口は災いのもと?

りと@FGO垢
@rtnfgoak

「やあ、お帰り! マイガール」


 今日分の戦闘シミュレーションを終えてマイルームに戻ると、いつものように椅子に座って本を読んでいたモリアーティに迎えられた。


「ただいまー……」


 いつもなら同じように座ってその日の出来事なんかの話に花を咲かせるのだけれど、今日はとてもじゃないけどそんな気力が残っていない。わたしは挨拶もそこそこにモリアーティの横を通り過ぎると、奥のベッドに直行して、真正面から倒れるように寝転んだ。


「はぁ……」


 ああ、ふかふかのベッドの感触が気持ちいい。このまま眠ってしまいたい。


「お疲れのようだネ?」


「んー……今日はシミュレーションが多くて、ちょっとね……」


 もう顔を上げる気力もない。枕に顔を沈めたままモリアーティに返事をした。


 ここ最近はサーヴァントが増えてきたのもあって、戦闘シミュレーションに付き合ったりする回数が増えてきていた。協力してくれるサーヴァントが増えるのは嬉しいことなのだけれど、何人ものサーヴァントに付き合うのはやっぱり疲れてしまう。


「なるほど。新しく来たサーヴァントたちの強化に付き合っていたのか」


 わたしが何も説明しなくても、モリアーティはわたしの疲れの原因がわかったらしい。モリアーティにしてみれば、この程度の推理なんて推理のうちに入らないぐらいなんだろう。


 ……ああ、眠気がだんだん強くなってきている。頭がうまく働かない。


「サーヴァントたちの強化も大切だが、無理をしてはいけないよ? マスター君が健康でなければサーヴァントたちのコンディションにも関わる。それでは本末転倒だ」


「うん……わかってる……」


 ふと、部屋がしんと静かになった。


 あ、だめだこれ。もうすぐ落ちる。


「ようし、マスター君! せっかくだから私が添い寝してあげよう!」


 ……モリアーティが何か言っているけど、上手く聞き取れない。でも、とりあえず返事はしておかないと。


「うん……」


「…………あー、マスター君?」


「んー……」


「私が言ったこと、わかっているかネ?」


「んー……うん……」


 また部屋が静かになった。


 さっき、モリアーティは何と言ったんだろう。まあいいや、もう眠気も限界だし、眠ってしまおう。


「……?」


 今、ベッドが揺れた気がする。気のせいかな。


「マスター君」


「わぁ!?」


 真後ろからモリアーティの声がして、わたしは弾かれたように体を反転させた。いつの間にか、ベッドの真横に来ていたモリアーティがわたしの顔を覗き込んでいた。びっくりするぐらい顔が近くにあって、眠気が一瞬で吹き飛ぶ。


「……え? あ、どうし、たの……?」


 モリアーティの顔に、いつもの飄々とした笑みはなかった。どうしてかはわからないけれど、怒っているように見える。


「マスター君。きみ、私以外に同じことを言われてもうんと言うのかい?」


 どうしよう、何の事かさっぱりわからない。たぶんさっき寝惚けて返事をしたことを言っているんだろうけど、まったく覚えていない……!


「え、えーっと、しないと、思う……」


 なんとなくだけれど、ここは否定しておいた方がいい気がした。けど、モリアーティの表情は晴れない。


「ふむ。つまり、私だけだと?」


「う、うん」


 たぶん。何の事かまったくわからないけど。


「……あー、もう……君って子は……」


 モリアーティは眉間にしわを寄せて、手で顔を覆ってしまった。


 もしかして返事の仕方を間違えてしまったんだろうか。やっぱり今からでも、素直に聞いてなくて適当に返事をしたと謝るべきかもしれない。うん、それがいい。そうしよう。


 謝ろうとしたその時、モリアーティがベッドに乗ってきた。さっきよりも大きくベッドが軋む。


「え」


 待って。何をしているんだこの人は。


 困惑するわたしを他所に、モリアーティはわたしに跨るような体勢になって、わたしの顔の横に片手を付いた。そこでようやく、まずい事態になっていることに気付く。


「モリアー、ティ?」


 心臓の鼓動が早い。知らず、体に力が入る。


「マスター君。きみは私を心から信頼してうんと言ったのだろうし、その点については絶大な自信があるんだが……ほら、一応、私もひとりの男なのだよ」


「……? う、うん――ひぁ!?」


 おもむろに太腿を撫でられて、体が硬直する。体温が上がっていくのがわかる。眠気はもうどこかに消えていた。


「え、あ、ちょっ」


「だからネ? そうやって誘惑なんかされると、私も自分を抑えられなくなるのだよ」


「ゆ、誘惑なんかしてない……!」


「そうだろうとも。きみはそんなことをする子ではない――だが、きみが意図していなくても、そう捉えられてしまうこともある」


 わたしの太腿を撫でていたモリアーティの手が上がってくる。太腿から腰、脇腹へとゆっくりと指を滑らせて、最後にわたしの頬を撫でた。


「ここにいる男のサーヴァントには、虎視眈々ときみを狙っているものもいるだろう。だからきみは、そういう輩に機会を作らせないためにも、日頃から言動には気をつけなくてはいけない。わかったね?」


「わ、わかった……ごめんなさい」


 確かに、寝惚けてよくわからないまま返事をしてしまったのはよくなかったと思う。怒られて当然だ。反省しなければ。


「うむ! わかればよろしい!」


 それまでの真剣さが嘘のように、モリアーティはいつものテンションに戻った。ああ、よかった。ほっとする。


「えーっと、じゃあ、そろそろ離してほしいんだけど……」


「――いや、それはできないな」


「え」


 予想外の返答に、緩みかけていた体がふたたび緊張する。いつものテンションではない、さっきまでとも違う声色と表情。


 この声と顔には覚えがある。ああ、これは――。


「軽率な言動がどのような結果を生むか、これから私が教えてしんぜよう」


 この楽しそうな声と顔は。


「では、特別授業を始めるとしようか――マスター君?」


 悪い事を考えている時の顔だ――!!