にいればいいから。








だけど私は出さなければいけない言葉を口から出すのに躊躇する。

声にしてしまったら、全てが終わってしまうんだ。



ああなんて私は弱いんだろう。昨日からずっと、今日も授業中も今までもずっと、慈郎くんを解放してあげなくちゃいけないって。そう決めていたのに、こんなギリギリになって怖くなっているだなんて。



だめだ、ちゃんとしなくちゃいけない。




言うんだ。









言わなくちゃ。







































「わ、私の、重



「なんだよそれっ!」









声が震えるのがわかった。

こんな声で言えば慈郎くんが気にしてしまうじゃないかってそう思った。

でも、そう思ったのは一瞬で、かき消された。



慈郎くんが私の言葉を聞かずにいきなり大きい声をだしたからだ。



腕が、痛い。










「慈郎くんこ、こわい、よ?どうし



「名前ちゃんが今までありがとうとか言うから!」



「それは、・・・あのね、最後まで話を聞いて?」









頑張って言うから。









「私が、じ、慈郎くんにおお重い



「今までありがとうなんてサヨナラみたいだろ!」



「(聞いてよ・・・)」



「やっぱりおしたりだ!別れてって言いたいんでしょ?それでおしたりと付き合うんだ?!」



「ちょ、っと



「俺がいつも名前ちゃんに机とか片付けてもらってたからダメだったの?」



「え?」



「俺にノート貸したり、放課後になったら起こしてくれたり」



「???」



「そーゆーの俺すげー幸せだったのに・・・・迷惑だった、んだ・・・」









すごい勢いで慈郎くんが私にぶつかって来た。

それがあまりにもすごいので私は少し状態が理解できなくて目を丸くした。

慈郎くんは毅然として怒のオーラをまとっていたけれど、最後の方から哀のオーラも一緒に背負い込みだして、私はどうしていいか一層わからなくなった。



だって、幸せだったって、私の行為は・・




ギュ、と今も尚握られる腕の感覚が麻痺してきた。

何かと引き換えにこの現状を理解できるならいいのだけれど・・・









「じ、慈郎くん・・・私(迷惑だったのは慈郎くんの方でしょ?)」



「俺がんばるから」



「え?」



「俺、ちゃんとノートとるし、寝ない」



「慈郎く



「机の上だって片付けるし、背だって伸ばすし、あたまもカシコクなる」



「・・・・(頭もよくなる、だよ慈郎くん)」




































「だから俺とずっと一緒にいてよ名前ちゃん」
































慈郎くんは真剣に私に大きな声を浴びせかけた。



その声に含まれる言葉の意味が一瞬、わからなくて私はその場の時間が止まるのを感じた。














だって、慈郎くんは私のことなんて好きじゃなくて、

私の行為だって迷惑で、だからそれは重くて、

私が慈郎くんに一方的に押し付けていた行動に慈郎くんは答えただけで、

だから慈郎くんは私には笑ってくれなくて、

隣のクラスのあの子には太陽が輝くような笑顔を注いで、

キス、してたし、抱きしめてたし・・・・・・



だって、だって、本当に慈郎くんはあの時幸せそうで・・・・・・・・







だから私はあの時死んでしまいそうなくらい悲しくて・・・・・・・・・・・












「名前ちゃん?」










目から涙が溢れてくる。

もう何がなんだか分からなくなってしまった。



慈郎くんはこの場所で、違う女の子と幸せそうに・・・・。










「泣いてるの?」



「ごめっ、じろ、くん・・・私・・



「泣かないでよ名前ちゃん、それでね、謝るのやめて?」



「ごめ、ん・・だって、じろく、ん、は



「ダメだよ名前ちゃん、俺別れないから・・・泣いてもダメなんだ」



「違っ、そうじゃな・・くて・・



「ぜったい誰にも渡さない」











キスをして、抱きしめて、違う女の子と、幸せそうに・・・・・










「ううっ・・・・



「俺さーずっとずっと言ってなかったけど」



「ズズッ・・・つ、・・・」

























「名前ちゃんのこと大好きだC・・・へへ」










慈郎くんは悲しそうに笑った。















もう駄目だ。



駄目だよ慈郎くん。








そんなこと言われたら私は慈郎くんを諦めるなんてしてあげられないよ。

慈郎くんが何を思ってるのかわからない。慈郎くんが二股なんてしないのはわかってる。

でもやっぱり現状はおかしくて、私は慈郎くんを諦めるべきなのに。



だけどもう駄目だよ慈郎くん。







慈郎くんが好きだもん。









嘘でも好きだなんて言っちゃったら、私はもう諦められない。










「うううっ・・・・うわーん!」



「・・・俺だって泣きたいもん・・・」



「ちがうよ馬鹿・・・っ、じ、じろ・・グスッく、んのばかぁ」



「名前ちゃんだって馬鹿だもん!おしたり許さねー!」










もうなんでも良くなって涙がボロボロ流れ出して、それをつかまれていない方の腕で押さえたら慈郎くんが掴んでる腕をぐいっと引いた。だから、私は必然的に慈郎くんの胸に顔をぶつけてしまった。



よくわからない叫びあいになったと思ったら、そして良くわからない状態になった。







(えええっ)








私、慈郎くんの腕の中にいる。





簡単に涙は止まってしまった。

驚いたら涙って引っ込むものなんだね、初めて知ったよ。










「俺の胸で泣いてよ・・・なんちってー・・・」



「慈郎く



「やっと抱きしめれるようになったのに使わないと損だC」



「え、」



「・・・・・俺ね、ずっと名前ちゃんにキスしたかったんだ」



「は、はっ?!」



「でもさ、勇気なくて出来なくてさ」



「う、・・うん」



「でもこの前名前ちゃんからしてくれてさ」



「う、・・うん?えっ!?」



「だから俺嬉しくて名前ちゃんのこと抱きしめたでしょ?」



「ちょ、ちょっと・・」



「やったーこれからはいっぱいギュって出来るとか思ったんだ俺・・キスもね」



「・・・・ちょっと待って?」











慈郎くんの声がいつもより近い場所から聞こえてきて、それでドキドキはしているんだと思うけど、それが全くもって綺麗に止まった。



そしてドクドクドクとだんだん早くなって、私の体中は血の気をめいっぱい引かせた状態に。




今、慈郎くんわけわからないこと言ったよね?










「でも名前ちゃんが俺のこと好きじゃないならしちゃダメだね」



「慈郎くん・・・あのさ・・・・」



「でも今だけはいいでしょ?俺が泣かしちゃったC-・・」















まさかとは思うけど慈郎くん・・・













チクタクチクタク

時計はないけど時が刻まれる



黙り込んで考える私をギュっと抱きしめてくれる慈郎くんの匂いはお日様みたいだ。

あったかくて、安心できて。

そんな中で私の思考は冷静さを取り戻して、だからもうなんとなく全てがわかってしまった。



そしたら慈郎くんが私の身体を少しだけ離した。そしてそのまま真っ直ぐ見つめる。















「おしたりなんかに渡さないけど、だけど我慢する・・・ギュっとかキスとか」



「また俺のこと好きになってもらえるように頑張るからね」



「だからもうちょっとだけユーヨを下さい」













ああもうなんて言ったらいいかわからないよ。慈郎くんもう許せないよ馬鹿じゃないこの人・・・・



やっぱり悲しそうに、だけど精一杯の気持ちをこめてそう言った慈郎くんは今までで一番愛しかった。悩んだ私をどうしてくれるんだよ。



慈郎くんが幸せそうに笑ってたのは私を想ってだって、そういうことだよね。

あの幸せそうな笑顔を私にくれるってことだよね。

なんだ、それ。参ったよ本当に。





慈郎くんは私の顔を不安そうに見下ろしている。

サワサワと緩く風が吹いて、慈郎くんの綺麗な明るい髪の毛が同じように揺れた。

好きで好きでたまらない。









「慈郎くん、私、慈郎くんのこと大好きだよ」









だからもう隠すことなくそのまま真っ直ぐそう言ってやった。

慈郎くんは一度だけポカンって顔をしてそれから目をまん丸に大きく広げた。びっくりした顔は初めてみた。









「え、でも、え?だって、」



「一人で不安になってただけ。私はずっと慈郎くんが好きなんだ」



「で、でも、名前ちゃんおしたりと仲良しで」



「?仲良くなんかないよ。さっきだって酷いことしてたんだよ?からかってさ」



「え、え、さっき?」



「6時間目。絶対殴ってやるって思った!」








そうだそうだ!忍足くんなんであんな酷いことしたんだろう。とにかく絶対明日文句の一つでも・・









「なーんだぁ!そっかぁ~!」



「ん?」



「もー!なんだ、そっかそっかぁ~!」








忍足くんへの報復を考えてる最中、慈郎くんは私を完全に解放して嬉しそうに笑い出した。

そして慈郎くんはいつもの木陰に座り込んだ。

サワサワと揺れる葉っぱの隙間から夕陽の光がすり抜けて慈郎くんの肌を照らす。



慈郎くんは座ったその先から私を見上げて、幸せそうに微笑んだ。









「両想いだC」









思わず私も顔が綻ぶ。慈郎くんみたいに幸せに笑えているといいなって思った。
















結局、その日はもう部活に行っても怒られるだけだと、慈郎くんは私の手を掴んで校門へ向かった。

あったかいその掌からじんわり幸せが伝わってきて、二人で一緒にいっぱい笑った。

それで、途中でコンビニに寄って、迷惑かけたお詫びにと慈郎くんにムースポッキーを買ってあげた。

で、それを持って公園へ行って、二人で半分こして食べた。

慈郎くんはやっぱり幸せそうで、私もとっても幸せで。





それでね、甘い甘いキスをしたんだよ。
















「ひとつだけ慈郎くんに頑張って欲しいことがあるんだけど」



「ん?なにー?」



「寝ぼけるのはいいけど、私と他の人を間違わないでね?」



「ん!わかった!」














軽快な慈郎くんの返事は少しの不安を連れてきたけど、だけど幸せだから大丈夫だ。

両想いなんだから、これからはずっと傍にいてもいいんだしね。









どうしよう忍足くん。















幸せになってしまいました。











end ( 忍足くんは気が利くいいこ )







3 / 4